表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
13/87

11話 まずは本を読もう

「ほら、お前も言え!」


『クズが、教会の奴に何か言わせようとしているみたいだぞ』


 玄関の傍にある小窓から外を見ているユウが、私を見る。それに頷き「ありがとう」と口の動きで伝えた。


「お子さん二人の力があれば、お嬢様を助けられるとわかりました。お嬢様を助けるのは、この村に住む者にとって当たり前の事です。さぁ、早く二人を引き渡しなさい。これは女神さまのご意向です」


 ドンドンドン。


「神父様の言葉を聞いたわよね? 聞いたなら、この扉を開けて二人を渡しなさい!」


 ドンドンドン。


「あなたたち、いいの? この村に住めなくなっても。仕事も失うわよ!」


 このクズ共をなんとかしないと、リーナの家族が大変な事になりそう。

 

 少し力を込めてお母さんに抱きつく。


「リーナ、大丈夫よ。すぐにいなくなるわ」


 今の私を受け入れてくれたリーナの家族。いろいろウソを重ねてしまったけど、大切な存在。

 

 守らなければ。


 外を睨んでいたユウが、私を見る。


『近所の奴らが集まって来たみたいだ』


「奥様。周りに人が集まってきています。ここまでにしましょう」


「ちっ」


 ドン。

 

 神父の言葉に、クズが苛立った様子で扉を叩きつけた。


「よく考えなさい。私に逆らって、三人の子供を失うか。一人だけでも守り切るか。あぁ、この村から出て行けると思わないでね。それは、絶対に許さないから。逃げ出したって、逃げ切れるわけがないのだから」


 最後は楽しそうに笑って去って行くのがわかった。


『近所の奴ら、前に見た時と少し様子が違う。機嫌悪そうに、こっちを見ている奴もいる』


 ユウの報告に小さく息を吐き出す。


 きっと、貴族と問題を起こしたからだろう。こうなると、近所の人たちは当てにならない。もしかしたら、私たちを見張っている者もいるかもしれない。


「リーナ、もう動いても大丈夫よ。リビングに戻りましょう」


 お母さんを見上げると、かなり顔色が悪い。


「お母さん、大丈夫?」


「えぇ、もちろんよ。さぁ、早く行きましょう。ここにいてはダメだわ」


 私の背に添えた、お母さんの手からかすかな震えを感じ、ギュッと手を握りしめ、悔しさをこらえる。リビングに入ると、妹のスーナが毛布をかぶった状態でソファの上で震えていた。お母さんは急いでスーナに駆け寄り、毛布の上からギュッと彼女を抱きしめた。


「おか、あ、さん」

 

 声を詰まらせながら、小さな声でお母さんを呼ぶスーナ。


『今すぐ、さっきの奴らをぶっ飛ばしたい!』


 ユウの怒った声が部屋に響く。


 カタカタ、カタカタ。


「えっ?」


 窓を見る。そして、ユウを見る。


 今、もしかしてユウの怒りで窓が振動した? 霊力レベル一の力では、物を動かせるはずがないんだけど……。


「スーナ、大丈夫よ。ありがとう、約束を守ってくれて。もう、声を出して大丈夫よ」


「うっ、うわあぁ~」


 スーナはまだ三歳。あんな幼い子を怯えさせるなんて。


 『なぁ、リーナ。あいつらをどうにかできないか? 絶対にあいつらヤバい』


 うん、クズ共は人の命をとても軽くみているから、何をするかわからない怖さがある。急いで、対策を考えないと。


「お母さん、部屋に戻るね」


「えっ? 一緒にいた方が……」


 心配そうに私を見るお母さん。


「大丈夫だから」


 私がきっとなんとかしてみせる。


「そうだ。教会の教えが載っている本はある? 読みたいんだけど」


『そんな本より、どうやってあいつらを潰すか考える方が先だろう?』


 ユウが怪訝な表情で私を見る。


 私もクズ共を、叩き潰す方法を考えたい。でも、私がやろうとしている事が、この世界でどれだけ危険なのか知っておく必要がある。

 

 だって、ユーレイを使ってクズ共を叩き潰すつもりだから。


『あれ? なんだろう? 寒気が』


 ユーレイなんだから寒気なんて感じないはずだけど、何を言っているの?


 チラッとユウを見ると、本当に腕をさすっている。まさか本当に寒気を感じたの?


