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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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61話 魔獣の姿

 学校の図書室で魔獣が載っている本を探し、テーブルの上で広げる。

 

『へぇ~。魔獣って、侵された魔力の量によって姿が違うんだな。魔力が少量の場合は、目が四つになるぐらいの変化だって』


 ユウが指したイラストを見ると、確かに兎の姿をしているけど目が四つもある。


 これが、兎が魔獣化した時の姿なんだ。


『目の部分が空洞? えっ、目がないって事か?』


 ユウがイラストの兎をジッと見つめる。


「えっ、こっわ」


 目がないなんて、知りたくなかったよ。


『兎のイラストだけじゃよくわからないな。でも、目がないってことは見えていないのかな?』


『いや、見えてはいる』


 ユウの呟きにオルガトが答える。


『目がないのに?』


『あぁ、そう教わったよ。魔力が強すぎて目が潰れるそうだ。でも、なぜか見えていることが研究でわかったんだ』


『そうなんだ。さらに多くの魔力に侵されると、目が六つに! これは多いな。あと、なんだか随分と痩せているな』


 ユウが次のページのイラストを見て、眉間に皺を寄せた。そのページには、目が六つあり、あばらが浮き出るほど痩せている犬の、魔獣化した姿が描かれていた。


 この魔獣、さっきの兎よりさらに不気味になっているね。


『魔力が体中に行き渡って変化したせいみたいだ』


 オルガトが説明を読むと、私とユウを見た。


『あれ? 痩せている原因は知らなかったのか?』


『うん。俺が勉強していた時は、痩せている原因はまだわかっていなかったから』


『へぇ、そうなんだ』


「痩せているから、弱く見えるね」


 不気味だけど、見た目はあまり強そうに見えない。


『そんな事はないぞ。その姿だから弱く見えるけど、実はとても強いんだ。ベテランの上位冒険者でも、少し手こずるようなクラスだからな』


 えっ、蹴ったら折れそうな体なのに?


『マジで? 簡単に骨が折れそうな体なのに?』


『うん。簡単に折れそうに見えるけど、実際は折れないんだ。剣でも、かなり力を込めないと切れないし』


 そうなんだ。魔獣は見た目で判断しちゃダメみたいだね。


『最後は、完全体? たくさん魔力に侵された時に、奇跡的に生まれる魔獣みたいだな』


 ユウが次のページを開けると、変わり果てた魔獣が載っていた。


「かなり不気味だね」


 目は七つになり、もう痩せているというより、体の六割くらいが黒い骨に変わっていて、黒い炎を纏っていた。


『七つ目にできた目には、注意が必要? 数秒間、視線が合うと体の動きが制限される?』


『魔眼と呼ばれるものだ。魔獣によって違うけど、足に力が入らなくなったり、意識が混濁したり、恐怖が増して動けなくなったり。つまり精神攻撃を受けるんだよ』


 オルガトの答えに、ユウの瞳がキラキラ輝く。


『魔眼! 精神攻撃! すごい!』


『えっ?』


 オルガトは急に興奮し始めたユウを見て、引いた。そして、私を見てユウを指さしながら、小声で「大丈夫なのか?」と聞いてきた。


「治らない病気だから、気にしなくていいよ」


 もし病名を付けるなら、「異世界理想興奮病」かな。そのままだけど、ほかにいい名前が思いつかないんだよね。だって、ユウの理想の異世界が実際にあると知って興奮しているんだから。


 オルガトは私の答えを聞いて、複雑な表情でユウを見る。


『ユウ。魔獣の魔眼は危険だからな』


『んっ? あぁ、すごいよな』


 オルガトの注意に、ユウは笑って頷く。


『わかってないな。まぁ、そのクラスの魔獣はほとんど生まれないから、まず出会う事もないし』


「ほとんど生まれない? あぁだから、奇跡的に生まれる魔獣って書いてあったのか」


『そう。そのクラスの魔獣が生まれる時は、魔物もいる時が多いみたいだ』


 つまり魔王が関係してるって事か。いろいろなところで魔王が出てくるな。


『リーナ、そろそろ時間じゃないか?』


 オルガトの言葉を聞いて時計を見てから、慌てて本を閉じる。


『あぁ、まだ読んでいたかったのに!』


「授業があるからダメ」


 急いで本を本棚に戻し、教室へ向かう。

 

