表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
43/87

41話 魔王と悪霊

『リーナ!』


 イヤな予感がする。


『たぶん、魔結晶って乙女ゲームに出てきた重要なアイテムだと思う。あ~、でもどの乙女ゲームだったかな?』


 チラッとユウを見ると、興奮しているのか部屋中をくるくると飛び回っている。

 

 あれに関わると面倒なことになりそうだ。うん、放っておこう。


「最近の体調はどうですか?」


 キーフェさんが心配げに私を見る。


「大丈夫です」


 あの日から体調に問題はいっさいない。首にあった呪いの痕も、フォガスさんがくれた薬のおかげでずいぶん薄くなった。


「それなら良かったです。そうだ、隣の祈りの部屋も見ますか?」


「そっちのステンドグラスも修繕が終わったんですか?」


「はい。この祈りの部屋と同じ日に終わりました」


 確か祈りの部屋は三つあって、それぞれデザインの違うステンドグラスが使われていたよね。

 

「見てもいいなら、見たいです」


「どうぞ」


 キーフェさんと一緒に部屋を出ると、ユウが慌てて飛び出してきた。


『待って! 置いていかれると、ちょっとこの部屋はイヤだ』


 ユウの言葉に、チラッと視線を向ける。さっきまでいつも通りだったのに、どうしたんだろう? 何かあったのかな?


「リーナ殿? どうかしましたか?」


 しまった。ユウの言葉が気になって、立ち止まっていた。それに、キーフェさんから見たら、何もない空間を見つめている変な子に思われてしまうはず。


「なんでもないです」


 何事もなかったかのように、急いでキーフェさんのそばに行く。


「そうですか? あっ、壁のヒビは数日後には綺麗になりますよ」


 えっ?


 キーフェさんの視線を追うと、壁にヒビが入っているのが見えた。


 もしかして壁のヒビを気にしていると思われたのかな?


「そうなんですね。安心しました」


 全力でキーフェさんの話に乗っかろう。

 

「リグス殿は仕事が丁寧ですからね。ヒビを見逃すはずありません」


 お父さんが褒められるのは嬉しいな。


 キーフェさんと二つ目の祈りの部屋に入る。先ほどとは色合いの異なるステンドグラスに、思わず息を呑む。最初に見たステンドグラスは赤が多く使われていたけど、目の前のステンドグラスは青が多く使われていて、まったく印象が違う。


「すごく綺麗ですね。私は、こっちの方が好きです」


 私の感想に、キーフェさんがやさしく微笑んだ。


「そうでしたか。もう一つある祈りの部屋のステンドグラスは緑が多いんですよ。まだ修繕が出来ていないのですけどね」


 残念そうに話すキーフェさんに、私も頷いた。


『げっ』


 はぁ、ユウ……。


『リーナ! リーナ! 悪霊が……人の魂か? それを食ってる?』


 えっ?


 ユウを探すと、部屋に飾られている絵の前にいた。そして、嫌そうに顔をしかめながら、その絵をじっと見つめている。


「祈りの部屋にある絵は全て悪霊について描かれています。それは、悪霊に落ちないように注意するためです」


 私の視線を追ったキーフェさんが、絵について教えてくれた。


「悪霊に落ちないようにですか」


 ユウが嫌そうに見ていた絵を、私も見る。

 

「これは何をしているんですか?」


 悪霊と思われる怖い顔をしたユーレイが、倒れた人から何かを取り出している。そして、その取り出したものを……ユウが言ったように、食べているように見える。


 えっ、ユーレイがユーレイを食べるの? そんな事は聞いた事がない。つまり、悪霊と呼ばれている存在は、ユーレイとは違うのかもしれない。


「悪霊にそそのかされ人を呪った穢れた魂は、悪霊の糧になると言われています。だから我々は悪霊に力をつけさせないために、穢れた魂を浄化して消滅させるのです」


 護衛騎士が魂を消滅させるの?


 前の世界では、魂の消滅なんて死神に罰を食らう可能性があるから、ほとんど誰もしないのに。でも、この世界では護衛騎士が魂を消滅させることが許されているんだ。


 というか、穢れた魂が悪霊の糧になるということは、この絵の通りに口から魂を食べているってことなのかな?


