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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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28話 来た!

 夕飯後、すぐに逃げられるようリュックを背負ってソファに座る。ゆっくり日が沈み、真夜中。スーナもお父さんとお母さんの緊張が伝わっているのか、泣き出しそうな表情をしているが耐えている。


『リーナ、来た!』


 外に様子を見に行っていたユウが、リビングに飛び込んで来る。


「来た」


 私の言葉に、お父さんとお母さんが私たちをギュッと抱きしめる。

 

 ドンドンドン。


 家の中に玄関の扉を叩く音が響く。こっそり家に入ってくるのかと思ったけど、奴らは隠れる必要がないと思っているみたい。

 

 まぁ、そうだよね。奴らに報酬を与えているのは、この村の絶対的な権力者である貴族だから。


 ドンドン。

 ガタガタガタ。


 リビングの窓が叩かれ、揺れる音がした。


「ひっ」


 スーナが小さな叫び声を上げる。


「大丈夫よ。静かにね」


 お母さんがスーナを安心させるように胸に抱きしめる。でも、そのお母さんも震えている。


「面倒くさいな、壊せ。どうせ誰も来ないから、周りを気にする必要はない」


 男性の言葉を聞いて、お父さんの腕にギュッと力が入る。


 ドンドンドン。


 リビングに窓を壊す音が響く。


「カーナ」


「どうしたの?」


 お父さんがそばに置いておいた木の棒を手に取る。


「リビングに奴らが入って来たら、俺は戦う。子供たちを連れて逃げろ」


「ダメ。私も一緒に戦うわ」


「ダメだ。頼む、子供たちを守ってくれ」


「……」


 お父さんがギュッとお母さんの手を握る。お母さんは悲しそうな表情で頷いた。


「アグス。お母さんと妹たちを頼むな」


「うん。お父さんもあとから絶対に来てね。皆は俺が守るから」


「もちろんだ」


『リーナ、俺はどうしたらいい?』


 空中を右往左往するユウに視線を向け、さらに窓の方へ目をやった。


『外の様子を知りたいのか?』


 視線をユウに戻して頷く。


 ドンドンバキ。


 窓が壊れる音に、体がビクッと震える。


『わかった』


 外に飛び出すユウを見ていると、お兄ちゃんが私を見ていることに気づいた。


「リーナ」


 こんな時に隠す必要はないよね。だって、今大事なのは生き残ることだから。


「外の様子が知りたかったから、お願いしたの」


 お兄ちゃんを見ると、少し驚いた表情をしていた。


「そっか。彼らの動きがわかれば、逃げるチャンスが生まれるから」


「うん」

 

 お父さんとお母さんが息を呑む音が聞こえた。私はそんな二人の手をギュッと握った。


「きっと、みんなで逃げられるチャンスはあるよ」


 バキバキバキ。


 窓の壊れる音が聞こえた。


「ここはダメだな、移動しよう」


 お父さんがリビングから廊下の様子を窺う。


「静かに、ゆっくり」


 お父さんを先頭に、静かにリビングから出る。


 バキバキ。


「まだか?」


「あと少しです」


 外から聞こえる奴らの声に、心臓がギュッと痛くなる。それを深呼吸でごまかし、震える体を何とか動かしてお父さんのあとに続く。


 ユウはどうしたんだろう? どうして、帰ってこないんだろう?


 バキバキバキ。


「壊れた!」


 奴らの声に、お父さんが木の棒を持ちリビングのほうを見る。


「廊下の突き当りの窓、あそこは逃げる事を考えて防いでいない。今すぐ、この家から出ろ」

 

 バキーン、ドサドサドサ。


「やったぁ」


 壊れる音と、何かが崩れる音。そして、奴らの嬉しそうな声が聞こえた。


「行け! 急げ!」


 お父さんの言葉で、お母さんが私とスーナの手をつかんで廊下を走る。お兄ちゃんも後ろを気にしながらついてくる。


 お母さんは廊下の奥にある窓を開け、外の様子をうかがう。

 

