46話 見えてる?
「「ただいま」」
カリアスたちと別れて家に帰ると、おいしそうな匂いがした。
「お腹が空いたね、お兄ちゃん」
「そうだね。魔法の練習を頑張っているからだね」
「うん」
魔力を動かす練習を始めると、お兄ちゃんは両親に、魔法の練習を本格的に始めたことを報告した。どうやら、魔力を動かす練習を始めるのが、魔法の練習の第一歩とされているらしい。
その日から、魔法の練習がある日はお兄ちゃんの夕飯の量が増えた。そして私も、魔力を動かす練習を始めると夕飯の量が増えた。
『最初は夕飯の量に驚いたけど、食べ切るんだもんな』
そう。お兄ちゃんの前に並んだご飯の量に驚いたけど、今では同じ量を食べているんだよね。魔力を動かすことが、こんなに体力を消耗してお腹が空くものだとは知らなかった。
「どう? 魔法の練習は上手くいっているの?」
夕飯を食べたあと、リビングでのんびりしているとお母さんが心配そうに聞いた。
「今日、初めて魔力を動かす事ができたよ」
「そうか。動かせたのか、おめでとう」
お父さんが嬉しそうに笑うと、お兄ちゃんも同じように笑った。
「リーナはどうなの?」
「私はまだまだだと思う。動く気配もしなくて」
「そうなの? リーナはすぐにできるかと思ったわ」
お母さんの言葉に、私とお兄ちゃんは首を傾げる。
「どうして、そう思うの?」
「リーナって、小さい頃に魔法を使った事があるのよ」
「えっ?」
『リーナの隠れた才能か?』
お母さんが知っているんだから、「隠れた才能」ってわけじゃないと思うよ。
「リーナの二歳の誕生日にケーキを作ったんだけど、リーナってば本当に嬉しかったのね」
お母さんの話は気になるけど、なんだか恥ずかしい話になりそう。
「ケーキを前にはしゃいで、ケーキに手を突っ込んじゃったのよ」
やっぱり!
楽しそうに話すお母さん。お父さんも思い出したのか、とても楽しそうな顔で笑っている。
『うわっ。見てみたかった』
絶対にイヤ!
「リーナは、崩れたケーキと汚れた手を見て大泣きしたの。でも、手がべたべたするのが嫌だったのか、泣き止んで手を目の前で振ったのよ。するとクリーン魔法が発動して、手がきれいになったの」
「そうそう。あれを見た時は驚いたよな。まだ魔法を習っていないリーナが魔法を使うから」
お母さんの話にうなずくと、お父さんも会話に加わった。
「魔法を習っていないのに、使えるものなの?」
お兄ちゃんが不思議そうに私を見る。それに私は、首を横に振った。
小さい頃のことだから、さすがに本当のリーナも覚えていないみたい。
「魔法を習う前に、魔法を使う子は稀にいるのよ。でも意識して使ったわけではないから、使い続ける事はできないの」
『そうなんだ。使い続けられたら、いろいろな事ができて楽しかっただろうな』
お母さんの説明に、ユウが残念そうに呟く。私は、使えなくてよかったと思っているけどね。何事も、普通が一番だよ。
「小さい時に無意識に魔法を使った子は、魔法の習得が早いと聞く。だからリーナがすぐに魔法が使えるようになるさ」
お父さんが私の頭を撫でる。
本当に魔法を使えるようになるのかな?
魔力を捉える事はできたけど、その先はまったくできる気がしないんだよね。だって、お兄ちゃんもカリアスたちも、魔力を動かせなくても動きは感じたって言ってた。でも私は、それを感じることができていない。
『リーナ、明日からも頑張ろうな』
ユウの応援を聞きながら、お父さんを見る。
「頑張るね」
みんなを信じて頑張るしかないよね。
お風呂に入り、自分の部屋に戻る。
『リーナ、今日も勉強をするのか?』
「するよ。ユウには負けてられないからね」
ユウより文字を覚えていないなんて、絶対にイヤ!
勉強机に向かい、文字の練習を始める。最初の頃より、きれいに書けるようになったと思う。でも、線の位置を逆に書いたり、点を付ける位置が違ったり。小さなミスが多いから、それを減らしたい。
『リーナ。今の文字は、点の位置が間違っていないか?』
「えっ、本当?」
またやってしまったの?