『俺はもっとうまい物が食べたい!』


「……」


 気にするところは、そこじゃないでしょう。そもそも、ユウは悪霊ではない……はず。


「悪霊は凄く怖い存在なんですね」


「はい、そうです。ですから、人を恨み続けることがないように生きなければなりません。」


「人を恨み続けると、悪霊になるんですか?」


「亡くなったときに、他者を強く恨んでいると魔王に目を付けられ、悪霊にされると言われています」


 魔王についてまだ詳しく勉強していないけど、数百年前に封印されたらしい。そしてその封印は今もまだ破られていないはず。


「だったら今は安心ですね。悪霊にする魔王が封印されているから」


「えっ、はい。そうですね」


 ん? キーフェさんの態度が、少しだけいつもと違う。もしかして「魔王」に反応したのかな?


『なぁ、今のこいつの様子は少し変じゃないか?』


 ユウも気づいたんだ。


『魔王に魔結晶……』


「キーフェさん、見せてくれてありがとうございました。そろそろお母さんが心配するので帰ります」


 そろそろ家に帰ったほうがいいよね。


「そうですか? では、お送りしますので、少しお待ちください」


「えっ? 外はまだ明るいので、一人で帰れますよ」


 近くの窓から外を見ると、まだ十分に明るい。


「明るいですが、何があるか分かりませんから」


 それはそうだけど。


「他の者に声をかけてきますので、教会の正面出入り口でお待ちください」


 去っていくキーフェさんを見送る。


『護衛騎士って真面目だよな』


 ユウのつぶやきに、思わず頷いてしまう。


 教会の正面出入り口でキーフェさんを待っていると、なぜかお父さんが私に手を振りながら近づいてくる。


「お父さん? 仕事は?」


「今日はもう終わりだ。だから一緒に帰ろう」


「嬉しい。でも、キーフェさんとここで待つ約束をしたんだけど」


 出入り口から教会の奥を見やる。


「それなら大丈夫だ。彼がリーナを家に送っていくと言いに来たから、俺が一緒に帰ると伝えたんだ」


「だったら大丈夫だね。あっ、キーフェさんだ」


 教会の奥から姿を見せたキーフェさんは、私を見ると手を振ってくれた。


「今日はありがとうございました」


 キーフェさんに向かって頭を下げると、彼はやさしげに微笑んだ。

 

「また遊びに来て下さいね。祈りの部屋にあるステンドグラスが修繕は二、三日後には終わるはずですから」


「はい。またお邪魔します」


 三つ目の祈りの部屋にある悪霊の絵も、ぜひ見てみたいからね。

 

「また明日」


 お父さんがキーフェさんに右手を上げて挨拶し、それから私を見る。


「帰ろうか」


「うん」


 お父さんと手をつないで家に向かう。


「そうだ。お昼にカーナが教会に来たんだけど」


 お母さんが教会に来たの?


「亡くなったリーナを弔う準備ができたそうだ」


「そうなんだ。それなら今日の夜だね」


 ようやく、本物のリーナを弔ってあげられる。

 

 呪いで亡くなった者の魂がどうなるのか、フォガスさんに聞いたけど「分からない」と言われた。その答えに驚いていると、いろいろな意見があって、まだまとまっていないらしい。ちょっと、女神さまは教えてくれないのかと考えてしまった。


「あぁ、そうだな」


 お父さんの手に、少しだけ力がこもる。


 問題が解決した翌日、私はお兄ちゃんに亡くなった方の弔う方法を聞いた。お兄ちゃんは少し不思議そうに首をかしげたけど、私が誰を弔いたいのか気づいてくれた。そして、家族みんなで弔ってあげようという話になり、お父さんとお母さんに相談した。


 お父さんはすぐに賛成してくれたけど、お母さんは戸惑った表情を見せ、少しだけ心の準備をする時間が欲しいと願った。

 

 目の前にリーナはいるのに、本物のリーナではない。お母さんの気持ちを聞いたあと、自分がとても残酷なことを言ってしまったと反省した。でも、弔いたい気持ちは消えない。だから、お母さんの気持ちが決まるまで待った。


 お父さんと家に向かいながら、空を見上げる。視線の先には、曇り空が広がっている。


「今日の夜は、晴れて欲しいね」


「そうだな」


 私の呟きに、お父さんが空を見る。


 個人で亡くなった方を弔う方法は、教会にある祈りの木と、生前に好きだった花を燃やして、亡くなった方の次の幸せを祈るのだそうだ。


 だから、今日は晴れて欲しい。女神さまに、本物のリーナの幸せを祈る声が、しっかり届いて欲しいから。


「私を殺したユーレイ」を読んで頂きありがとうございます。

タイトルを少し変えました。

書き進めていると違和感を覚えたので。

「私を殺したユーレイは今日もやかましい」です。

これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。


ほのぼのる500

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