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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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36話 リーナという少女

―アルテト司教視点―


 バーガル子爵家の屋敷を出ると、窓から白い光が漏れていた。おそらくフォンが聖なる力で浄化を行っているのでしょう。あの部屋にいた者たちの中で、最も聖なる力が強いのはフォンですから。


「お疲れ様です。無事に終わったようですね」


 護衛騎士のアスータに視線を向けて頷くと、彼はホッとした表情を浮かべた。


「何かありましたか?」


「いえ、特にありません。ただ、悲鳴のような、唸り声のような音がずっと聞こえていたので、心配になってしまいました」


 あぁ、フィスミリ・バーガル・ランカの声が外まで漏れていたのですね。


「ご心配いただきありがとうございます。ただ、問題の人物は鎖で繋がれていたので、討伐は簡単でしたよ」


 少し暴れましたが、あれくらいなら問題ありません。私に仕える護衛騎士たちは、精鋭ぞろいですから。

 

 ただ、首を切り落とした後も暴れたのは問題ですね。魔王の復活が近づき、呪いの力が強まっているからでしょうか。やはり早急に聖女さまを探さなければなりません。一度王都に戻り、捜索範囲を調整しましょう。


「もう大丈夫ですよ」


 聞き慣れない声に視線を向けると、馬車の窓越しに被害に遭った子供たちに声を掛けている冒険者の姿が見えた。


 確か、ルドークという名前だったでしょうか。


「子供たちの様子は問題なかったですか?」


 フィスミリ・バーガル・ランカの声が外まで聞こえていたようなので、子供たちは怖かったかもしれません。


「大丈夫です。冒険者のルドークとフォガスが声を掛けて落ち着かせていましたので」


「そうですか」


 馬車の窓から顔を出している可愛らしい女の子――名前はリーナ。彼女を見て、思わず眉間に微かなしわが寄る。


「どうしたんですか? あの子たちに何かあるのですか?」


 私の様子に気づいたアスータが、二人の子供たちを見る。


「いいえ、なんでもありません」


 首を横に振ってから、バーガル子爵家の屋敷を振り返る。


 あのリーナという子を見ると、なぜか不穏な印象を受ける。ただ、それほど強く感じるわけではなく、ほんのわずかに感じる程度ですが。

 

 最初に見たときは、少し警戒しました。呪いを受けたことで魂に影響が出たのかと思ったので。しかし、彼女と直接話してみると、最初に感じた不穏な気配はまったく感じなくなりました。だから安心していたのですが……今は、彼女から以前よりも強く感じます。


 気になり、彼女をもう一度確認します。


 おや? 彼女は何を見ているのでしょうか?


 彼女の視線につられて上を見上げると、きれいな空が広がっていた。

 

 きれいな空ですね。そういえば、最近は忙しくて空を見上げることもなかったかもしれません。


「アルテト司教。どうしましたか?」


「アスータ。空が綺麗ですよ」


 とても澄んだ青色をしています。


「えっ?」


 戸惑った様子のアスータを見る。


「なんですか?」


「いえ、普通の人のような事を言うのでビックリして」


 アスータの言葉に、思わずニッコリと微笑みます。


「『普通の人』ですか?」


「あっ。いえ、なんでもありません。浄化がいつ頃終わりそうなのか、確認をしてきます」


 アスータが逃げるようにバーガル子爵家の屋敷へ駆け込む。それを見送り、ため息を吐く。


「全く、彼は私をなんだと思っているのでしょうか」


 ぞくり。


「えっ?」


 恐怖を覚えるほどの強い力に、慌てて周囲を見回す。しかし、特に変わった様子はなかった。

 

 さっきと異なる点と言えば、子供たちが馬車から出てきた事ぐらいですよね。でも、子供たちから先ほど感じた……なんでしょう。


「体が震えるほどの強い力でしたが、あれは……」


 確かにその力を感じたのに、正体がわかりません。聖なる力ではない。しかし、呪いの力とも違っていた。ただわかるのは、あの力がとても危険だということです。


「どうかしましたか?」


 フォンの声に、思わず体がビクリとわずかに反応する。


「えっ?」


 私の様子に気づいたフォンが、わずかに目を見開く。


「この周辺に誰かが潜んでいないか調べて下さい」


「わかりました。見つけ次第捕まえますか?」


「いいえ。手を出してはいけません」


 もしも、私が感じた力の持ち主なら危険すぎます。


「私にすぐに知らせて下さい」


「わかりました」

 

