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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
33/87

31話 真実

 リビングと壊れた窓の残骸を片付け終えた頃、フォガスさんが戻って来た。そして、ルドークさんとお父さんが私たちから少し離れた場所に呼ばれた。


「えっ、それは本当ですか?」


 お父さんの驚いた声が聞こえて視線を向けると、顔色の悪いお父さんが見えた。

 

「どうしたんだろう?」


 お兄ちゃんが不安そうな表情でお父さんたちを見る。


「もしかしたら棟梁の事かもしれないね」


 逃げた一人が棟梁のところにいて、棟梁の正体がバレたのかな? それなら、私にとっては嬉しい結果なんだけど。


「棟梁に何かあったって事?」


「えっ?」


 棟梁に何か? どうしてそんな考えになるの?


「んっ? リーナが棟梁の事だと言ったんだけど、どういう意味で言ったの?」


「棟梁は捕まった奴らの仲間……。え~っと……」


 やばい、言っちゃった。


『あぁ、話しちゃった』


 呆れた様子のユウをチラッと見る。


「そうだったんだ」


 えっ、それだけ?


 お兄ちゃんの様子を見て首を傾げる。

 

「お父さんには辛い事かもしれないけど、本当の事がわかって良かったと思うよ」


「うん。私もそう思う」


 話が終わったのか、お母さんがお父さんのもとへ行く。そして、お父さんから事情を聞いたのか、お母さんはお父さんを抱きしめた。


「お父さんの事はお母さんに任せておくのが一番だね」


 お兄ちゃんを見て、笑いながら頷く。


「そうだね」


「少し、話をしていいかな」


 フォガスさんが、私とお兄ちゃんのそばに来る。


「はい、なんでしょうか?」


 お兄ちゃんが少し緊張した様子でフォガスさんを見る。


「隣のトラス村に司教が来ている事を、誰に聞いたのかな?」


 どうしよう。どう答えればいいの?


「わかりません。偶然知ったんです」


 あまりにも普通に答えるお兄ちゃんに視線を向けた。


「偶然?」


「はい。呪いを受けて、その呪いを使った者の家族が家に押しかけてきて。誰かに助けを求めたくても牧師も向こうの仲間だし。そんな時に、学校に行く途中で隣のトラス村に司教が来ているという話を聞いたんです。誰が言ったのかは知りません」


「そうか」


 フォガスさんが神妙な表情で頷く。お兄ちゃんは、フォガスさんの視線が逸れると私を見てニコッと笑った。


 助けてくれたんだ。「ありがとう」と口の動きで伝えると、お兄ちゃんが嬉しそうに笑う。


「男性の声だった? それとも女性の声だった?」


「女性です」


「女性か。ありがとう。こんな時に、いろいろと聞いてごめんな。実は司教がトラス村に来ている事は内緒だったんだ。だから、どこから情報が漏れたのか調べる必要があるんだ」


 内緒だったんだ。詳しく調べられたら、お兄ちゃんのウソがばれたりしないかな?


『問題の牧師。その内緒の事が書いてある書類を、机の上に放置していたんだったよな?』


 そうだったっけ? そんな話はフィリアから聞いていないけど。もしかしてユウにだけ話したのかな?


『その事をフォガスが知ったら、あの牧師が情報を漏らした事になるかもな』


 チラッとユウを見る。


 うわぁ、ずるい顔。でも、そうなってくれた方が私にとっては都合がいいんだよね。


「アグス、リーナ」


 お父さんに呼ばれて見ると、悲しげに笑うお父さんと寄り添うお母さんがいた。

 

 お父さん、落ち込んでいるみたい。大丈夫かな?


「どうしたの?」


 お兄ちゃんの質問に、お父さんは少し視線を彷徨わせたが小さく頷くと私たちを見た。


「父さんと一緒に仕事をしている棟梁が、捕まったそうだ。家に押し入った奴らの仲間だったらしい。つまり、悪い奴だったんだ」


 少し苦し気に話すお父さん。お母さんがお父さんの手を握る。


「お前たちも棟梁に会った事があっただろう?」


 お父さんの仕事仲間だからあるんだろうな。ん~、あれ? いつもなら、言葉がきっかけで思い出すのに、何も思い出せない。そもそも棟梁という言葉を聞いた時に、覚えているなら思い出すか。えっ、もしかして私、棟梁の事をまったく覚えていないの?


