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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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37話 終わったね

 私とお兄ちゃんを呪った者が住むバーガル子爵家に来てみると、冒険者のような格好をした護衛騎士たちが、門を無理やりこじ開けて中に入ろうとしているところだった。


「無理矢理入っても、いいんですか?」


 お兄ちゃんが馬車の窓から、私たちの護衛をしているルドークさんに声をかける。


「今回は既に呪いを使った事がわかっているから問題ないんだよ。使った可能性があるという状態だと、ここまで無理矢理入る事はないと思うけど、どうなんだ?」


 ルドークさんが近くにいるフォガスさんを見ると、フォガスさんはその視線に気づいて頷いた。


「呪いを使った者を速やかに確保する。それが教会の役目なので、使った事がわかっている時は、強引に事を進めます」


 強引に進めても、呪いを使った者には許されるのか。それだけ、この世界では呪いを使うことが重い罪とされているんだね。


「ぎゃあぁぁああ」


「「えっ」」


 獣の唸り声のようなものが聞こえ、お兄ちゃんと顔を見合わせた。


「今のは、なんの鳴き声?」


 お兄ちゃんがバーガル子爵家を見て首を傾げる。


「わからない。でも、苦しそうな鳴き声だったね?」


『見てくる。待ってて』


 私とお兄ちゃんのそばにいたユウが、バーガル子爵家に向かって飛んでいった。それをちらっと見てから、ルドークさんを見る。


 あれ? ルドークさんがなんとも言えない表情をしている。何かあったのかな?


「どうしたんですか?」


 お兄ちゃんも気づいたのか、ルドークさんを心配そうに見る。


「いや、あの声は……」


「おそらく、呪いを使った者の声だと思います」


 ルドークさんが言いにくそうにすると、フォガスさんが代わりに説明してくれた。


「えっ。あれが人の声?」


 お兄ちゃんが驚いた声を上げ、私も頷いた。


『いた! 変なのがいた!』


 ユウが慌てた様子で私のもとに飛んでくる。そして、その勢いのまま馬車の周りをくるくると飛び回りながら話し始めた。


『人の姿だけど、獣みたいに唸ってるし皮膚も変だったし。特に目が全部黒くて怖かった!』


「呪いを使った者は、成功しても失敗しても女神さまから見捨てられて、姿が変わり言葉も奪われるんです」


「そうなんですか? 成功しても?」


 フォガスさんの説明にお兄ちゃんが首を傾げる。


「はい」


『言葉を奪われたから、獣みたいに「ウーウー」と唸ったり、時々叫んだりしていたんだ。しかも、鎖につながれていたけど暴れ回るから、ガチャガチャとうるさかったし。とにかく異様な姿で、本当に怖かった。ひぃ、夢に見そう』


 ユウが私のそばに来て、腕をさすった。


 そんなに怖かったんだ。というか、寝れないから夢は見ないよ。


『あれ? 司教が部屋に来た。見てくる!』


 怖かったんじゃないの? それなのに見に行くの?

 

 興味津々で飛んでいくユウを見ていると、お兄ちゃんが私を見る。

 

「リーナ。どうしたの?」


「なんでもない。怖いなって思って」


「大丈夫だよ。司教もいるし、護衛騎士たちもこれだけいるから、もう君たちが襲われる事はないよ」


 ルドークさんが私たちを安心させるように言ったので、私は笑って頷いた。


『ぎゃ~~』


 えぇ~。


 悲鳴を上げて戻ってくるユウを見る。ユーレイなのに、顔色が悪くなっている。


 いったい何を見たんだろう?


『首ちょんぱ! ころころって……怖かったぁ~、あれ?』


 首ちょんぱ? 首……あっ、あぁ、なるほど。それは、ユウみたいに悲鳴を上げて逃げてくるね。


『リーナ。首を切ったらすごく出血するものだよな?』


 それは、すごく出血するはずだね。


『なんでだろう? 全く血が出てなかった』


 えっ、首を切られたのに出血しなかったの? もしかして、女神さまに見捨てられた者は魔物になるのかな? でも、魔物でも出血はするよね?


『気になる。でも、首がころころ。でも、気になる! やっぱり見てくる』


 これが「怖いもの見たさ」ってやつか。去っていくユウを見て、小さくため息を吐いた。


 次は何を見て逃げて来るのか。


「大丈夫か?」


「あっ。はい」


 しまった。ユウの話に気を取られて、フォガスさんたちを無視してしまった。もしかして、何か聞かれていたのかな?


「リーナは、少し疲れただけだよね」


 お兄ちゃんが微笑みながら、私の頭を撫でてくれる。


 んっ? 疲れた?


