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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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42話 女神さまに願う

 お母さんが用意してくれた花を持って家の外に出る。


「リーナが好きだった花は、緑のヒマリだったんだな」


 お父さんが、私が持っている花を見て呟く。


 ヒマリは、前の世界で夏に咲いていたヒマワリにそっくりだった。


『緑のヒマワリみたいだな。見慣れない色だから、不思議な感じがするけど』


 ユウが私の傍に来て花を見る。

 

「綺麗な花だよね。家族の花だとリーナは思っていたみたい」


 緑のヒマリを見て、家族の瞳の色に似ているから家族の花だと思っていたことを思い出した。


「家族? あぁ、瞳の色か」


 お兄ちゃんが、花の色と私たちの瞳の色が似ていることに気づいて頷いた。


「そう言えば、似ているわね」


 お母さんもお父さんの瞳の色を見て頷き、花に触れながら優しげに微笑んだ。


「そろそろ火を点けるぞ」


 リーナの思い出話をしていると、お父さんが祈りの木と緑のヒマリに火を点けた。燃え上がる花と祈りの木を見ていると、お母さんが泣いている事に気づいた。それを見て、申し訳ない気持ちになる。


 空を見上げる。夕方とは違って、雲ひとつない満天の星空が広がっている。


「これだけ晴れていたら、女神さまに俺たちの声はしっかり届きそうだね」


 お兄ちゃんがそう言うと、胸の前に手を組んで目を閉じる。私もお兄ちゃんと同じように、胸の前で手を組み、目を閉じた。


 リーナ、女神さまのもとで幸せになってね。そして、もし次があるなら、今度こそ幸せに長生きしてね。女神さま、どうかリーナをよろしくお願いします。


 目を開けて、満天の星空を見上げる。


「綺麗だね」


 お兄ちゃんの言葉に頷く。

 

『これだけ晴れているんだから、みんなの願いは女神さまに絶対届くよな』


 そうだね。絶対に、届くはずだよね。


「そろそろ家の中に入ろうか」


 お父さんが火の始末を終えると、私とお兄ちゃんに声を掛けた。


「「うん」」


『あ~! リーナ! リーナ! リーナが! リーナが!』


 ユウの叫び声に、思わずこぼれそうになったため息をこらえて、後ろにいるはずのユウを振り返る。


『あそこ! あそこ!』


「えっ」


 ユウが必死に何かを指さすので、その先に目を向けると、寂しそうにこちらを見ているリーナがいた。リーナは私の視線に気づくと、かすかに微笑み、やがて無数の小さな光となって消えていった。


 少し冷たい風が吹く。


『リーナ、上にペガサスが来てる』


 上空を見上げると、ユウの言う通り、美しい翼を持つ真っ白な馬が見えた。


「リーナ? どうしたの?」


 お兄ちゃんが不思議そうに私を見る。

 

「なんでもない。家に入ろう」


 良かった。呪いで亡くなったからリーナがどうなったのか不安だったけど、リーナはいてくれた。そして今日、無事に女神さまのところへ行く事ができたんだ。


「あれ? でもずっとどこにいたんだろう?」


 お兄ちゃんと別れて部屋に戻り、首を傾げる。


『リーナは、こんな近くにいたんだな』


「そう、こんなに近くにいたのに、今までリーナを見た事はなかったよね?」


『うん、ない。家の周辺を上空から見た事が何度かあるけど、一度もリーナの姿は見なかった』


 ユウも首を傾げて、窓から外を見る。


『他にもユーレイがいないか見てくる』


「えっ? なんのために?」


 それは必要ないよね。というか、他のユーレイとか面倒事になりそうな存在にユウを近づけたくないんだけど。


『なんのため? なんとなく?』


「行かなくていい」


 ユウの答えに、思わずため息を吐く。


『え~、ちょっと見て来るだけ。向こうからは気づかせないようにするからさ!』


 そう言うと、ユウは窓を通り抜けて外へ出ていった。


「ちょっと待って」


 窓を開けて外を見ると、なぜか窓の傍にたたずむユウがいた。


「ユウ どうしたの?」


 外なので、小さな声でユウを呼ぶ。


『リーナの傍から、また少ししか離れられなくなっているみたいだ』


「えっ? でも、ある程度の距離は離れても大丈夫になっていたよね?」


『うん。でも、窓の外に出ると見えないけど壁みたいなのにぶつかった。でもリーナが窓を開けると、その壁がなくなった。おそらく、少し離れたところに見えないけど壁があると思う』