『それでリーナ、魔獣の姿を知って怖くなくなった?』


 私の隣を飛びながら、オルガトが聞いてくる。


「全然」


 誰よ、敵を知れば怖くなくなるって言ったのは! 知っちゃったせいで、ランサ森になんて絶対行く気なくなったんだけど!


 教室に戻って、薬草の勉強をする。冒険者になったら、薬草採取の仕事もたまにあるみたいだから、しっかり覚えておこう。


 授業が終わり暫くすると、お兄ちゃんたちが教室まで迎えに来てくれた。


「リーナ、今日はどうする?」


「今日はお兄ちゃんたちが魔法の練習するのを見ようと思ってる」


 早く帰ると、お母さんに刺繍を勧められそうだからね


「わかった。それなら一緒にショーじいのところに行こう」


「うん」


 お兄ちゃん、カリアス、タグアスと一緒に学校を出て、ショーじいの家に向かう。

 

「アグスに聞いたんだけど、冒険者になるんだって?」


「うん」


 タグアスの質問にうなずくと、彼は少し羨ましそうな表情を浮かべた。


「冒険者になりたいの?」


「うん。俺、リットンさんみたいな冒険者になりたいんだ」


 えっ……! それって、魔獣とか魔物と戦うほうの冒険者?


「すごく大変な仕事みたいだけど大丈夫?」


「もちろん。でも、リットンさんたちがすごく頼もしかったから。あんな人になりたいなって思ってさ」


「そうなんだ」


 人を危険から助ける人になりたいって事かな。


「だから冒険者になりたいんだけど、反対されちゃって……」


「誰が反対をしているの?」


 私が首を傾げてタグアスを見ると、彼は少し困った表情をした。


「お世話になっているおばさん。助けてもらっているのに、我儘は言えないよ」


「それは、違うんじゃないかな」


 私の言葉に、タグアスは私に視線を向けた。


「冒険者になる事は簡単みたいだけど、タグアスがなりたい冒険者になるには、すごく大変だってことはわかってるんだよね?」


「うん。リットンさんたちと一緒にいる時に、冒険者がどれだけ大変なのか聞いた。体力もとにかく必要だし、いろんな知識も身につけないといけないから勉強ももっと頑張らないとダメだし。あと、これは冒険者になって認められてからなんだけど、貴族と関わる事になるから礼儀も勉強しないとダメみたいなんだ」


 すごいな。ユウの話を聞いて、冒険者は強ければいいものだと思ってたけど、現実は違うみたい。


「それを覚悟して、冒険者になりたいって思ったんだよね?」


「もちろん」


「だったら、我儘ではないと思う」


「そうかな?」


「うん」


 夢を追うことは、我儘じゃないと思う。ただ、その夢が周りをひどく傷つけるものだったら別だけど。


「どうしたらいいかな?」


「おばさんと何度も何度も話し合うしかないと思う。そうだ、どうして冒険者になりたいのか話した?」


 私の質問に、タグアスは首を横に振った。


「どうして大変なほうの冒険者になりたいのか、自分がどんな大人になりたいのか伝えたほうがいいと思う」


 私の話を聞いて、タグアスは少し考えている様子だった。


「俺のなりたい大人か。そっか、わかった。リーナ、ありがとう。伝えてみるよ」


「うん。頑張ってね」


「もちろん。わかってもらうまで話すよ」


 タグアスが気合を入れるように拳を作ると、前を歩いていたカリアスがチラッとタグアスを見た。そして、私を見て笑うと「ありがとう」と声を出さずに言った。


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