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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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48話 男性のユーレイはオルガト

 場所はわかった。そして、大人の助けが必要なことも。これを踏まえて、契約内容を考えないとダメだよね。


『リーナ、誰に協力してもらうんだ?』


 ユウの質問に、私と関係のある大人を思い浮かべる。


 両親には、ランサ森に行くなら許可をもらわないといけないから相談はするけど、「ユーレイにお願いされたから」とは、話せないよね。やっぱり今回も精霊のせいにしておく?


 この世界に本当に精霊がいるなら、いつか精霊に呪われそうだよね。

 

 あとは、冒険者のルドークさんと教会の護衛騎士フォガスさんにキーフェさん。彼らに協力してもらうにしても……やっぱり精霊のせいにするしかないよね?いや、彼らに協力をお願いする場合は、まず精霊が見えると勘違いさせることから始めないといけないのか。


 あ~、どうしたらいいんだろう。


『リーナ? 大丈夫?』


 心配そうに私を覗き込むユウに目を向ける。


 私のことがユーレイにバレたのは、ユウのせいだよね。でも、まぁ……怒ったところで手遅れだからね。そう、手遅れ。でも……。


「ユウ」


 せめて注意くらいはしておかないと、気がすまない。


『何?』


 緊張した面持ちで私を見るユウ。


「次にユーレイを見ても騒がないで! 目が合っても叫ばないこと! わかった?」


 なぜか怯えた表情でユウが何度も頷く。

 

『こわっ』


 えっ?


 ユーレイを見ると、さっきまで傍にいたのに、今はなぜか壁際に下がっていた。


 そういえば、このユーレイ。太ももあたりまで服が見える。という事は、今のユウと同じ霊力レベル二かな?


 あれ?


 ユーレイになった時って、だいたい霊力レベル一からだよね。まれに魂が強い力を持っているせいで、ユーレイになった時から霊力レベルが一以上になる人もいるけど。でも、そんなことは本当に珍しくて、めったに起きない。ユウと初めて会った時は霊力レベル五だったけど、あれは無視して。だから、たぶんこのユーレイも最初は霊力レベル一だったはず。


 ユウみたいに短期間で霊力レベルが上がることは、ほとんどない。つまり、霊力レベルが二に上がっているという事は、このユーレイは死んでからそれなりの時間が経っているという事になる。

 

「ねぇ、一つ確認したい事があるんだけど」


 彼が、すごく昔に亡くなっている場合。地形が変わっていたり、自然現象の中で洞窟が失われているかもしれない。その場合、どんなに探しても洞窟が見つからない事だってある。契約には、洞窟が見つからなかった場合についても入れておこう。


『なんでしょうか?』


 あれ? 丁寧な話し方になった? それに、どうして怯えた表情をしているんだろう?


「……名前は?」


 名前を聞いてなかったな。


『オルガト・チャル。47歳。魔石の研究者をしています』


『いや、そこまでは聞いてないぞ』


 ユウの突っ込みに、つい頷いてしまう。


 あれ、今彼はチャルと言った? つまり、キーフェさんと同じ村の出身なんだ。


「オルガト、あなたいつ死んだの?」


『えっ!』


 オルガトが驚いた表情で私を見る。


「いつ? いつ、殺されたの?」


 オルガトをジッと見つめると、彼は首を傾げた。


『えっと……ん~? 仲間に魔石は絶対にあると宣言したのが、確か一三三四年で、その二年後だから一三三六年だと思います』

 

 一三三六年?


「今は一四九三年だから、一五七年前!」


 やっぱり、かなり時間が経ってるんだね。


『えっ、一五七年前? 俺が殺されてから、もう一五〇年もすぎているのか?』


 一五〇年もすぎている事に衝撃を受けたのか、オルガトが顔を両手で押さえてその場に崩れ落ちる。


『どうしたんだ?』


 ユウの質問に、悲しげな表情のオルガトが顔を上げる。


『一五〇年も経っていたら、あの場所にはもう……もう、ないのか?』


 そう、一五〇年も経っていたら、すでにほかの人が魔石を見つけているかもしれないし、洞窟自体が崩れてしまっている可能性もある。長い年月って、本当にいろいろなことを変えてしまうからね。

 

