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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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26話 脅しと首の紐?

 朝ごはんを食べ終えると、リビングで皆と過ごす。お父さんとお母さんは、少しピリピリしているみたい。

 

 あと少し。あと少しで、この問題に終止符がつく。だから、もう少しだけ待っていて。


『リーナ、見張り役が動いた』


 外の様子を見に行っていたユウがリビングに飛び込んで来る。


 どうしよう。今の私に何ができる?


『リーナ。ユーレイと言えばポルターガイストだと思うんだ』


 それは、霊力レベルが二以上にならないとムリだね。

 

『だからやり方を教えて欲しい』


 ユウを見て、小さく首を横に振る。


『それってダメって事?』


 もう一度首を横に振る。


『ムリなのか? せっかくユーレイなのに?』


 「せっかくユーレイ」という意味がよくわからないけれど、小さく頷く。私の反応を見たユウが、隣で騒ぐ。


『だったら、俺はなんのためにユーレイなんだ!』


 絶対にポルターガイストを起こすためではないだろうな。


『異世界に来たのにチートでもない! ラノベの世界でもない! 発売日を指折り数えて待っていた乙女ゲームもできなかった! 俺の存在意味は?』


 知らない。


 ユウから視線を逸らし、窓から外を見る。木々の間から、こちらを見ている男性たちの姿が見えた。さっきまでは完全に隠れていたのに、脅すために姿を見せたのか。

 

 どんな奴らが集まっているんだろう。 あれ? 見張っている奴ら。首に紐のようなものが絡まっているけど、外さないの? かなり邪魔そうに見えるけど。

 

『俺を無視しないで!』


 ユウを見て、見張り役の男性たちを見る。


『どうしたんだ? あれ? 姿を見せたのか? あぁ、脅しか』


 ユウは見張り役を見ても、特に気にしていない様子だ。もしかして私の見間違い?


 手で目をこすり、もう一度奴らを見る。やっぱり、紐が首に絡まっているよね? あれ? 人によって、紐の太さが違うみたい。


「呪い?」


『呪い? リーナ、何か見えるのか?』


 私の視線の先を見て、首を傾げるユウ。


「リーナ、どうしたの? あっ」


 お兄ちゃんが私の視線の先を見て、体をこわばらせた。それにお父さんとお母さんも気づき、窓から外を見る。


「リグス」


 お母さんがお父さんの腕を掴む。

 

「大丈夫だ。話をしてくる」


 外へ行こうとするお父さんの前に出て、両手を広げる。


「ダメ! お父さん、あれは脅しだよ。姿を見せて怖がらせているの。だから、あれに乗ったらダメ!」


「リーナ」


「大丈夫。あと少しだから」


 司教は本当に来てくれるだろうか? もしこの村にきても、クズたちがお金を渡したら?


 ダメ! 弱気になるな。


「わかった」


 お父さんは私の頭をポンと撫でて、かすかに微笑んだ。

 

 ホッとすると、急にスーナが泣き始めた。お母さんが慌ててスーナを抱き上げると、背中をポンポンと優しく撫でる。


「私たちの恐怖心を感じ取ってしまったのかしら? もう、大丈夫よ。大丈夫」


 お母さんに抱きしめられて安心したのか、スーナは泣き止んで眠ってしまった。その様子を見ていたお父さんが、ホッとした表情をした。


「良かった」


 ソファに寝かせたスーナを、優しい目で見つめるお父さんとお母さん。そんな三人を見て、思わず微笑んでしまう。


 あっ、今はユウにあれが見えるのか確かめないと。


「部屋で勉強しているね」


「ここでしたらどうだ?」


 お父さんが私を心配そうに見る。


「もう少し文字が綺麗に書けるようになったらね」


『あぁ、うん。そうだな』


 ユウに納得されるのは、なんとなく悔しい。


「あっ」


 お兄ちゃんの小さな声に視線を向けると、「頑張れ」と応援された。

 

『アグスも、リーナの文字を知っているみたいだな』


 やっぱり、あの反応はそういう事だったんだよね。いいもん。頑張って綺麗な字を書けるようになるから!


