表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
37/87

35話 呪いを使った者の末路

―アルテト司教視点―


 視線を逸らしている牧師に目を向ける。


「必ずバレるようなウソをつくものではありませんよ。それに、どうするつもりだったんです? 『呪いを、呪った者に移せば元に戻る』なんて。姿を元に戻す事さえできないでしょうに」


 呪いを使った者が化け物と呼ばれるのは、見た目が変わるからです。その原因は、女神さまから見放されたからだと言われています。そう、女神さまから見放された者を、我々ごときが救う事は出来ません。


 まぁ、救う必要もありませんが。化け物になったのは、呪いを使ったせいなのですから。


「ゆる、さない。私を、だま、すなんて」


 フィラン・バーガル・ランカが牧師に向かってふらふらと歩み寄る。

 

「何が許さないだ! 俺は止めただろう。呪いはダメだと! 絶対にダメだと! 何度も、何度も! それなのに、お前のバカ娘は実行した!」


「私の娘をバカにしないで!」


「結婚先では、商売に必要な金で宝石を買いあさり、女を渡り歩くような男に引っかかって持参金をすべて貢ぎ、夫がいつか生まれる子供のためにと貯めていた金にまで手を付けた。こんなことをする女は、バカ以外の何者でもないだろう!」


 それはバカですね。まったくもって大バカです。


「うるさい! 娘は貴族なのよ! 平民ごときにバカにされるいわれはないわ!」


「お前の娘は平民と結婚したんだから平民だろうが!」


「私の娘は平民なんか、そんな卑しい存在ではないわ!」


 平民がいるからこそ、貴族であるあなたたちも生きていけるのですけどね。


「これ、いつまで見ていればいいと思います?」


 隣にいる護衛騎士のフォンに尋ねると、苦笑された。


「止めないと、止まらないと思いますよ」


「そうですね。でも、止めるのは面倒ですよね」


 バン。


「あぁ、フィラン・バーガル・ランカが牧師の顔を殴ってしまいましたね」


「何をする!」


 牧師が顔を真っ赤にして、フィラン・バーガル・ランカの胸元をつかむ。


「何をするの、放しなさい! 私を誰だと思っているのよ!」


 貴族の地位を失った平民以下の罪人ですね。


 フィラン・バーガル・ランカと牧師は、お互いの髪を引っ張り合い、罵り合う。


「あっ」


「どうしましたか?」


 フォンが私を見る。


「フィラン・バーガル・ランカは平民を卑しい存在と言っていました。では罪人はなんだと思います。平民より下の地位ですが」


「二人が取っ組み合う中で気になるのはそれですか?」


 呆れた表情を隠そうともしないフォンを見る。


「気になりませんか?」


「俺は、あれをいつ止めるのか、それが気になります」


 髪や服をつかみ合うフィラン・バーガル・ランカと牧師を見る。服は破れ、顔からは血がにじんでいる。


「確かに、このままではダメでしょうね。止めて下さい」


 面倒くさそうに言うと、フォンが周囲に合図を送る。すぐに護衛騎士たちが二人を押さえつけ、それぞれを縄で縛り、身動きが取れないようにした。


「放せ! こんな事をして許されると思っているの?」


「はい。もちろんです」


 フィラン・バーガル・ランカに笑顔でうなずくと、ギロッとにらみつけられた。牧師の方は、捕まったことで現状を思い出したのだろう。真っ青になり、視線をさまよわせている。


「さて、では行きましょうか」


 最大の問題がある場所へ向かう。


 フィラン・バーガル・ランカたちが暴れている間も、二階からは獣のような唸り声が聞こえていた。そのことから、最悪の状態かもしれないと小さく息を整える。


 護衛騎士を引き連れ二階に上がる。


「ダメ! 止めて!」


 フィラン・バーガル・ランカが悲壮な声を上げる。


「アルテト司教は後ろに下がって下さい」


 唸り声が聞こえる部屋の前に来ると、護衛騎士のルードスとタバロが私を守るように前に出た。そして、ルードスが扉をゆっくりと開けた。


「ぎゃあぁ、があぁぁ」


 ガチャン、ガチャン。


 唸り声がさらに大きくなり、金属がぶつかる音が聞こえてくる。

 