『魔石は、長い時間を掛けて結晶化するのに、なぜか同じ月日を掛けて魔素に戻ってしまうんだ』


 えっ、魔素に戻るの? つまり、洞窟には魔石がないのかも。


『いや、でももしかするとまだ成長している可能性だってある!』


 あぁ、魔素に戻らずに、むしろ結晶がもっと成長している可能性もあるんだ。


「洞窟が何らかの自然現象で崩れ落ちている可能性もあるからね」


 私の言葉に考え込んだオルガトは、真剣な表情で私を見る。


『それなら一日も早く洞窟へ行きたい』


「あ~、契約しようね」


 契約内容をしっかり考えないと。


『その契約を交わしたら、洞窟へ行ってくれるんだな』


「時期はまだ未定だけどね」


『なぜ?』


「ユウも言ったでしょう? 私は子供で、ランサ森へ行くには大人の協力者が必要になるって。そして、オルガトが見える事は、誰にも言えない事だからよ」


 ここはしっかり理解させた方がいいよね。


『どうして言えないんだ? あれ? そういえば、どうして俺と話せるんだ? 今まで、俺の事に気付いた者はいなかったのに』


 えっ、ユーレイなのにそういうことに気づくんだ。 ユーレイは目の前の出来事をそのまま受け止めるだけで、普通はあまり疑問に思わないんだよね。


「私が霊力持ちだからよ。そして、そんな力を持っている者はすごく珍しいの」


『へぇ。なんだかすごくリーナを研究したくなってきたよ』


 オルガトが興味津々で私を見る。まるで面白い研究対象を見る目だ。

 

 なんだか、ちょっと嫌な気分になるな。


『こら、凝視するな』


『ごめん。こんな面白い研究対象が目の前にあると、ちょっと気持ちが高ぶって』


 どうやらオルガトは根っからの研究者みたいだね。もしかして洞窟へ行くまで、この視線にさらされるのかな?


『だから見るなって!』


 ユウがオルガトの目を手で隠す。


『今のオルガト、まるで変質者みたいだぞ』


『えっ、まさか!』


『いや、本当。目つきがやばい』


 ユウの言葉に頷いていると、オルガトがショックを受けていた。でも、本当のことだから、放っておこう。


 とりあえず、オルガトと交わす契約内容を考えよう。


 まず重要なのは、日程を決めない事だよね。えっと「子供の私が協力者を得て、洞窟へ行けるようになるまで大人しく待つ」ことを約束してもらおう。他には「洞窟がなかった場合、速やかに旅立つ」とか? そうだ「私の生活を脅かすような行動はしない。寝ている時は起こさない」も入れておこう。オルガトの要望は「洞窟へ行く」でいいかな? 「洞窟へ入る」と約束してしまうと、もし洞窟が崩れていた場合に約束を守れなかったことになってしまうから。


『リーナ?』


「どうしたの?」


 あれ? オルガトの顔色が悪いけど大丈夫なのかな?


『契約内容は決まった?』


 私が契約内容を考えていた事をわかっていたんだ。


「うん」


 そうだ。私からの要望は何にしよう。

 

「あっ、オルガトは魔法に詳しい?」


 魔法の練習が上手くいってないから、研究者の目から見てどうしたらいいか教えてもらおう。


『えっ? 魔法はちょっとだけ研究した事があるけど』


 ちょっとか。でも、今は少しでも助言が欲しい。


「私、今、魔法の練習をしているんだけど上手くいっていないの。練習を見て助言が欲しい。出来る?」


『それぐらいだったら大丈夫だ』


 よしっ。


「それじゃ」


 オルガトの前に手を差し出す。


「私の手に、オルガトの手を乗せて」


『わかった』


 手のひらに、ヒンヤリとしたオルガトの手が重なる。


「私、リーナ・ランカはオルガト・チャルと契約する。オルガトも同じように言って」


『俺、オルガト・チャルはリーナ・ランカと契約する』


「私リーナは『オルガトを洞窟へ連れて行く』と約束する。ただし『子供の私が協力者を得て、洞窟へ行けるようになる時まで大人しく待つ事』を条件とする。大人しく待つには『私の生活を脅かすような行動はしない。寝ている時は起こさない』を含む。また『洞窟がなかった場合は速やかに私の下から旅立つ』と約束する。オルガト、これでいいですか? 『はい』か『いいえ』で答えて下さい」


 私の条件を聞いて、少し首を傾げるオルガト。でも、少し考えたあと私を見て頷いた。


『はい。次は俺だな。俺オルガトは、「リーナの魔法の練習に対して助言を行う」と約束する。リーナ、これでいいですか?』


「はい。では、契約をする」

 

 オルガトの手に向かって私の霊力を流すと、重なった私の手とオルガトの手が緑色の淡い光に包まれた。そして光が消えると、二人の手の甲には契約の印が残った。


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