13話 ユーレイたちの思い
ユウの言うとおり、ウソを見抜く魔法があると考えて行動した方がいいよね? もしもを恐れて動けなくなるのは避けたい。でも、あった場合の事を考えて行動しないと命に関わるかもしれない。
「よしっ、誤魔化そう」
『えっ?』
「精霊が見える、話せるとは言わない。ユーレイが見える事も言わない。私の行動を怪しむ者が現れて質問されたら、徹底的に誤魔化す」
『それで本当に大丈夫なのか?』
それは……大丈夫とは、言えないよね。
「重要なのは、ユウの存在がバレないように行動する事だよね。でも、私の性格から絶対に隠し通すのは難しい」
『頑張りもせずに諦めるのか?』
「自分の性格はわかっているわ。第三者がいる場所で、ついユウを見てしまうとか、つい質問に答えてしまうとか。バレるきっかけは沢山あるから。それに、ずっと気を張り詰めて生活するなんて私には無理。だったら、ある程度でいいのよ。だって」
おそらくユウとは、長い付き合いになると思うから。この私の勘、けっこう当たるのよね。
『何? だっての続きは?』
「まだユウとは一緒にいそうだからよ」
『あぁ確かに。何となく死ぬまで一緒にいそうだよな』
「えっ。それはイヤ」
今、ユウの言葉にぞわっとした。まさかね? えっ、本当にそんな、まさかね?
『酷い! 俺はリーナとずっと一緒にいたいのに!』
「待った、ユウ。それを強く思ってはダメ」
『えっ?』
「ユーレイの言葉は、魂に刻まれるの。強く思いそれを言葉に出すたび、そうなるべきだと思い込んでがんじがらめになっていくの。だから私とずっと一緒にいるとか、そういう言葉を口に出してはダメ」
『そうなのか?』
「うん。言霊という言葉を聞いた事がある?」
『ある』
「言霊は言った本人に影響する言葉で、生者でも言い続ければ影響を受けるようになるの。ユーレイは、生者よりもっと早く強く影響を受けてしまうの。だから気を付けないとダメなのよ」
『そうなんだ』
「うん。そうなればいいなと思って言っていただけなのに、その事しか考えられなくなっていく。霊力レベル一のユーレイたちは、言霊に囚われている事が多いの」
『それ、なんだか怖いな』
「怖いよ。前に『ユーレイが未練を残して死ぬと、一日中その事で頭がいっぱいになる』と言ったの覚えてる?」
『うん』
「ユーレイって、未練を口にする事が多いの。会いたい人がいた場合、その人を思い出しながら『会いたい』『会いたい』と繰り返し言ってしまう。そうするといつの間にか、それ以外の事が考えられなくなってしまう。これは、自分の言葉に囚われてしまったからなの」
囚われたユーレイは、本当にそれ以外の事を考えないんだよね。そのせいで何度も大変な目にあったんだから。
ユウがもしそうなったら、祓う。絶対に迷わず祓ってやる。
『わかった、気を付ける』
ユウを見ると顔をしかめている。不安がらせたかもしれないけど、重要な事だから仕方ない。
「よし、女神さまの事はだいたいわかった。ユーレイという存在が、この世界では隠し通さなければならない事も。次は、ユーレイに会いに行くわよ」
『はっ? えっ、ユーレイに会う? なんのために? この世界のユーレイは、女神が見捨てた存在なんだろう? つまり、悪い事をした奴らばかりなんだから会わない方がいいよ。危ないって』
叫びながら首を横に振るユウを見て、笑ってしまう。そこまで怖がる必要はないのに。……たぶん?
