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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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10話 リーナはリーナ

 話を聞き終えたアグスは視線を下げ、ジッと何かを考え込んでいる。リーナの両親と違って、女神さまの恵みだとは思えないのかもしれない。


 まぁ、当然だよね。


「リーナが死んで、女神さまが新しいリーナを?」


 アグスの呟きが耳に届く。

 

 彼は、何を考えているんだろう?


「リーナ」


 アグスが私を見る。


「何?」


 何を言われるのか想像できないから、すごく緊張する。


「リーナの記憶があるのは本当?」


「うん」


「去年の夏、祭りで飴を買ったんだけど、覚えている?」


 祭りで飴? ……あっ、思い出した。


「うん。お兄ちゃんが買ってくれた花の形をした飴だよね。嬉しくて、どこから食べようか迷っていたら」


 あれ?


『どうしたんだ? 困った表情をして』


 私を見て、首を傾げるユウ。


「つまずいて、飴を地面に落としてしまった私は……泣いたよね」


 泣いたって言うか号泣した記憶がある! いや、飴を落としただけで?


「あっ」


 鼻水まで垂れたんだった……。それを、お兄ちゃんに拭いてもらった記憶……記憶が……うわぁ。


 顔を両手で隠して下を向く。

 

 リーナはまだ五歳だからいい、でも私は三一歳。そう三一歳なの! この記憶はダメ。恥ずかしすぎる。


「なんだ、リーナはリーナだね」


「えっ?」


 アグスを見ると、嬉しそうに笑って私を見ている。


「リーナは恥ずかしい時、そうやって両手で顔を隠していたよね」


 あっ、 両手で顔を隠して下を向くのは、リーナが恥ずかしいと感じた時の癖だ。


「リーナ」


「何?」


「リーナは、俺の知っているリーナで間違いない」


「えっ?」


 リーナで間違いない? つまり、私をリーナだと認めてくれたって事でいいのかな?


「ありがとう、お兄ちゃん」

 

 恥ずかしい思いをしただけあったって事にしておこう。うん、その価値はあった……はず。


『なぁ、なぁ、何がそんなに恥ずかしかったんだ? すごく気になる、あとで教えてくれ』


 絶対に言わない。ユウが知ったら、間違いなくからかって来る。

 

「さぁ、話も終わったし、朝ごはんにしましょう? そろそろ食べて用意しないと、お父さんが仕事に間に合わなくなるわ」


 お母さんがキッチンに向かう。


 そういえば、朝ごはんがまだだったな。今まで緊張で感じなかったけど、お腹が空いた。


「お母さん、手伝うよ」


「私も」


 お兄ちゃんがキッチンに向かったので、そのあとを追う。


「二人ともありがとう。これを運んでくれる?」


 お兄ちゃんには、お茶の入ったコップ二個と、ミルクの入ったコップ二個が乗ったトレー。

 私には、大皿に盛られたサラダが渡される。


「気を付けてね」


「「うん」」


 サラダの入った大皿を持って、ダイニングに向かう。


 あれ? 運びづらいと感じるのは、どうしてだろう?


 大皿をテーブルに置いて首を傾げる。


 あっ、そうか。元の私とは、手の大きさが違うんだ。そのせいで、大皿が持ちにくいと感じたのか。

 

「リーナ、手がどうかしたのか?」


 心配そうに私を見るお兄ちゃん。お父さんも、何かあったのかと心配そうに私を見た。


「大丈夫」


 どう言えばいいんだろう。あっ。


「つまずかなかったから、安心してたの」


「そうか。確かにリーナは、少しおっちょこちょいなところがあって、よくつまずくもんな」


 お父さんの言葉に、つまずいては泣いていた、リーナの記憶が次々と思い出される。


「……これからは、気を付けるね」


 おっちょこちょいとはいえ、つまずきすぎでは? それに、あんな恥ずかしい泣き方をよくしていたなんて。


「大丈夫だよ、お父さん。リーナのためにハンカチを一枚多く持っているから」


 お兄ちゃんが自慢げに言うと、お父さんが嬉しそうにお兄ちゃんの頭を撫でる。


 涙と鼻水を拭くための? うわぁ、本当にこれからは気を付けよう。


「アグスは妹想いだな」


 それは、私も思う。とっても妹想いの、素敵なお兄ちゃんだと。


「だって、リーナとスーナはすごく可愛いから」


 アグスの笑顔に、胸が少し痛む。


「さぁ、食べましょう?」


 お母さんが、焼き立てのパンが入ったカゴを持ってダイニングに入って来る。

 