 確か最初の頃も、ユウは私からある一定の距離しか離れられなかったよね? フィリアの問題に関わったあとぐらいから、少し遠くまで離れる事ができるようになっていたけど。


『はぁ、自由に飛び回れると思ったのに』


 残念そうに肩を落とすユウ。

 

「とりあえず、家に入って」


 ここでユウと話していると、ずっと独り言を呟いているように見える。周りには誰もいないと思うけど、もしもいたら不審に思われそう。


『うん』


 落ち込んだ様子のユウが部屋に入ってきたので、私は窓を閉め、さらにカーテンも閉めた。そして、空中でしょんぼりしているユウを見上げる。


「えっと」


 こういう時は、なんて声をかければいいんだろう。「離れられなくて残念だったね」とか? いや、なんか違うな。


『あぁあ~』


「うわっ、何? どうしたの?」


 急に叫ばないでよ!


『離れられる時に、もっと飛び回って自由を満喫しておくんだった』


 悔しそうなユウを見つめる。


「そろそろ、寝ようかな」


 あれなら、放っておいても大丈夫そうだ。うん。


『俺が悲しんでいるのに放置するのか? あっ、そんな事より、リーナに確認したい事があったんだった』


 急に確認したい事?


「何?」


『教会の絵を見て、自分が悪霊かもしれないとビビったけど、キーフェの話から俺は悪霊じゃないって思っていいんだよな? 魔王になんて会った事はないし』


 キーフェさんの話から考えると、魔王に会っていないからユウは悪霊じゃないはず。というか、こんなに元気な悪霊なんていないよね。キーフェさんの話だと、悪霊は恨みにとらわれたユーレイみたいな存在らしいし。


「たぶん」

 

 でも絶対に違う存在だとは、私には言えない。


『たぶん?』


 この世界では、ユーレイが全て悪霊と呼ばれている可能性があるんだよね。その場合は、ユウも悪霊という事になる。


「ユーレイと悪霊が別物として考えられていれば、ユウはただのユーレイ。でもユーレイという存在が全て悪霊だと思われていたら?」


『俺も悪霊……か』


「そうなるんだよね」


 やっぱり、しばらくはユウの存在を誰にも言えないな。それに、ユウのことがバレないように、私も気をつけて行動しないと。つい、ユウの言葉に反応しちゃうから。


『俺が悪霊。悪霊だったら……』


 なんだか、余計なことを考えてしまっている気がする。


『なんらかの力があってもいいと思わないか?』


 やっぱり。


「人に呪いを使わせるように、そそのかす力が欲しいの?」


『えっ?』


 驚いた表情で私を見るユウ。


「だって、この世界の悪霊は人に呪いを使わせるようにそそのかすんでしょう? キーフェさんが言っていたじゃない」


『そんな力はいらん! もっと別の、あ~例えば……』


 悩み込みユウを見る。


「そこまで悩む事かな?」


『欲しい力がいろいろあって選べない』


 いや、欲しい力を言ったところで手に入るわけじゃないんだから、選ぶ必要なんてないと思う。


『鑑定魔法も欲しいし、アイテムボックスも捨てがたい。あと、身体強化とか心眼とかもいいよな』


 ユーレイの身体強化? ユーレイには体がないんだけど……?


『あと、転移魔法! これがあればどこにでも自由に行ける』


 私から離れられないから、転移魔法があっても使えないと思うよ。


『あ~、俺……今はユーレイじゃないか! しかもリーナから離れられない……そんな』


 本当に寝よう。明日も学校があるから。


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