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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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55話 見えるユーレイと見えないユーレイ

「そ……」


 危ない。思わず、いつものようにユウに話しかけてしまいそうになった。


「リーナ、どうしたの?」


 お兄ちゃんが不思議そうに私を見るので、私は苦笑いしながら首を横に振った。


「なんでもない。どうして貴族の馬車が、家の前に停まっているんだろうね。フォガスさんは、わかりますか?」


 フォガスさんを見ると、少し考えてから私とお兄ちゃんを見た。


「おそらくバーガル子爵家が起こした問題の賠償金などを届けに来たのだと思います」


『あぁ、だからあんな大金の入った袋をリーナたちの親に渡していたのか』


 フォガスさんの話を聞いたオルガトが納得した様子で頷く。


『そんなに大金だったのか?』


『えっ? ユウは見てなかったのか? テーブルの上に置いてあった袋の中身、あれ全部金貨だったんだぞ』


「あのフォガスさん」


 お兄ちゃんが少し戸惑った様子で、フォガスさんを呼んだ。


「はい、なんでしょうか」


「あの問題の賠償金だったら、バーガル子爵家から支払われましたよね? どうしてアーオス伯爵家からも賠償金が出るんですか?」


 バーガル子爵家の全員が捕まったから、家や家財を売ったお金で賠償金が支払われたんだよね。


「おそらく監督不行届かんとくふゆきとどきだからだと思います」


「監督不行届?」


 聞きなれない言葉にお兄ちゃんが首を傾げる。


「アーオス伯爵家は、ランサ村の管理をバーガル子爵家に任命した以上、彼らが正しく仕事をしているか監督しなければなりません。今回起こった問題は、きちんと監督していれば防げたはずです。だから監督不行届と判断され、アーオス伯爵家は被害者に賠償金を払う義務が生じたのだと思います」


 フォガスさんの説明にお兄ちゃんは、少し考えてから頷いた。


「わかりました。教えてくれて、ありがとうございます」


「お兄ちゃん、家に帰る? あの馬車が帰るまで待つ?」


 私としては、外で待っていたいんだけどな。どうやら、お金を届けに来た人たちの中に、首に紐を巻いている人がいるみたいだから。


『リーナ、首に紐を巻いた者も放置するのか?』


 いや、私にどうしろと?


 そもそも、首に紐なんて巻いている人に関わりたくない。でも、あの問題の賠償金か……。


『なぁユウ。首に紐ってなんなんだ?』


『はぁ? ソファに座ってたあの男だよ。他よりちょっと着飾っていた男! あの男の首に紐がぐるぐる巻きになっていただろう?』


 オルガトの疑問に、不思議そうな表情で答えるユウ。でも、ユウの答えを聞いたオルガトは首を傾げた。


『首に紐? そんな物はなかったぞ』


『えっ? 首に何重にも紐が巻かれてただろ? 見えなかったのか?』


 オルガトの反応にユウの顔色が少し悪くなる。


『えっと……俺には見えなかったけど……』


『リーナ! リーナは見えるよな? えっ、俺の目がおかしくなっているのか?』


 ユウが私の肩を掴もうとするのでサッと避ける。


『リーナ』


 私の態度に泣きそうな表情を浮かべるユウ。


 でも仕方ないでしょう? もし私の体が変に動いたら、絶対に怖いから!

 

「リーナは怖かったら、フォガスさんと一緒に外で待ってて。俺は、話を聞きたいから家に入るよ」


『リーナ! お願い、紐があるかないかだけでも確認してくれ!』


 私はお兄ちゃんの手をそっと握った。


「私も一緒に帰る」


 ユウのお願いを無視したら、ずっとやかましそうだし。それに、あの問題の賠償金のことなら、やっぱり私も話を聞いておきたい。


「怖くない?」


「お兄ちゃんがいるから大丈夫だよ」


 お兄ちゃんは、ユウとはまた違った安心感をくれる存在なんだよね。

 