「本当だ。右じゃなくて左だった」
しっかり位置を覚えておかないとダメだね。
「よし、文字の練習はおしまい。あとは――」
『え~、まだ勉強するのか? 遊ぼうよ』
「遊ぶと言っても、もう夜だよ」
空中で文句を言っているユウに、呆れた表情を向ける。
『だって、最近は魔法の練習でまったく遊んでくれないし』
いや、魔法の練習をする前だって、ユウと遊んだ記憶はないんだけど。
「何がしたいの?」
『…………んっ?』
何も考えていなかったな。
『最近の話をしよう』
ユウを見て首を傾げる。
ずっと一緒にいるから、改まって話をする事はないと思うけど。
『あ~、リーナの行動は全て見ているから、話を聞く必要はないのか!』
そうだよね。
文字の練習のあとで読もうと思っていた本を見る。
また明日でもいいか。
「ユウ」
『何?』
不貞腐れた表情をしていたのに、私が呼ぶとパッと明るくなる。その変化に、つい笑ってしまう。
『えっ? 急に笑い出してどうしたんだ?』
「なんでもないよ。それより、最近の調子はどう? 不満を強く感じたり、不安になる時間が増えたりしていない?」
空中に浮かんでいるユウと向き合う。
『不満? 不安?』
私の質問に不思議そうな表情をするユウ。そんな彼の様子を見て、問題なさそうだとわかり、少しホッとする。
この二つの感情が強くなると、自分の感情が押さえられなくなる。だから、この質問をするのは実は怖かった。でも、ユウはまだ大丈夫みたいだからよかった。
『こんな状態だから不満はあるけど、仕方ないと思ってるよ』
少し寂しそうに話すユウを見る。
『日本のホラー映画とか結構好きで見てたけど、まさか俺が怖がらせる方になるなんてな』
ユウの性格から、怖がらせる事はないと思うな。どちらかといえば、コメディ映画の方が似合いそうだよね。
『リーナは本物が見えるから、ホラー映画は見ないか』
「見ないわね。どれが役者のユーレイで、どれが本物のユーレイかわからなくなるから」
『……んっ?』
不思議そうに私を見るユウに笑いかける。
「ユーレイたちは、自分たちの事を話題にしていたりすると興味を惹かれるの。だから、ユーレイを題材にしたホラー映画を撮っているところでは、本物のユーレイが集まりやすいのよ」
『もしかして映画の中に写り込んでいるのか?』
「そうよ。それも一人や二人ではなく沢山ね」
ユーレイに驚くシーンを見たことがあるけど、その驚いた役者の隣にずっと本物のユーレイが寄り添っているの。そっちが気になって、ストーリーなんて追えないわよ。
『そうなんだ。見えなくて良かった』
少し顔色を悪くしたユウに視線を向ける。
「ユウはユーレイが苦手なの?」
『偽物だとわかっていたから楽しめたんだと思う』
「そう」
まぁ、そういう人は多いわ。映画にしても、お化け屋敷にしても、本物じゃないとわかっているから楽しめるのよね。
『おかしいよな』
ユウの呟きに視線を向ける。
「何が?」
『ユーレイなのに、ユーレイが怖いかもしれないなんて』
フィリアと初めて会った時も、ユウは悲鳴を上げたよね。
「そういうユーレイはいるから、気にしなくていいわよ」
ユウがフィリアに初めて会ったときは、彼の態度に驚いた。でも、「ユーレイを怖がるユーレイがいる」と教えてもらった話を思い出したんだよね。
『俺みたいに、ユーレイを怖がるユーレイ?』
「そう」
私が頷くと、少しほっとした表情をするユウ。
「でも、なるべく悲鳴を上げないようにね。相手に興味を惹かれると面倒だから」
『わかった』
頷くユウを見て、少し安心する。
あれ? ユウがズボンをはいている。といっても、太ももあたりまでしか見えないけど。
えっ、どうして? 今までは腰のあたりまでしか見えていなかったのに。もしかして……ユウの霊力レベルが上がったの?
コツン。
窓から小さな音が聞こえた。
『ひぃいいぃぃぃ~』
えっ? 窓の方を凝視するユウの視線を追う。
「あっ」
『えっ……俺のこと、見えてる?』
しまった。ユーレイと視線が合ってしまった。
「私が殺したユーレイは今日もやかましい」を読んで頂きありがとうございます。
本日の更新で「第1章 私を殺したユーレイと、一緒です。」が完結いたしました。
すみません、第2章に入る前に少しお休みをいただきます。
更新を再開いたしましたら、またリーナたちをよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