「誰もいないわ。ここからな――」


「いたぞ」


 男性の怒鳴り声にお母さんが振り返る。


「早く行け!」


 お父さんの大きな声に、お母さんがスーナを抱き上げる。


『リーナ。助けがきた! あと少しでここに来る! あれ? リーナ?』


 ユウの声がリビングから聞こえた。


「えっ? 助けが来た?」


「えっ?」


 ユウの言葉に驚いて呟くと、お母さんが私を見る。


「何をしている。早く」


 廊下に出てきた奴らと戦うお父さん。すでに怪我をしているのか、肩のあたりの服に血がにじんでいる。


『リーナ、いた! あとちょっと耐えて! すぐに助けが来るから!』


「お父さん、あと少し頑張って。助けが来たから!」


 私の声に、お父さんを殴ろうとしていた男の視線が向く。


「はははっ、残念。助けなんて来ねえよ!」


 私を見てニヤッと笑う男に、数歩後ずさる。


 怖い。

 

『あぁ、早く来てくれ~!』


 ユウが私を守るように、私の前で手を広げる。


「何をしている、お前ら!」


「なんだ、てめえは!」


 若い男性の声が聞こえると、剣と剣のぶつかり合う音が聞こえた。


「なんだ?」


「何があった?」


『来た~! 間に合った~』

 

 外から聞こえる声に、お父さんと戦っていた奴らが戸惑った表情を見せる。ユウは嬉しそうに叫び、バンザイをした。


「助かった」


 一気に力が抜け、廊下に座り込む。お兄ちゃんも私の隣に座ると、安堵した表情を見せた。


「助かったの?」


 お母さんがスーナを抱えたまま、座り込んで呟く。

 

「おい、やばいから逃げるぞ」


 リビングから男が顔を出すと、廊下にいる仲間へ声を掛ける。


「ガキはどうする?」


 廊下にいた一人が私を見る。


「バカか、そんなのどうでもいい。すぐに逃げるぞ」


 慌てて逃げ出した男たちが見えなくなると、お父さんが大きく息を吐いて座り込んだ。


「リグス。大丈夫?」


 お母さんがスーナを抱えたまま、慌ててお父さんの下へ行く。


「大丈夫だ」


「でも血が出ているわ」


「少し剣が掠っただけだ。本当に大丈夫だから」


 お父さんが無事に、思わず涙がこぼれる。


 良かった。本当に、良かった。


「逃げた奴はどうしますか?」


「追ってくれ。俺はここに残っている奴がいないか確かめる」


「わかりました」


 さっきは一人だと思ったけど、助けに来てくれたのは若い男性二人だったみたい。


「誰が助けに来てくれたの? 司教?」


 いや、司教は戦わないか。


 空中で嬉しそうに笑っているユウを見る。お兄ちゃんが私の視線を追ったあと、少し残念そうな表情をした。

 

 ユウが見えたらきっと驚くだろうから、見えない方がいいよ。

 

『違う。知らない若い男性が二人。でも一人は冒険者のリットンと似たような恰好だったから冒険者だと思う』


「冒険者?」


 冒険者はどうして助けてくれたんだろう? 偶然なのかな?


「うわっ、これは酷いな。お~い、誰かいますか? えっとアグスだったかな?」


「俺?」


 助けてくれた人に名前を呼ばれ、驚くお兄ちゃん。


「いないのかな?」


「います!」


「入っていいですか?」


 お兄ちゃんの声が聞こえたのか、若い男性が入室の許可を求めた。


「どうぞ」


「ありがとうございます。お邪魔します」


 お父さんの許可に、お礼を言ってリビングに入った若い男性。

 

「あっ、いた。怪我をしたんですか? 大丈夫ですか?」


 若い男性はお父さんを見つけると、すぐにそばに寄って怪我の様子を見た。


「少し切れた程度なので、大丈夫です。ところで、あなたは誰ですか? なぜここに?」


 お父さんの質問に、若い男性が小さく頭を下げる。


「俺はルドーク、冒険者をしてます。冒険者仲間のリットンから、時間が空いたらアグスという少年と家族の様子を見て欲しいとお願いされたんです」


 リットンさんが、そんなお願いをしてくれていたんだ。でも、夜中に様子を見に来たの?


「本当は、今日の昼頃に様子を見に来るつもりだったんです。でも家に帰る途中、慌てた様子の護衛騎士に会って。しかも彼が、様子を見てほしいと言っていたアグスの家を探しているというので、びっくりしました」


 護衛騎士がお兄ちゃんを? お兄ちゃんを見ると、驚いて目を見開いている。


「話を聞くと、狙われている可能性があると言うので、夜中でしたが家に案内したんです。途中で異変に気づいて慌てました」


「そうだったんですか。ありがとうございます。本当に助かりました」


 ルドークさんの説明を聞いて、お父さんが深く頭を下げる。


「いえ、間に合って良かったです」


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