12話 まだ知りたい事がある
「よしっ、次の本を探しに行こう」
『えっ? まだ調べるのか?』
ユウが驚いた表情で私を見る。
「女神の事をもっと詳しく知りたいの。この世界と女神の関係。他にも信仰する神がいるのか。女神信仰はこの国の国教なのか、とかね。まだまだ知りたい事は多いわよ」
『そんなに?』
「うん」
まぁ、まずは女神とこの世界の関係ね。最初の本では「世界に幸せを運んだ女神さま」と書かれていた。子供向けだから仕方ないけど、もう少しぐらい詳しく書いて欲しかったな。
ユウと一緒にリビングへ行く。そっと扉を開けて中を覗くと、ソファに仰向けで寝るお母さんと、そのお母さんの上で寝ているスーナが見えた。リビングのテーブルには、スーナの朝ごはんの残りがある。どうやら、食べてすぐに眠ってしまったみたい。
そっと二人に近付く。
『よく寝ているな』
「うん」
棚からタオルケットを取ると、二人にそっと掛ける。起きるかもしれないと心配したけど、大丈夫みたい。
あっ。
お母さんをよく見ると、疲れた表情をしている事に気付く。お兄ちゃんと私が呪いに襲われて、私が高熱で倒れている間にクズが押しかけて来た。しかもそのクズは、貴族。まともに戦う事もできない相手。
「疲れるよね」
少しだけ待ってね。必ず、あれを排除するから。
『リーナ、この本でどうだ?』
ユウを見ると、本棚にある一冊の本を指している。
あれ? ユウは文字が読めないはずだけど。
ユウが指した本を本棚から取り、パラパラと読める本なのか見る。
「これは、ダメだ」
言い回しが難しく、今のリーナでは読むのにものすごく時間が掛かりそう。
「他の本で、いい物はないかな?」
持っている本を本棚に戻し、別の本を手に取る。そして、パラパラと内容を見る。
「本の題名は? 『女神さまと私たち』だって、これが求めていた本かな」
さっき読んだ本より、わからない文字が多いけど頑張ればなんとかなるはず。
『それ?』
「これにする」
あっ、ユウと話してしまった。そっと、ソファで眠っているお母さんたちを見る。
良かった、ぐっすり眠っている。
「部屋に戻ろう」
リビングを出て「あれ?」と首を傾げる。いつもこの時間は、お針子の仕事をしているお母さん。
「どうして寝ているんだろう? 疲れが酷いから?」
それとも……クズは「この村では生きていけないようにしてやる!」と喚いていた。もしかして、既に影響が出ているの?
『リーナ?』
「なんでもない。行こう」
今の私では、お母さんのために動けない。まずは知識を得ないと。
部屋に戻り、ベッドの隅に座ると、本を広げる。
『今回もよろしく』
ユウの言葉に頷いて、本の内容を声に出して読み進める。何度も、何度も詰まりながら、ユウと一緒に考えながら本を読み終える。
「疲れた~」
ベッドへ仰向けに倒れると、両手を上にあげる。そのままぐっと伸ばして、固まった筋肉をほぐす。
『俺たち、すごく頑張ったな』
ユウを見ると、何故か満足げに本を見ている。その表情に少し笑ってしまうけど、確かに達成感がある。
『それにしても、この世界が女神の力によって作られた世界だとわ。リーナは信じられるか?』
「信じるよ」
起き上がってユウを見る。
『えっ? そうなのか?』
すごく驚いた表情をするユウ。そんなに驚かれる理由がわからず、首を傾げる。
「どうして、そんなに驚くの?」
『だって、女神がこの世界を作ったなんて。マンガやアニメの中だけだと思っていたからさ。リーナも同じ考えだと思ったから』
あぁ、見えない人たちの感覚だね。
『あっ、リーナは神社を守る家の子供だったからか』
それもあるけど、実際に神さまという存在を見ているしね。アニメやマンガに登場する、強い力を持つ人型の神さまではなく。弱い力しか持たない神さまだけど。
「そんな事より、これである程度女神の事がわかったね。あっ、これからは呼び方に気を付けた方がいいかもしれない」