 フォンが他の護衛騎士たちに指示を出すと、彼らはすぐに動き出した。それを見て、いつもなら安心するはずなのに、なぜか不安を感じる。


「正体不明の力。これも魔王の影響なのでしょうか?」


 女神さまから神託があり、魔王の復活が近いと知りました。その魔王と戦うためには、聖女さまだけが扱える神聖力が必要です。そのため、我々司教が聖女さまの捜索に当たっているのですが、聖女さまは見つかりません。女神さまの神託によれば、聖女さまは既に生まれているはずなのですが。


「アルテト司教」


 一人の護衛騎士が慌てた様子で私のもとへ駆け寄ってくる。


「どうしました? それに護送馬車はどうしましたか?」


 冒険者ギルドから借りてくるように指示を出していたはずですが。


「冒険者ギルドには、二台の護送馬車があるそうです。でも、どちらも使用されていてありませんでした」


 あっ、裏の仕事をしていた者たちが大量に捕まったのでしたね。彼らは広範囲で犯罪を行っていたため、大きな町で裁かれると聞きました。そんな彼らの護送に、二台とも使われてしまったのかもしれません。


「それなら、教会に行って下さい。教会には必ず、護送馬車がありますから」


 通常の犯罪とは異なり、女神さまを穢すような犯罪や呪いに関する犯罪の場合は、教会で裁かれます。特に呪いの場合は、すべて王都の教会で裁かれます。そのため、教会には王都まで犯罪者を護送するための馬車が必ず用意されているのです。


「教会は見てきましたが、ありませんでした」


「はっ?」


 教会に護送馬車がない?


「護送馬車があったと思われる場所はありました。でも大量の木材が積み上がっていただけで、護送馬車はありませんでした。教会の周辺も探してみましたが、ダメでした」


「はぁ」


 大きく一つため息を吐き、バーガル子爵家の屋敷に入る。そして、捕らえている牧師のもとへ向かう。


「アルテト司教」


 慌てた様子のフォンが駆けてきます。


「見つけましたか?」


「いえ、誰もいませんでした。人がいた痕跡もありません」


「そうですか」


 では、さっき感じた力はなんだったんでしょうか?

 気になりますが、まずは護送馬車を見つけなければなりません。


 バン。

 

 牧師が捕らえられている部屋の扉を勢いよく開けると、彼らを見張っていた護衛騎士が驚いた表情を浮かべていた。それに軽く頭を下げ、牧師に目を向ける。


「お前、護送馬車はどうしたのですか?」


 私を見てビクつく牧師に、思わずため息が漏れる。

 

「黙っていないで答えて下さい」


 牧師を睨みつけると、視線を逸らして首を横に振ります。


「護送馬車はどうしたんです?」


 先ほどより強い口調で問うと、牧師が震える。


「暖炉に……使いました」


「「「はっ?」」」


 私とフォン、それに彼らを見張っていた護衛騎士の声が重なる。


「お前、教会から支給された護送馬車を暖炉に使ったのか?」

 

 呆れた表情のフォンが、牧師に近付きます。


「はい、薪を買うお金がなかったので……つい」


「教会維持費、生活費等は支給されているはずですが」


「……」


 フォンの質問に無言になった牧師を見て、またため息が出る。


「どうしますか?」


 部屋の外から声がするので見ると、護送馬車を探していた護衛騎士がいた。


「そうですね。どうしましょうか」


 困った。彼らを王都に連れて行く必要があるのに、護送馬車がないなんて。


「隣の村の冒険者ギルドか教会に相談してみてはどうでしょうか?」


 フォンの言葉に、少し考えるが他に方法は思いつかない。


「そうですね。隣の村の冒険者ギルドにお願いしてみましょう。そこで無理なら教会で借りましょう。すぐに向かってもらえますか?」


 護送馬車の手配をお願いしてる護衛騎士を見る。


「わかりました」


 部屋の前から急いで立ち去る護衛騎士を見送り、牧師に視線を戻す。


「ひっ」


 私が怖い表情をしていたのだろう、牧師は小さな悲鳴を上げてうつむいた。


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