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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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59話 冒険者になる

 お父さんは呪いに掛けられたせいだと思ったのか、申し訳なさそうな表情で私を見た。

 

「ごめんな、リーナ」


「お父さんのせいじゃないでしょ? だから謝らないで」


 本当は私のほうが謝らなきゃいけないのに。私がリーナの体に憑依したせいだから……。


「お父さんもお母さんも、魔法が使えないくらいで、そんな暗い顔していたらダメだよ」


 お兄ちゃんを見ると、少し困った表情をしていた。


「アグス」


 お父さんがお兄ちゃんを見ると、小さく笑って頷いた。


「そうだな。リーナは、魔法が使えなくてつらくないか?」


「まったく、つらくないよ」


 もともと魔法が使えない環境で生きてきたからね。まぁ、魔法が使えたら、それはそれで楽しかっただろう。だけど、使えないんだから。くよくよしたって、魔法が使えるようになるわけじゃないし。だったら、現実をさっさと受け入れて、魔法の練習に使っていた時間を他のことに使ったほうが有意義だよね。


『俺はつらい。魔法チートを楽しみたかった!』


『魔法チート? どんな魔法だ?』


 ユウとオルガトの会話に呆れながら、お父さんに笑顔を見せる。


「そうか。それなら良かった」


 お父さんとお母さんがホッとした表情になったので、私もホッとした。


「リーナは、アグスが魔法の練習をしている間、どうするつもりなの?」


 お母さんが少し心配そうに私を見る。


「それはまだ考え中」


「リーナのやりたい事が見つかるまで一緒に探そうか?」


 お兄ちゃんは本当に優しい。でも、ここで甘えたらダメだよね。


「お兄ちゃんは魔法の練習をしてほしい。それで魔法が使えるようになったら、私に見せて。お願い」


 こう言っておけば、お兄ちゃんが私のために魔法の練習を中断する事はないはず。


「俺の魔法?」


「うん。お兄ちゃんの魔法。そうだ、お父さんやお母さんより先に見せて」


「わかった。魔法が使えるようになったら、すぐに言うね。でも、すごい魔法じゃないと思うよ?」


「いいよ。すごい魔法じゃなくても、お兄ちゃんの魔法だもん」


 お兄ちゃんが、魔法の練習を中断しないようにするために言った事だけど、最初の頃の魔法ってどんなものなんだろう? ちょっと楽しみかも。


「わかった。リーナに凄いって言ってもらえるように頑張るよ」


 お父さんとお母さんが、微笑ましそうに私とお兄ちゃんを見る。


「そうだ、リーナ。刺繍はどうかしら?」


 刺繍? お母さんが仕事にしているあれだよね。


「ムリ」


 お母さんが作業しているのを見た事があるけど、あんな細かい事は私にはムリだよ。本来の私はかなり、いや、ちょっと不器用だから。自分の手に、何度も針を刺してしまいそうな気がする。


「カーナ、リーナはちょっと不器用なところがあるから、それは難しいんじゃないかな?」


 あれ? 今のお父さんの言い方だと、本来のリーナも不器用だったのかな? だったら、絶対に刺繍はムリだね。


「あっ、そうだったわね。針に糸を通すだけで……ふふっ」


 お母さんはその時の事を思い出したのか、楽しそうに笑い出す。


 えっ、何があったの? というか、針に糸を通すぐらいなら出来ると思うけど。……時間さえいただければ。


「あぁ、あの時か」


 お兄ちゃんまで笑い出した。

 

 本当に何があったんだろう? リーナ、思い出して……えっ、針が飛んでいったの? どうしたら、そんな事になるの?


「大丈夫よ、リーナ。あなたに出来る事はまだたくさんあるから」


「うん、そうだね」


 針が飛んでいった事を思い出して少しショックを受けていたら、お母さんがあわてて慰めてくれた。そんなに悲しそうな表情でもしていたのかな?