「女神さまね。『さ・ま』。忘れてるよ」
私も気を付けないと忘れそう。
『ごめん。でも、女神さまに罰を下されたユーレイにどうして会いたいんだ?』
「罰を下されたユーレイではなく、ユウみたいな心残りがあってとどまってしまったユーレイに会いたいの。世界が変わっても、人の思いはそれほど変わらないと思うから」
『人の思い?』
「元の世界で、最も多くのユーレイが望んだ事は『最後に、最愛の人に一目だけでも会いたい』なの」
『その思いが一番多いのか?』
ユウを見て頷く。
「どの国も、この思いが一番多かったわ。次が『ありがとう』や『ごめん』と伝えたいとかね」
服が入っている木箱を開けて、お兄ちゃんのおさがりのズボンとTシャツを出す。
「ユウ、あっちを向いて」
『わかった』
ユウが後ろを向いたので、服を着替える。
『会いたいのが、俺みたいな奴だとはわかったけど、会って何がしたいんだ?』
「私が知っているユーレイと、この世界のユーレイの違いをまず調べたい。あと、話ができる状態のユーレイがいたら、交渉ね」
『交渉?』
「うん。私が、あなたの心残りを解決してあげるから、私に協力してって」
『協力! えっ、そんな事をして危なくないのか?』
ユウが私の傍に来る。
「まだ、こっちを向いていいよと言っていないのに」
『ごめん。ビックリしすぎて……』
「着替えが終わっていたからいいけど、気を付けてよね」
『うん。それで交渉とか協力とか、そんな事をして大丈夫なのか?』
「大丈夫よ。霊能者の仕事の一つが、ユーレイたちの心残りを解決する事だから」
『えっ、仕事?』
「心残りのあるユーレイが増えすぎると、いろいろと問題が起こるの。だから霊能者たちはユーレイが増えすぎないように、彼らの望みを叶えるの。そして協力した見返りに、彼らから少しだけ霊力を貰う」
『霊力を?』
「うん。通常は少しだけ霊力を貰うの」
その霊力を家神さまに奉納して、神社の運気を上げるんだよね。
『霊能者の仕事って地味なんだな。リーナから除霊の話を聞いたから、悪霊を除霊したりしているのかと思った』
「悪霊は死神の仕事だから、霊能者は手を出さないよ。それと曾祖母によれば、死神はとても面倒事を嫌うそうで、悪霊になるまで放置する事はないみたいなの」
『面倒事を嫌う死神?』
「うん。悪霊の相手は、大変なのかな? その辺はよく知らないけど」
『そうなんだ』
なんとも言えない表情で空中を睨むユウ。
ろくでもない事を考えていそうだな。
『こつこつ仕事に励む死神? イメージが』
やっぱりね。
『あっ、ユーレイの心残りを解決して、リーナは何を望むんだ?』
『教会の情報。あと、クズの情報よ』
まずは敵の情報を集める。そして、ユーレイの情報も集めたい。
「ユウ、行こう」
『母親に言わないのか?』
不思議そうに私を見るユウ。
「うん」
『心配するから言った方がいいと思うぞ?』
私もそう思うけど。
「言ったら、ダメだと言って出してくれなくなると思う。でもどうしても、ユーレイに会わないとダメなの」
『ん~……わかった。でも、家の周辺だけ、遠くには絶対に行かないからな』
悩んだユウは、真剣な表情で私を見る。
「もちろんわかってる。クズの手先がいるかもしれないしね」
そんな危険な事はしないよ。
「お母さんが起きる前に戻って来たいから、急ごう」
部屋の扉をそっと開け、足音に気を付けながら玄関に向かう。玄関で外履きを取り、裏口に行く。
『玄関から出ないのか?』
チラッとユウを見て頷く。裏口に来ると、ゆっくりと扉を開け、外に出て外履きを履いた。
えっとまずは、ユーレイを探して様子を見る。意思疎通ができそうなら、交渉を持ちかける。注意点は、私が声を掛けるまで見える事がバレないようにする事かな。
『誰かいる』
「こっちを見てる?」
靴を見ているふりをして、ユウに聞く。
『いや、こっちを見て……ひえっ』
ユウの様子がおかしい。
靴から空中に浮かんでいるユウに視線を向けると、真っ青な表情で何かを凝視している。チラッとユウの見ている先を確認すると、そこにはユウと同じように空中に浮かんでいるユーレイが、こっちを見ていた。
『ユ、ユーレイがいる!』
「はっ?」
いやいや、ユーレイを見て、どうしてそんな反応をするの?
『私が……見えるの?』
あっ、やばい、知られた。もう、気を付けようと思ったばかりなのに!




