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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
34/87

32話 到着

 ルドークさんが、去って行く仲間に手を振る。


「あの、ルドークさんたちは一緒に行かなくていいのですか?」


 お父さんの質問にルドークさんが頷く。


「はい。俺とフォガスは、あなたたちの護衛に就きます」


「護衛ですか?」


 お父さんが不安そうに、ルドークさんとフォガスさんを見る。


「はい。奴らの仲間がすべて捕まったのか、現段階ではわからないので」


 もしかしたら、奴らの仲間がまだいるかもしれないって事?

 

 なんとなく周りを見回す。

 

『リーナ、大丈夫。周りには誰もいないから』


 ユウの言葉にホッとする。

 

「そうだ、家の修繕費は教会が出しますのでしっかりと直して下さいね」


 お父さんとお母さんが戸惑った様子でフォガスさんを見る。

 

「呪いの被害者を助けるどころか、加害者に手を貸すなどけっして許されません。これは、教会の不祥事です。ですから、家の修繕費はすべて教会が出します」


「いいのでしょうか?」


 お父さんがルドークさんを見る。


「それは被害者への慰謝料ですよ。リグスさんたちには貰う権利があります。あと、呪いを掛けた者とそれを教会に報告……あれ? 牧師が知っているという事は、教会へ報告はした事にはなるのか? 罪の告発ではないけど」


 ルドークさんがフォガスさんを見ると、彼は首を横に振った。


「呪いを掛けた加害者を守るために動いたので、教会への報告とはみなされない」


「それもそうか。ということは、問題の貴族からもたっぷり慰謝料を貰えますね。俺たちからも慰謝料が増えるように、いろいろと追加で報告しておきますから」


「追加ですか?」


 お母さんが困ったような表情を浮かべる。


「大丈夫ですよ。ウソの報告はしません。ただ、三人の子供たちが襲われてとても怖い思いをした、という内容を少しだけ大げさに伝えるだけです。子供が被害者に含まれていると、印象がぐっと悪くなるんですよ。間違いなく、慰謝料も上乗せされるでしょう」


 そうなんだ。


「被害者というか、奴らの狙いはリーナだったからな」


 お兄ちゃんが私を見るので、私は頷いた。


「んっ? 怖がらせるために家へ押し入ったと言っていたけど、違うのか?」


 えっ、捕まった奴らはそう言ったの?


「違います。奴らはリーナを捕まえるために家を襲ったんです」


 お父さんの言葉に、ルドークさんとフォガスさんが険しい表情をした。


「その情報はどうやって知ったんですか?」


 フォガスさんがお父さんとお母さんを見る。


 あっ、どうしよう。なんて説明すればいいの?


「奴ら、リーナを確認するためなのか家に近づいた事があるんです。その時に、リーナが奴らの話を聞いて知りました」


 お父さんの説明に、フォガスさんが頷く。


「怖かっただろう。もう、大丈夫だからな」


 ルドークさんが私の肩を優しくポンと叩く。それに、私は少し笑った。


 なんだか胸がチクチク痛む。


『いろいろ省いて説明したのに、リグスの誤解のおかげで、うまく説明できたな』


 ユウが感心した様子で、お父さんに向かって拍手を送る。


「あと少しで夜明けです。少しお休みになったらどうですか?」


 フォガスさんがお兄ちゃんと私を見る。


「そうですね。アグス、リーナ、疲れただろう。部屋に戻って寝ようか」


 お兄ちゃんと私を見るお父さん。


「大丈夫。そんなに疲れていないよ」


 笑いながら言うお兄ちゃんに、私も頷いた。


「私も、大丈夫」


 というか、いろいろな事が起きたせいで、まったく眠くならない。いつもなら、眠っている時間なのに。


「そうか?」


 お父さんが心配そうに私たちを見る。


「「うん」」


「でも、明日はまた掃除もあるし。それに司教が来たら、いろいろと話をする必要があると思うんだ」


 あっ、そうだね。司教が来たら、何があったのか話す必要があるよね。


「きっと忙しくなるから、今のうちに休憩を取った方がいい。それにいつもだったら眠っている時間だろう?」


「「うん」」


「きっと布団に入れば寝られるから。寝られなくても横になれば疲れは取れる。だから、布団に入ろうか」


 お父さんの説明に頷く。明日のことを考えると、少しは休憩が必要だと思ったから。


 部屋に戻ってベッドに寝っ転がると、大きく息を吐き出す。


『どうした? やっぱり疲れてるのか?』


 ユウを見て首を横に振る。


「違う。うまくいったなぁって思って」


 「やった~」って叫びたい。でも、そんなことをしたらお父さんがきっと駆け込んでくる。だから、ちょっとだけ。

 