「まだ幼いのに、こんなことに巻き込まれてしまって」


 フォガスさんの言葉にルドークさんが頷く。


「あと少しで日常に戻れるからな」


 よくわからないけど、とりあえず笑って頷いておこう。


「あっ、出てきた」


 ルドークさんの視線を追うと、アルテト司教が建物の中から出てきた。


「窓が光ってる」


 お兄ちゃんが指さす窓を見ると、確かに白い光が窓から漏れていた。


「あれは、浄化の光です。呪った者が確保され、その者がいた部屋とその周辺に浄化の魔法を掛けているのです」


 フォガスさんの説明を聞いて、お兄ちゃんは興味津々で光の見える窓を見る。


「浄化をしたって事は、『もう大丈夫ですよ』って事だな」


 ルドークさんがホッとした様子で私とお兄ちゃんを見る。


「そっか。本当に終わったんだ、リーナ」


 お兄ちゃんが嬉しそうに笑って私を見る。


「うん。終わったね。お兄ちゃん」


 ユウが戻ってこないのは、浄化の様子を見ているからかな。戻ってきたら、また騒ぎそう。


『リーナー』


 うわっ、来た。あれ? 今、アルテト司教に睨まれた?


「リーナ、アルテト司教がどうしたの?」


 お兄ちゃんが心配そうに、私の視線の先を見る。


「大丈夫。気のせいだったみたい」


 すぐに視線が逸れたから、たぶん見間違いだよね。彼に睨まれるようなことをした覚えはないし。


『リーナ。護衛騎士ってすごいな。手から淡い光を出すと、部屋中がキラキラと白く光ってた』

 

 浄化だね。


『気になったから、キラキラする部屋に入ってみたんだけど』


 えっ、入ったの?


 慌ててユウを見る。


『あれはダメだね。俺と相性が悪いみたい。部屋に入った瞬間、ドンと体が重くなったからビックリしたよ』


 ユウの全身を見てみるが、特にさっきと変わった様子はない。


『リーナも気を付けたほうがいいよ。あの光は綺麗だけど、危険だから』


 それはユウがユーレイだからでは? あっ、憑依した私にも影響があったりするのかな? うん、ユウが言った通り、危険かもしれないから近づかないようにしよう。


「何かあったみたいだな」


 ルドークさんが少し緊張した声を出したので、私はその視線を追う。


「本当だ、護衛騎士たちが一斉に動き出した」


 お兄ちゃんが、四方に散らばっていく護衛騎士たちを見て呟く。


「何があったのか聞いて来ます」


 フォガスさんがルドークさんにそう言うと、近くにいた護衛騎士に声をかけた。しばらくして、神妙な表情のフォガスさんが戻ってきた。


「アルテト司教が、誰かの気配を感じたようで、その者を探しているみたいです」


「探すという事は、いい気配ではなかったんだろうな」


 ルドークさんを見て頷くフォガスさん。


「まだ、何かあるのかな?」


 お兄ちゃんが、周りを見る。


「大丈夫だよ。皆がいてくれるから」


 お兄ちゃんの手を握ると、ギュッと少しだけ力が籠った。


『俺も探してくる』


 ユウが、護衛騎士たちがいるほうへ飛んでいく。数分後に戻って来たユウは、私を見て首を横に振った。


『誰もいなかった。空から周りを全部見たけど、逃げていく人もいなかった』


 アルテト司教の気のせいだったのかな? 音を出さずに「ありがとう」とユウに伝えると、彼は笑って頷く。


「離しなさい! 私をどこへ連れて行くつもり? 私を誰だと思っているのよ!」


 建物の方から騒がしい女性の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、私たちを脅していた女性がいた。その後ろには、顔色の悪い牧師もいる。


「あれは誰だろう?」


 お兄ちゃんが、二人の後ろを歩いている小太りの男性を指さす。


「誰だろうね?」


 見たことはないけど、前にいる女性とよく似ているな。


「あれはバーガル子爵家の現当主、リズガ・バーガル・ランカだ。あの父親も問題があったけど、子どももダメだったな」


 ルドークさんが呆れた表情で三人を見る。


「あっ、あいつ等は!」


 女性が私とお兄ちゃんに気づくと、すごい形相で睨んできた。


「怖い顔だね。そうだ。アグス君、リーナちゃん。彼らに、にこやかに笑って手を振ってあげよう」


「「えっ?」」


 お兄ちゃんと一緒に驚いた表情でルドークさんを見る。


「仕返しだよ。ほら」


 ルドークさんが笑いながら、騒いでいる女性に向かって手を振る。私とお兄ちゃんも顔を見合わせて頷き、女性に向かって笑顔で手を振った。


「くそが、覚えていろ! 戻って来たら殺しあが」


 女性を無理やり歩かせていた護衛騎士が、呆れた表情で女性の口に布を巻き、ため息を吐きながら引っ張るようにして連れて行く。


「大丈夫です。彼らが、この村に戻ってくる事は二度とありませんから」


 フォガスさんが女性を見送った後、私たちに向かって微笑んだ。


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