「うん。いい人だと思ったけど。悪い人だったんだね」


 お兄ちゃんは棟梁の事を、しっかり覚えているみたい。でも私は、頑張っても思い出せない。


「私は……覚えていないみたい」


 気まずそうに言うと、お父さんとお母さんが私を見た。


「まぁ、そうなの? 今年の初めに会ったんだけど」


 ウソッ! それなら覚えていないとダメだよね。


「今年の初め……それって、お祝いの日の事?」


 新しい年が始まった事を祝う日。この日は教会に行って、最初の祈りを捧げて、その後は知り合いに挨拶をして回る。その時に、棟梁に会ったのかな? でもあの日は、多くの人と挨拶を交わしたから覚えていないな。覚えているのは、友達とその家族くらい。


「いっぱい会ったから覚えていないのかもしれないわね」

 

 笑いながら言うお母さんに頷く。

 

「そうか」


 お父さんも少し笑っている。落ち込んでいたお父さんが、少し元気になったのは嬉しいけど……。


「リグスさん。仲間がきました」


 ルドークさんの声に視線を向けると、冒険者の格好をした男性三人と女性二人がいた。そのうち、男性一人と女性一人がリヤカーを引いている。


『あぁ! 酒を飲んでリーナの家を燃やすとか言っていた奴だ』


 えっ、冒険者の中にいるの?


「ガロス。それは?」


 ルドークさんがガロスさんと呼んだ冒険者を見る。


「肩に誰か担いでいないか?」


 お父さんの疑問に、お兄ちゃんも頷いた。


「うん。あれは人だよね? 意識がないけど、どうしたんだろう?」


 ユウが言っている奴って、肩に担がれている人の事かな。


「これは、ここに向かってきている時に見つけた犯罪者だ」


 ガロスさんの説明に、ルドークさんが首を傾げる。


「犯罪者って、何かしていたのか?」


 ガロスさんが、肩に担いでいた男を地面に転がす。


「木に隠れているこいつ等を見つけて、声を掛けようと思ったんだけど、手に持っている物が気になったから様子をみたんだ。そうしたら、家を燃やそうとしている事がわかったから、捕まえた」


『マジで燃やそうとしていたのか? 酒を飲んだ時の勢いではなく?』


 ルドークさんが、男の顔を確認すると嫌そうな表情をした。


「ずいぶんと酒臭いな」


『やっぱり酒を飲んでいるのか。あれ? あの時にいたもう一人は?』


「こいつも、そいつの仲間だ」


 少し遅れて来た冒険者が、ガロスさんが地面に転がした男の隣に、もう一人の男を転がした。


「イーガ、ありがとう。ところで、こいつ等は何を持っていたんだ?」


 ルドークさんがガロスさんを見ると、彼はバッグから何かを取り出した。


「酒が少し残った瓶に、布を突っ込んだ物だ。酒の匂いから度数は高めだと思う」

 

『うわっ、火炎瓶じゃん。持っているだけでもアウトだよな』


 それはここではなく、以前いた世界での法だね。ここでは、どうなんだろう?


「こいつ等、これに火を点けて家に投げつけるつもりだったんだ。よく燃えるはずだと笑っていたよ」


 イーガさんの説明に、ルドークさんが呆れた表情で地面に転がる二人の男を見る。


「特定の魔物以外には、使用が禁止されているのに知らないのか?」


 そうなんだ。


『魔物! 冒険者と言えば魔物だよな。戦っているところを見てみたい。そうだ、見に行こう!』


 呆れた表情でチラッとユウを見る。


『え~、その表情はダメって事? でも、見たい! 見に行こうよ~』


 絶対に行かないからね。

 

「こいつ等、酒に酔っていて覚えていないと言いそうだな」


 ルドークさんの呟きに、頷く


 絶対に言いそう。


「これ、証拠」


 ガロスさんが、手のひらサイズの半球状のガラスがはめ込まれた丸い木の板を見せる。


「映像を残したのか?」


 ルドークさんが驚いた表情でガロスさんが持つ物を見る。


 そんな道具があるんだ。


「あぁ、言い逃れされたら面倒だからな」


 ガロスさん、ナイス!


「証拠の映像があるなら、酒に酔って言っただけは通用しないな。捕まえた奴らと一緒に冒険者ギルドに運ぼう」


 ルドークさんが集まった冒険者たちに事情を説明すると、彼らは捕まえた者たちをリヤカーに楽しそうに積んでいく。


「では、こいつ等は連れて行きます」


 ガロスさんが笑顔でお父さんとお母さんに言うと、二人は小さく頭を下げた。


「よろしくお願いします」


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