『呼び方?』
「うん。女神ではなく、女神さまと呼ぶようにしないと」
『なんで?』
「この世界を作った女神さまを呼び捨てにするなんて、この世界に生きる者としてありえないでしょう」
『それもそうだな』
「だからユウも女神さまと呼んでね」
『えっ。なんで? 俺は関係ないよな? 周りに俺が見えないんだから!』
「私のためよ。ユウに釣られて、第三者がいる場所で女神と呼んでしまったらどうするのよ。すごく危ないでしょう?」
『それは、危ないな。いや、釣られないようにすれば――』
「ムリね。絶対に釣られるわ」
ユウの言葉を遮って、ムリだと言い切る。少し呆れた表情をされたけど、危険回避のためよ。何も、問題はないわ。
「だから、これからはユウも『女神さま』と呼んでね」
『わかった。リーナを危険にさらすわけにはいかないからな』
「よろしく。そしてありがとう」
今読んだ本の表紙を撫でる。
女神さまは、この世界を作り。そして、女神さまの祝福を受けた人々の手によって発展してきた。その祝福を受けた人たちの事を、今は司教と呼ぶみたい。つまり教会関係者。
そして王族は、女神さまから力を授かった者たちの事を言う。世界を作った当時、この世界には魔王と呼ばれる存在がいた。その魔王と戦うために、女神さまは選び抜いた者たちに、力なき者たちを守り、そして魔王を倒す力を授けた。その力を授けられた者たちが、魔王を倒したあとに国を作る。
現在は三国。どの国も女神さまを国教にしていて、争ってはいない。そもそも、女神さまが次の王を決めている。その時の大司教の元に神託を降ろして。
「思ったより、女神さまとの距離が近いよね」
『魔王か。女神がいるなら魔王もいるよな』
嬉しそうに言うユウを見る。
「今、それは関係ないからね」
『わかっている。でも、魔王と聞くとワクワクしないか?』
「まったくしないけど?」
どうしてワクワクするの? 魔王なんて、間違いなく面倒事でしょ? 絶対に、何があっても関わりたくないわ。
『えぇ~、夢がない!』
魔王に夢があってたまるか!
「今、魔王は関係なし!」
『そうだけど、少しぐらい楽しんだっていいじゃないか!』
ユウの不貞腐れた表情にため息が零れる。
「精霊では、そこまで喜ばなかったのに」
本には、精霊の事も少しだけど書かれてあった。
精霊は、魔王によって荒れたこの世界を癒した存在。だから女神さまはとても精霊を大切にし、人々にもそれを伝えた。
ただしお父さんの話から、精霊の存在自体を怪しむ人たちが増えているみたい。それに関して女神さまは何も言わないのかな? 神託を降ろして、次の王を決めるくせに。まぁ、それを言うなら魔王はどうして生まれたって疑問も浮かぶけど……。無視しよう今は関係ない。
本を裏返して、あるマークを見る。そのマークは、教会が認めた本だという印。つまり、教会が認識している事実に基づいて書かれた本という事になる。
「まぁ、全部の事が書いてあるわけではないからね」
女神さまが精霊はいると言っても、見えない者にとっては存在しないからね。これはユーレイが見える者と、見えない者との関係によく似ているかも。
『何?』
「なんでもない。とりあえず、知りたい事の大半は知ることができたから良かった」
ただしユーレイの存在については、一切触れていなかった。少しも触れないという事は、ユーレイという存在がこの世界では認められていないのかもしれない。
「ユーレイを見る者が、今までいなかったのかな?」
ユーレイを見るのは霊力。魔法があるけど、霊力はない?
「もう精霊が見える事にした方がいいかな」
『でもウソを見抜く魔法があったらどうする?』
「えっ? そんな魔法があるの?」
『知らない。でも、神も身近で魔王がいて、精霊がいて魔法がある。そういう魔法があっても、おかしくないかな世界だからさ』
「そうだね」