 さっきから思っていたけど、おいしそうな香り。


「「「「いただきます」」」」


 私がリーナになってから、皆で食べる二回目の朝ごはん。皆の様子が前回と同じな事に、ホッとする。


『はぁ、焼き立てパンの香り、いいなぁ』


 パンの入ったカゴの傍で、何度も深呼吸しているユウに視線を向け、そっと視線を逸らす。


 見なかった事にしよう。

 食べられないのは可哀想だと思うけど、恍惚とした表情で匂いを嗅いでいる姿はダメだ。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」


 やっぱり、皆で食べるご飯はおいしいよね。

 

 前の私は、家族も私自身も仕事に追われていて、なかなか一緒に食べる事ができなかった。それだけが、少し心残りかな。もっと家族の時間を持てば良かった。まさか、こんなに早くその時間を失うなんて思わなかったから。


「仕事に行ってくるな。アグスは学校だな。途中まで一緒に行こうか」


 お父さんが出かける用意を終わらせると、お兄ちゃんの肩に手を置く。


「うん。すぐに用意するね」


「私も――」


「リーナはもう少し様子をみよう。熱が下がったのは昨日だ。またぶり返すかもしれないだろう?」


 えぇ、もう大丈夫だと思うけど。心配させるのはダメだよね。


「わかった。家でゆっくりするね」


 皆が出かけたら掃除をして、それからゆっくり過ごせばいいよね。


 嬉しそうに笑って私の頭を撫でるお父さん。それにつられて、私も笑顔になる。


「お待たせ。リーナ、掃除なんてしなくていいから、ゆっくり過ごすんだよ」


 あれ? 掃除もダメなの?


「これは掃除をするつもりだったな。ダメだぞ。今日はゆっくり寝ていなさい」


 お父さんが真剣な表情で言うので頷く。


「はい」


「よし。アグス、行こうか」


「うん。行ってきます」


 お兄ちゃんが私に笑顔で手を振る。


「行ってくる」


 お父さんはお母さんに片手を上げると、玄関を開けた。


「「行ってらっしゃい」」


 お母さんと二人で、お父さん達が見えなくなるまで見送るとリビングに戻る。


「スーナがそろそろ起きてくるわね。リーナは、お昼まで寝ていなさい」


「うん、わかった」


 お父さんとの約束だし、お母さんを心配させたくないからね。


「おやすみ」


『リーナ。クズが家の前にいる』


「えっ?」


 ユウの言うクズって、私たちを呪った奴の母親かな?


 急いで玄関に向かい、鍵をかける。それにホッとしていると、


 ガチャガチャガチャ。

 ドンドンドン。

 ドンドンドン。

 ガチャガチャガチャ。


 扉を開けようとする音と、叩く音がした。

 

 『うわ、こいつ。扉を叩く前に開けようとしたぞ。最悪だな』


 本当にね。人様の家に、許可もなく入り込もうとするなんて。


 ドンドンドン。


「中にいるのは、わかっているのよ! 開けなさい! 今日こそ、私の娘を助けなさい」


 知るかよ。人を呪っておいて、反撃されたからって助けろ? そんな義理なんて、ないんだよ!


『今日も教会の奴が一緒だな』


「リーナ」


 慌てた様子で玄関に来たお母さんが、私を抱きしめる。


 あっ、お母さんが震えている。


「大丈夫よ、きっとすぐに帰っていくわ」


 お母さんの小さな声に頷いて、背中に手を伸ばす。


 ドンドンドン。


「この人殺し!」


 それはお前の娘だろうが。


「お前の息子と娘を渡しなさい! 断ったら、この村では生きていけないようにしてやる! 」


 ……はぁ?


 ビクッ。


 震えの酷くなったお母さんに、ギュッと抱きつく。


「お母さん」


「大丈夫。大丈夫だから」


 お母さんの震える声に、奥歯を噛みしめた。

 

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