「そうだ。アグスとリーナに提案があったんだ」


 お父さんが、私とお兄ちゃんを見る。


「二人とも、冒険者ギルドに登録して、少し冒険者として活動をしておかないか?」


「「冒険者?」」


 お父さんの思いがけない提案に、お兄ちゃんと顔を見合わせた。


「どうして?」


 お兄ちゃんがお父さんに聞くと、お父さんは困った表情をした。


「今回、貴族に目を付けられただろう?」


「「うん」」


「俺に親しい冒険者がいたら、呪いを掛けられる事を回避できたかもしれないんだ」


 えっ? どういう事?


『あれ? この世界は、貴族より冒険者に力があるのか?』


 ユウが不思議そうな表情でお父さんを見る。


「冒険者たちは、独自のネットワークを持っているそうなんだ。だから、貴族に目を付けられたとわかった時、親しい冒険者に相談すれば対応してくれたかもしれないんだ」


「それは、冒険者ギルドではダメなの?」


 お父さんの説明を聞いたお兄ちゃんが首を傾げる。


「この村の冒険者ギルドは規模がとても小さくて、バーガル子爵家から補助を受けていたそうだ。だから、バーガル子爵家の関係者に目を付けられたと相談しても、対応してくれなかった。最終的に、金も引き出せなくなっていたしな」


 補助金を減らされたり、なくされたりしたら困るから対応しなかったんだろうな。


「でも冒険者に知り合いがいたら、ランカ村以外の冒険者ギルドに相談出来たと思うんだ。貴族でも冒険者たちに目を付けられたら大変だからな」


 へぇ、冒険者って結構な力があるんだね。


「お父さんは、冒険者ギルドから仕事の依頼を受けていたよね? その時に、知り合った冒険者はいなかったの?」


 仕事をもらいに行くときに、顔見知りの冒険者くらいはできそうなのに。


「俺が仕事の依頼を受けていたのは、冒険者ギルドからとなっているけど、本当は商業ギルドからなんだ」


「商業ギルド?」


 冒険者ギルドではなくて?


「そう。別の場所では、冒険者ギルドと商業ギルドは別々にあるんだけど、ランカ村では二つを支えられるほどお金に余裕がないため冒険者ギルドしかないんだ。商業ギルドは冒険者ギルドの中にある部署扱いになる。だから、依頼は冒険者ギルドからという事になっているんだよ。冒険者ギルドの建物の横に、小さな建物があるのを覚えてるかな?」


「「うん」」


「そこが商業ギルドの依頼を確認する場所なんだ。だから冒険者と知り合う機会はほとんどないんだよ」


 もしかして、ランカ村ってすごく貧しい村なのかな?


『地図を見たけど、ランカ村って王都からものすごく離れた辺鄙な場所だもんな』


 ユウの言葉に学校で見た地図を思い出し、「確かに」と頷く。


『昔はもっと人も少なくて、なんというか……さびれた村って感じだったんだよな』


 オルガトがいた時よりマシだね、良かった。


「それに、今回の事で思い知ったんだ。ずっと平穏に生きられる事はないって。俺とカーナが、三人をずっと守るつもりだった。でも、明日俺もカーナも死ぬかもしれない。だから、個々で冒険者と知り合っておいた方がいいと考えたんだ。俺とカーナに何かあっても大丈夫なように」


「もしもの時を考えて、冒険者として登録して知り合いを作っておくって事だね」


 お兄ちゃんが納得した表情で頷くと、お父さんが心配そうに私を見る。


「リーナはまだ五歳だから、まだ登録は先でもいいと思うけど、考えてみてくれないか?」


「うん、わかった」

 

 冒険者か。魔法を使えないけど大丈夫なのかな?


『リーナは魔法を使えないから、剣か弓か斧かな?』


 えっ、斧?


『ユウはバカなのか? あの細腕を見ろ! 斧なんて絶対にムリだろう』


 オルガトが呆れたようにユウを見る。


『ちょっと言ってみただけだろ!』


 ユウとオルガトに小さくため息を吐きながら、これからについて考えてみる。

 

 お父さんと一緒で、私も平穏に生きたい。でも貴族がいる世界だから、また目を付けられるかもしれない。その時に、今のままでは何もできないんだよね。お父さんが言うように、貴族に対応できるようなコネを、自分を守るためにも作っておかないと。


「うん、冒険者になる」


 今の私にできる事だと思うし。


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