 あれ? 今考えたことを思い出して、首を傾げる。今のは、私らしくないような……。そういえば、お父さんの前に出て両手を広げたあの行動も、私らしくなかったよね。


 自分の部屋に戻り、ユウを見る。


「ユウ。私の行動に変なところはない?」


『んっ? いや、変なところはないけど。そういえば、リーナを演じるのが自然になって来たな』


「自然に?」


『そう。特に表情。子供っぽい笑い方が自然と出るようになってきているよ』


 確かに、リーナの笑い方が、意識しなくてもできるようになっていた。 というか、おそらく考え方や行動も。これって……本当の私が消えていってしまっているのでは? いや、この体はリーナのものだから、それでいいのかもしれない。でも、そうだとしたら私はどうなるの?


『リーナ? 顔色が悪いけど、どうした?』


「なんでもない。大丈夫」


『大丈夫じゃないだろう? 何が気になるんだ?』


 真剣な表情のユウを見て、思わず息をのむ。


 ユウが本気で心配するほど、今の私は表情を繕えていないんだ。でも、本気で心配されているとわかったせいか、気持ちが落ち着いた。


「自然とリーナの考え方や行動が出るようになっているの。いい事だと思うんだけど、本来の私はどこにいってしまうのかなって、少し不安になったの」


『不安になるという事は、消える事を心配しているんだよな?』


 鋭いな。


「うん」


『ん~、もしかしたら、リーナとリンが融合してきているんじゃないかな?』


「融合?」


 つまりユウは、 私とリーナが溶け合うと考えているの?


『今のリーナを見ていると、リーナの部分とリンの部分が溶け合う、混ざりあう? どっちが表現として合っているのかわからないけど、必要な場面にあわせて出てきていると思うんだ』


 そうなのかな。


『ごめん、説明が下手で。えっと、今のリーナは、リーナっぽいところとリンっぽいところが両方あって。家族と関わる時はリーナっぽい部分が強く出るんだけど、考え方はしっかりしたリンだから。えっと、つまり……二人のいいとこ取りだ!』


 必死に話すユウを見て笑ってしまう。


「ありがとう。つまり、人と関わる時は年相応。考え方は、本来の私だという事で合ってる?」


『そう。その通り』


 うーん、確かに物事の考え方や捉え方はリンのほうかもしれない。でも行動は、年相応になっている気がする。


『大丈夫。根拠を出せと言われたら困るけど、大丈夫だと俺は思う』


 説得力がまったくないユウの言葉に、また笑ってしまう。でも、なぜか「大丈夫」と感じた。


 それに今、悩んだところでどうしようもない。だったら、今は必要な事を先にしよう。


「ごめん。もう大丈夫」


『よし』


「ところでユウ、見張り役たちの首に紐が巻き付いているんだけど、気づかなかった?」


『えっ、そんなヤツらいたかな?』


 ユウが窓から外に出ていくと、一分もしないうちに戻って来た。


『いなかったけど。もしかしたら外したんじゃないか?』


 窓から外を見て、紐が巻き付いているのを確かめて首を横に振る。


「まだ紐を巻きつけたままだよ。ユウには見えない?」


『え~』


 窓に張り付き、見張り役をジッと見つめるユウ。でも紐は見えないのか、私の方を見て首を横に振った。


「見えないのか」


 という事は、私にはあれが紐に見えるけど、実は紐ではないのかな? でも、それだったら、あの紐みたいな物は何?

 

 ユウの腕を掴む。


「ユウ、傍に行って見てきて――」


『見えた! 本当だ! 紐だ。全員の首に紐が絡まってる』

 

 えっ、見えたの?


 驚いてユウから手を離す。


『あっ、見えなくなった』


 えっ、見えなくなった? でも、見えたんだよね?


『もしかして』


 ユウが私を見ると、私の手を掴んだ。


「何?」


『やっぱり、リーナに触れていると見えるみたい』


「何それ」


『いや、俺に聞かれてもわからないけど』


 ユウと顔を見合わせる。


「あの紐が何かわかる?」


『いや、わからない。ついでに、脅しの時間は終わったみたいだ』


 えっ?

 

 窓の外を見ると、見張り役たちの姿が消えていた。


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