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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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60話 冒険者の仕事とは?

「リーナ。冒険者になるかは、急いで決める必要はないからな」


 私の宣言に、お父さんは少し焦った様子を見せた。


「大丈夫、ちゃんと考えて決めたから」


 私の様子を見たお父さんとお母さんは、少し困ったような顔をした。

 

 どうしてそんな表情をするんだろう? 冒険者になるように勧めたのは、お父さんたちだよね?


「えっと、冒険者になった方がいいんだよね?」


「もちろん、そうなんだけど。そんなに早く決めると思っていなかったから、冒険者登録の書類を一組しかもらってきていないんだ」


 あっ、それで困っていたのね。


 お父さんが本棚の一番上から封筒を取り出し、テーブルに置いた。


「リーナ」


「何? お兄ちゃん」


 お兄ちゃんはテーブルの上にある書類を私の方へと寄せて、私を見た。


「この書類は、リーナが使ったらいいよ。俺は冒険者ギルドでもう一組もらってくるから」


「アグス。お父さんが、明日もう一組もらってくるから、明日リーナと一緒に記入したらどうだ?」


 お父さんが、お兄ちゃんを見る。


「うん。お兄ちゃん、そうしよう」


「そうだね。お父さん、明日よろしく」


「了解」


『リーナが冒険者か。剣か弓、どっちの訓練をするんだ?』


 どうして剣と弓の二択なんだろう? 他にも武器はあるよね?


「お父さん」


「どうした?」


 お父さんが、不思議そうに私を見る。


「私は、どんな武器がいいと思う?」


「んっ?」


 私の質問に、お父さんは眉間に皺を寄せ首を傾げた。


「どうして、そんな質問を? それに武器が欲しかったのか?」


 あれ?

 

『なんだ? なんか、リグスの反応が変じゃないか?』


 お父さんの反応を見て、ユウは私をじっと見つめた。


『ユウ。冒険者になったからと言って、全員が武器を持って魔物とか魔獣と戦う訳じゃないぞ。ランカ村だと、草むしりとか家の大掃除の手伝いとか野菜の収穫とか。とりあえず武器を必要としない依頼の方が多いはずだ』


 そうなんだ。ユウから聞いた話で、私は冒険者は武器を持って戦うのが主な仕事だと思っていた。


『うっそ~。えっ、まじ? 冒険者になるのに、魔物とか魔獣とは戦わないのか?』


「リーナ」


 お母さんが心配そうに私を見る。


「もしかしてリーナは、魔獣や魔物と戦う冒険者になりたいの? あれは、とても大変な仕事だから、もの凄く頑張らないといけないんだけど」


 これは、ユウの話を鵜呑みにしてしまった私の失敗だね。


「ごめん、冒険者の事がよくわかっていなかったみたい。この村では、どんな依頼が多いの?」


 私の言葉に、お父さんもお母さんもホッとした表情を浮かべる。


「そうね。一番多いのは、この村は少し年配の方が多いから、家事のお手伝いをする依頼だと思うわ。次は庭の草むしりで、野菜や果物を収穫する時季になったら、収穫のお手伝いの依頼も増えると聞いたわ」