 ルードスとタバロが部屋の中に入ると、私もその後に続いて部屋へ入った。そして、呪いを使ったフィスミリ・バーガル・ランカの様子を確かめた。


「一応、危機感はあったみたいですね。鎖で繋いでいます」


 タバロの言葉に小さく笑ってしまう。


「自分が襲われる危機感ぐらいは、さすがにあるでしょう」


 私と一緒に部屋に入った護衛騎士たちの視線の先には、ベッドの上で暴れる女性がいた。その女性の両手首は鎖でぐるぐる巻きにされ、ベッドの柱に繋がれている。その状態で暴れるためか、両手首からは血が流れていた。

 

「ぎゃあぁぁ、ぎゃあぁああああああ」


 すでに自我はないのか、私たちを見ても助けを求めず、威嚇するフィスミリ・バーガル・ランカ。

 

「こんな風になってしまうんですね」


 私の後ろにいる護衛騎士アスロカが呟く。


「呪いを使った者を、はじめて見ますか?」


 アスロカを見ると、小さく頷く。


「はい。情報として聞いていましたが、見るのははじめてです」


 ベッドの上で暴れる女性は、誰が見ても一目で異常だとわかる。その原因は、彼女の全体が黒くなった瞳とやつれた顔に浮かび上がった文字だろう。食事が取れていないせいでやせ細った体も、それに拍車をかけている。

 

「あの文字は、人を呪う魔法陣で使われている物と同じですね」


 アスロカの言葉に頷き、彼女の手を指す。


「他にも爪が黒くなっていますし、腕をよく見てください。人とは異なる皮膚に変わってきているでしょう?」


「あれは、鱗ですか?」


「えぇ、鱗です。このまま放っておけば、あの鱗は全身に広がり、完全に人とは異なる存在となります。まぁ、そこまで命がもつことはないでしょうが。」


 前にいるルードスとタバロを見て、小さくうなずく。彼らは私の合図を見てベッドに近づき、剣を鞘から抜いた。そして、フィスミリ・バーガル・ランカの胸に深く突き刺した。


「ぎゃあぁがぁぁ」

 

 ガチャン、ガチッ、ブチッ。


 刺された瞬間、フィスミリ・バーガル・ランカが大きく暴れ、右腕の鎖が切れる。


「気をつけてください! 心臓を止めても効果がないようなので、首を切り落としてください」


 自由になった右手をタバロに伸ばすフィスミリ・バーガル・ランカ。私の横にいたフォンが、剣でその手を切り落とし、そのまま一気に首も切り落とした。


 ベッドの下にコロコロと転がるフィスミリ・バーガル・ランカの首。


「うわっ。まだ動く!」


 ルードスの嫌そうな声に視線を向けると、首を失った状態でもフィスミリ・バーガル・ランカは暴れていた。


「うわ~、どれだけ強く相手を呪ったんですか。これでも死なないなんて」


 ため息を吐きながら、フィスミリ・バーガル・ランカに向かって手をかざし、聖なる力を放った。


 淡い白い光に包まれたフィスミリ・バーガル・ランカの体は、ゆっくりとベッドの上に倒れ込んだ。そして完全に動きを止めると、淡い光も消えた。


「大丈夫ですか?」


 フォンが心配そうに私を見るので、うなずく。


「大丈夫ですよ。少し休憩が必要ですけど、問題ありません」


 聖女様を探すために聖なる力を使っているのに、まさかここでも必要となるとは。さすがに使いすぎているせいか、少し疲れますね。


「アルテト司教、ここの浄化をしますので、下で少し休憩をして下さい」


 フォンは私の体調に気づいているようですね。


「わかりました。お願いします」


 チラッと干からびていくフィスミリ・バーガル・ランカの遺体を見て、首を横に振りながら部屋を出た。


 護衛として付いてきたアスロカを見る。


「はじめて見た感想は?」


「あの顔を夢に見そうです」


 嫌そうに答えるアスロカに、思わず笑ってしまう。


「呪いが成功した時でも、呪った者には女神さまから罰が下ると、なぜ信じないのでしょうか」


「さぁ、どうしてでしょうね。なぜか、呪いを使う者はそれを信じようとしないんですよ」


「絶対に罰を受けるということを、もっと広めないといけませんね」


「そうですね」


 実は、呪いを成功させ、なおかつ罰を受けない方法があるんですよね。

 

 それは、罰を受ける身代わりを用意し、呪う相手が物であった場合に限ります。しかも、身代わりは五人必要ですし、魔法陣も巨大で複雑です。でも、この方法で恋敵を殺し、側妃になった者がいるんです。まあ、これは極秘なんですけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