 本当に不思議な存在だな。


「リーナは本当に勉強が好きね」

 

 えっ? 私が勉強好き? リーナはそんなに勉強が好きではないみたいだけど。あっ、皆に褒められるから頑張っていたんだった。ただ、それほど成績は良くないね。


「教会の教えが載っている本なら、本棚に数冊あるわ」


 やっぱりあった。信心深いから、教会関連の本があると思ったんだよね。


「リーナの年なら、これがいいわ」


 子供向きになっているのがわかる本を、お母さんから受け取る。


「ありがとう」


『本当に、そんな本を読むのか? 時間のムダだって!』


 不満げに叫ぶユウを無視してリーナの部屋に戻る。


『なぁ、それがなんの役に立つんだよ!』


「はぁ、あのさ、ユウ」


 ため息を吐きながらユウを見ると、不機嫌な表情をしていた。そんな彼を見て、もう一度ため息が出た。

 

『ため息をつくと幸せが逃げるぞ』


「誰のせいでため息をついていると思うの?」


 笑顔でユウを見ると、視線を逸らされる。


『そんな事より』


 あっ、話を変えたな。


「何?」


『それ、今必要なのか?』

 

 ユウが私の持っている本を指す。


「とても必要よ。だって、ユーレイがこの世界でどういう立場なのか、知っておかないとダメだから」


『俺の立場?』


 不思議な表情をするユウ。


「そう。女神にとってユーレイが、良い存在なのか、悪い存在なのか」


 もし悪い存在だったら、ユウの事を絶対にバレるわけにはいかない。リーナの家族まで、巻き込む事になるから。


『そっか。この世界では、俺が悪い存在の可能性もあるのか』


 考え込むユウを放置して、ベッドに座りお母さんが勧めてくれた本を開く。

 

「あっ」


 そうか、ここは世界が違うんだ。文字が違って当然だよね。しかも、リーナはまだ五歳。読めない文字があっても仕方ないかよね。


『どうした? あっ、文字が違うのか。もしかして、読めないのか?』

 

「読める文字と、読めない文字があるみたい」


『リーナはまだ幼いからな』


 まぁ、結構読めるみたいだし、なんとか理解はできるかな。


「とりあえず読んでみるね」


『俺も一緒に知りたいから、声を出して読んでくれないか? 俺には、全く理解できない文字みたいだから』


「いいよ」


 ユウが私の後ろに来ると、一緒に本を覗き込む。


 あれ? 文字が理解できないのに、なぜそこに? まぁいいか。

 

 時々つまずきながら、なんとか読み終え本を閉じる。


『つまり、俺は……』


 悲しげな表情で本を見つめるユウ。


「ユーレイは、女神から罰を受けた存在みたいだね」


 この世界では、死ぬと女神さまの下へ行けると考えられているみたい。でもそれは、善行を行ってきた者たちだけが行ける場所。悪事を働いていた者たちは、女神から罰を受け、永遠にこの世を彷徨うと書いてあった。


「子供向けだから、簡単に書かれているけど大切な事は書いてあるはず」


『うん。つまりユーレイは、この世界にとって悪い存在だよな』


 そういう事になる。


「悪い存在を見る者は……悪い存在かな?」


『そう……考えられるかもしれないな』


 ユウが申し訳なさそうな表情で私を見る。


『ごめん。俺が傍にいるせいで』


「それは気にしないで、私はユウが傍にいてくれて良かったと思っているんだから」


 たった一人で憑依していたら、心が壊れていたかもしれない。


 それにしても、家族と話した時、ユウの事を誤魔化しておいて良かった。話していたら、大変な事になっていたと思う。


「もう少し詳しく書いてある本が読みたいな。この本だけだと、わからない部分も多いから」


 子供向けだと、言葉を濁している部分も多いはず。女神の罰と書いてあったけど、その罰がどういう物なのか、それはこの本ではわからなかった。あと、見える存在がいるのか、いないのか。

 

「呪いの事が、少しわかったね」


 呪う方法や種類はわからなかった。でも、呪いに手を出した者や協力した者は、女神が決めた罰を女神に代わって大司教が下すみたいね。それと、呪いにかかった場合は、教会に助けを求めよと書いてあった。

 

『最後の部分はウソだけどな。神父があれだぞ? 教会は当てにならないだろう』


「うん」


 でも、協力を求めるなら教会なんだよね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