『まさか、本当にオルガトの言う通りなのか! え~、せっかく冒険者になったのに戦わないなんて!』


 お母さんの説明を聞きながら、頭を抱えて叫ぶユウに、私はそっとため息を吐いた。


「そっか。それぐらいなら、今の私にもできそう」


「まぁ、それぐらいしか仕事がないから、この村の冒険者ギルドはずっと小規模なんだけどな」


 お父さんが笑いながら話すと、お母さんも微笑みながら頷いた。


『森が近いのに、魔物とか魔獣は出ないのか?』


 ユウがテーブルに手を着いてお父さんに向かって叫ぶ。


『だからそんな事をしても、ユウの姿はリーナにしか見えていないって』


『そんな事はわかってるよ! 気分の問題だ』


 オルガトのツッコミに、ユウが不貞腐れたような表情を浮かべる。ユウの態度には呆れるけど、魔物や魔獣については私も気になる。


「ランサ森には、魔物や魔獣はいないの?」


「魔物なんて、めったに現れたりしないわよ。ただ、魔王の復活が近くなると、魔物が増えると言われているわね」


「そうなんだ」


 お母さんの説明に頷くと、チラッとユウを見る。ユウは、納得いかない様子でお母さんを見つめていた。


「魔獣ならランサ森にいるけど、ここ十年ほどは目撃したという噂も聞かないな」


「十年も? だったら、ランサ森から魔獣は消えたのかな?」


 お父さんの説明に、お兄ちゃんが首を傾げる。


「目撃情報はないけど、鳴き声を聞いたという人はいるから、消えたと思うのは危険だと思うわよ」


 お兄ちゃんの言葉に、お母さんが首を横に振る。


「鳴き声は聞こえたんだ」


「えぇ、そうよ。でもその鳴き声、聞いた人によれば、かなり苦しそうだったらしいの」


「苦しそう?」


 お母さんの説明に、お兄ちゃんは不思議そうな表情を浮かべた。


「えぇ、そう聞いたわ。冒険者ギルドもその鳴き声が気になったのか、一度調査してくれたのよ。でも、原因は突き止められなかったわ」


「苦しそうな鳴き声は、最近も聞こえるの?」


「どうかしら。リグスは知っている?」


 私の質問に、お母さんがお父さんを見る。


「ランサ森の近くに住んでいる同僚から聞いたんだけど、最近も聞こえてくるらしいぞ。しかも、少しずつ鳴き声が大きくなっている気がするとも言っていたな」


 えっ、鳴き声が大きくなってるの? それって、何か危険では? というか、ランサ森の洞窟に行かなきゃいけないんだけど、大丈夫かな?


『ランサ森に住む魔獣に異変とか、ちょっとワクワクしないか?』


 するわけないでしょ! その異変が起こっている森に行くつもりなんだから。はぁ、ランサ森を調べてから契約をしたら良かった。


「そうなの? その話は知らなかったわ。怖いわね」


「そうだな」


 不安そうにお母さんが呟くと、お父さんはお母さんの手に自分の手を重ねる。


『リグスもカーナも、仲がいいよな』


『そうだな、羨ましい。俺の両親は、本当に不仲で言い争いが絶えなかったからな』


 ユウの呟きにオルガトも頷く。


「冒険者ギルドは、もう一度調査をしてくれないかしら」


「鳴き声の変化に気づいた同僚が、冒険者ギルドに相談しようか迷っていたから、相談するように言っておくよ。ランサ森の近くに住んでいる者が訴えたら、話ぐらいは聞くだろうから」


「そうね、お願い。あら、スーナがもう眠っちゃってるわ」


 お母さんの視線を追うと、ソファの上で気持ちよさそうに眠るスーナがいた。


「もう、寝る時間ね。アグスとリーナは、順番にお風呂に入って寝なさい」


 お母さんはスーナを抱き上げると、お兄ちゃんと私を見た。


「「はい」」


 リビングを出ると、一緒に出てきたお兄ちゃんが私を見る。


「冒険者になったら、ルドークさんに会えるかな?」


 私たちを守ってくれたルドークさんか。


「会ったら、冒険者になりましたって挨拶に行こう」


「それはいいな。先にお風呂に入っていいぞ」


「ありがとう」


 お兄ちゃんと別れて部屋に戻り、お風呂の準備をしながら呟く。


「ランサ森の魔獣か」


 チラッと空中にいるオルガトを見る。

 

「しょうがない。契約しちゃったし」


 ユウはワクワクすると言ったけど、前の世界にはいなかった魔獣。そんなものと、関わりあいたくない! だって、怖いでしょ! 魔獣だよ? どんな姿をしているのかわからないけど、名前からして怖そうじゃない。


「あっ、姿を知らないから怖く感じるのかも。学校でちょっと調べてみようかな」


 実際に姿を見たら、「あれ?」と思うかもしれないよね。……逆に、ランサ森に行く事がもっと嫌になるかもしれないけど。


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