「やった~」


 起き上がって両手を上にあげて、小さな声でつぶやく。そしてまたベッドに仰向けで寝る。


「ユウ。私は、みんなを守れたよ」


『うん。良かったな』


「ユウ、いろいろ協力してくれてありがとう」


『どういたしまして。あと、さっきは少しうるさかったよな』


 んっ? あぁ、魔物と戦っているところが見たいと騒いだ時か。


『ごめん。「見たい」と思ったら、なぜか抑えられなくなって』


 それが普通のユーレイだね。そして、普通のユーレイは自分が騒いだことを悪いとは思わない。

 

 本当にユウは、ユーレイっぽくないよね。


「大丈夫、気にしていないから」


『そっか。良かった』

 

「ふぁあ」


 あれ? 急に眠くなってきた?


『ゆっくり寝ろよ』


「うん」


 あ~でも、服が汚れてるし、そもそも寝間着じゃない。着替えようかな? でも、もう起き上がれない……。


『おやすみ』



『リーナ、起きて! そろそろ起きて! 司教が来たよ』


 うるさい。しきょうって何。うん? しきょう?……司教!


「えっ、なんで?」


 起き上がって窓を見ると、明るい。


「寝過ごした?」


『うん。今、十一時五分。昼前だな』


 ユウが窓から外を見る。


『リーナも見て。あれが司教みたいだ』


 ユウに誘われ、窓に駆け寄る。そしてユウが指した方を見る。


 黒い馬車が二台。その近くには、背が高く、穏やかな表情をした男性がいた。


「あれが司教?」


『たぶん。周りの態度から、彼があの中で一番偉いみたいだから』


 確かに、周りに指示を出しているのがわかる。


「顔が良い」


『……まず、そこ?』


 だって、フォガスさん並みに顔がいいから。フォガスさんの時は、あんな状況だったからじっくり見ることができなかった。でも今はゆっくり見ることができる。

 

 青い髪で、目の色はここからではわからない。でも、顔はほっそりしていて目はぱっちり。かなりのイケメンだ。


『あんな事があったのに、元気だな』


「そうだね。自分でもビックリしてる」


 昨日の恐怖体験がもう少し影響するかと思ったけど、全然大丈夫みたい。

 

 コンコンコン。


「リーナ、起きてる? 司教が話をしたいと言っているんだけど」


「お兄ちゃん、おはよう。すぐに着替えて行きます」


 部屋の扉を開けてお兄ちゃんに挨拶し、顔を洗いに行く。そして、急いで服を着替えて外に出た。


『髪をとかしてないぞ』


 そういう事は、もっと早く言ってよ。


 手ぐしで髪を整えて、お兄ちゃんのいるところに向かう。


「リーナ。髪が……」


 お兄ちゃんの指が優しく前髪を整えてくれる。そして、私を見て頷いた。


「よし、リーナは今日も可愛いね」


 恥ずかしい。


「ありがとう」


 頬が少し赤くなっているのがわかる。でも、これってけっこう頻繁にあることみたいなんだよね。リーナの記憶には、お兄ちゃんからの「可愛い」がたくさんあるから。

 

「おはよう。少しは休憩できたかな?」


 ルドークさんが、お兄ちゃんと私に声を掛けた。


「「おはようございます」」


「司教が二人に話を聞きたいらしいんだ。少しだけ時間を貰えるかな?」


「はい。大丈夫です」


 お兄ちゃんが頷くと私を見る。


「ご飯を食べなくて大丈夫?」


 寝坊したから朝ごはんは抜きだった。でも、またお腹が空いたという感覚はない。


「大丈夫」


 話をしてから、ゆっくりお昼を食べよう。

 

「えっ、朝ごはん食べていないの?」


 ルドークさんが驚いた表情で私を見る。


「寝過ごしてしまって。起きたばっかりなんです」


 少し恥ずかしいな。


「そうだったんだ。話は、朝ごはんを食べた後でもいいけど」


「いえ、気になることを済ませてから、ゆっくりお昼を食べます」

 

「確かに気になることがあると、ご飯がおいしく食べられないよな。よし、お昼ご飯の時間に間に合うように、すぐ司教のところへ行こうか」


 ルドークさんは私を見て微笑むと、司教がいるところへ歩き出した。その後を追って、馬車や周りにいる冒険者たちを見る。


「冒険者が多いね」


「彼らは教会の護衛騎士だよ。極秘任務の最中だったらしく、身元がバレないように馬車にも教会のマークがないし、護衛騎士たちは冒険者の格好をしているんだ」


 そうだったんだ。極秘任務中に、邪魔してしまって大丈夫だったかな?


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