「俺も一緒に行っていいですか?」


 フォガスさんの提案に、お兄ちゃんがホッとした表情を浮かべた。


「フォガスさんが一緒だと安心です。お願いします」


 家の前に停まっている馬車の隣を通ると、御者ぎょしゃと目が合い、彼は慌てて頭を下げた。


「すみません。邪魔でしたね」


「いえ、大丈夫です」


 フォガスさんが私たちと御者の間に入って、にこやかに対応してくれた。フォガスさんの後ろからその様子を見つつ、今まで馬車で隠れて見えなかった騎士服姿の4人に目を向けた。


「護衛かな?」


「うん、そうだと思う」


 私が小声でお兄ちゃんに尋ねると、お兄ちゃんは騎士服姿の4人に目を向けて頷いた。


『リーナ、さっきは気づかなかったけど、一番右にいる男! あの男の首にも紐が巻かれていないか?』


 ユウの言葉を聞いて、チラッと一番右にいる男性へ視線を向けた。


 あっ、本当に紐を巻いてる。


『オルガトはどうだ? 右の男の首だ。見えない?』


『ん~悪い。ユウが何を見ているのかわからない』


 ユウが真剣な表情でオルガトに問うと、彼は困惑した様子で首を横に振った。


『マジか……』


 オルガトの返答に茫然としたユウは、パッと私を見た。


『リーナは? リーナは見えるよな?』


 必死な表情で問うてくるユウに、私は小さく頷く。


『良かった~』


『えっ、リーナにも見えるのか? どうして俺には見えないんだ?』


 ユウがホッとした表情で呟くと、隣にいるオルガトがなぜか悲壮な表情になった。


『人の首に見えない紐なんて! 面白そうだったから見たかった! 首に紐かぁ……首輪みたいに見えるのか?』


 首輪? いや、紐が細すぎて首輪には見えないかな。


「「ただいま」」


 家に入ると、フォガスさんと一緒にリビングへ行く。


「おかえり、今はお客様がいらっしゃっているから静かにね」


 お母さんがソファから立ち上がると、私たちの傍に来る。そして、私たちの後ろからリビングに入ってきたフォガスさんを見て、ホッとした表情を浮かべた。


「急にお邪魔して、申し訳ありません」


 フォガスさんはお母さんに深く頭を下げてから、ソファに座っている2人に視線を向けた。


「フォガスさん? なぜ、ここに?」


 お父さんが不思議そうな表情でフォガスさんを見る。


「アグス殿とリーナ殿を家に送って来たところ、貴族の使用する馬車が見えたので、何かあったのかと様子を見に来ました」


「そうだったんですか」


「それで、彼らはどなたですか?」


 フォガスさんがソファに座っている1人の男性を見る。


「彼は、アーオス伯爵家の当主補佐をしていらっしゃる、チャルト・オートス・タンリガ子爵様です。この間の問題の賠償金を持って来てくれたんです」


 お父さんはソファから立ち上がると、こちらに来る。


『リーナ、彼の首……すごくないか?』


 ユウの言う通り、チャルト・オートス・タンリガ子爵という人物の首はすごい事になっていた。一体何本の紐が巻き付いているのかわからないくらい、たくさんの紐がぐるぐると巻かれている。


『オルガト、あの男の首にある紐も見えないのか?』


『うん。俺には何も見えない』


 ユウとオルガトが、戸惑った表情で紐をぐるぐると巻き付けているチャルト・オートス・タンリガ子爵を見る。


「フォガスさん」


「はい。なんでしょうか?」


 フォガスさんの傍に来たお父さんが、小さな声で名前を呼ぶと彼も声を小さくした。


「アーオス伯爵家から賠償金をいただけるみたいなんですけど、これは普通の事なんでしょうか? バーガル子爵家から既に賠償金は貰っているんですけど」


 お父さんの質問を聞いたフォガスさんは、少し驚いた表情を浮かべたあとで頷いた。


「今回の問題は、アーオス伯爵家の監督不行届が原因ですので、賠償金を貰う事は普通の事です」


「そうだったんですね。急にお越しになったので、どう対応すればよいのかわからず、フォガスさんが来てくださって本当に助かりました」


 お父さんの話を聞いたフォガスさんは、かすかに表情を曇らせたが、すぐに微笑んでお父さんの肩に手を置いた。


「貴族への対応は慣れていないでしょうから、俺も一緒に話を聞いていいでしょうか?」


「はい。お願いします」


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