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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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9話 女神さまの恵み

「あの、ごめんなさい」


 リーナの両親に向かって、深く頭を下げる。


 ユウは「奪ったんじゃない」と言ってくれた。でも、私は、私がリーナの体を奪ってしまったのではないかと考えてしまう。

 

 もし私がいなかったら? もしかしたらリーナは、生きていたかも……。いえ、それはない。本当は、わかっている。空っぽの体にしか、憑依できない事は。だから、ユウの言っている事は正しい。でも、気持ちが追いつかない。特にリーナの両親を前にすると罪悪感で苦しい。


「謝らないでくれ。君がここに来たのは、女神さまからの恵みだと思うから」


「えぇ、そうね。女神さまから私たちへの恵みだわ」


 リーナの父親リグスの言葉に、母親カーナも頷く。


『この世界は女神信仰なのか? あっ、だから棚の上に女神像が置いてあるのか』


 そうみたいね。しかも、かなり信心深い人達みたい。

 

「あなたの事を、これからもリーナと呼んで、そして私たちの娘だと言っていいかしら?」


「えっ?」


 驚いた表情でカーナを見る。

 

 もしかして、今の説明だけで納得してくれたの? そんな簡単に?


「あなたが私たちのところに来たのは、リーナを失ってしまった私たちを、女神さまが憐れに思ったからだと思うの」


 いや、それはどうかな? 憑依している時点で女神さまにとって「予定外の存在」だし。

 

「あぁ、そうだな」


 リグスも納得した様子で頷く。


『女神信仰って怖いな』


 ユウが、リーナの両親を怪訝な表情で見る。


「どうかな? このまま我々と一緒に、生きていく事はできないだろうか? それとも、女神さまから何か使命があったりするんだろうか?」


 リグスが私を心配そうに見るので、無意識に首を横に振っていた。


「本当にいいのですか?」


 私の小さな呟きに、リグスとカーナが笑顔で頷く。

 

「えぇ、もちろんよ。私たちはリーナを守れなかった、でも女神さまが新しいリーナを恵んでくださった。あなたは、私たちにとって奇跡だわ」


 「私」が、女神さまの恵みか。おそらく違う。


 でも、だったら誰が私を憑依させたという話になる。女神さまではなかったら?


『女神信仰が怖いけど、これでいいんじゃないか。彼女の話を否定したら、危険だと思う』


 私もそう思う。

 

「ありがとうございます」


 私の返事に嬉しそうに笑い合う二人を見る。この返事は、正しくないだろう。でも、私は危険に陥りたいわけではない。


 ごめんね、リーナ。


「リーナ。もう一つ確認したいんだが、君は精霊が見える者なのか?」


 リグスの質問に、少し視線を落とす。


 女神信仰が強いこの世界で、ユーレイはどういう存在なんだろう?

 

『わからないと言ってみたらどうだ?』


 わからない?


『見える。でも、それが何かはわからない』


 なるほど。


「見える者がいます。でも、それが精霊なのかはわかりません」


 私の答えに、リグスが空中に視線を向ける。


「もしかして、ここにもいるのかな?」


「はい」


「その者に、正体を聞く事はできない?」


『ん~、今は言えないと言っている事にしよう』


 なんで?


『ほら、伝えて』


「今は言えないそうです」


 私の答えに目を見開くリグス。カーナは興味深げに、空中を見回している。


「そうか」


「あの、精霊ってなんですか?」


 この世界では精霊はどんな存在なんだろう? 特に女神さまとの関係が気になる。


「精霊というのは、自然界が生み出した者なんだ。数百年前に一人、見える者がいたそうだけど、今は虚言だったのではないかと言う研究者もいる。実は、私も少しそう思っていた。すまない」


 リグスが申し訳なさそうな表情で私を見る。


「謝らないで下さい。それは仕方ないですよ。見える者が少ないですから」


 自然界が生み出した者か。それにしても、見える者が数百年前に一人? 少なすぎない? 本当に虚言だったりして。


「女神さまは精霊をとても大切にしていて、見える者は女神さまから寵愛を受けると言われているんだ」


 女神さまと精霊は、いい関係みたい。良かった。精霊が見えると誤解された時に、迫害を受ける事はなさそう。

 

「そうだわ。教会に知らせないと」


 えっ、それはイヤだ。というか、精霊だって言っていないのに!


 カーナの言葉に首を横に振る。


「そうだな。明日にでも教会に行こうか」


 私の反応に気づかなかったのか、リグスも乗り気だ。


 最悪だ。二人の中で、ユウは精霊となってしまった。


「待って下さい。この事は、誰にも知られてはダメなんです」


 あっ、言い方を間違えた。


『今の言い方だと、俺がダメだと言っているみたいだな。でも、そのほうがいいか』


 えっ、そう?

 

『「精霊が知られたくない」と言っているからにしておいたほうが、面倒くさくなくていいだろう』


 それは、確かにそうだけど……。


「精霊が、そう言っているのか?」


 ユウをチラッと見る。なぜか自信満々な表情で頷いているけど、ユウは精霊ではないからね。


「はい」


 気まずい。

 

「そうか。もしかしたら、俺達が知らないだけで精霊を見る者は、他にもいるのかもしれないな」


 どうかな? 完全に否定はできないけど、賛成もできない。


「そうね。それに、精霊を見る事ができると知られたら、利用しようとする者が現れるかもしれないわ」


 それはものすごく面倒だろうな。うん、申し訳ないけど「精霊のお願い」という事にしておこう。


 リグスとカーナが顔を見合わせる。そして私を見て、二人が微笑んだ。


「教会には言わないし、誰にも言わない。あっ、アグスには言ってもいいか? あの子は、気づいているみたいだから、隠すより言ってしまったほうがいいと思うんだ。いろいろと協力もしてくれるだろうし」


「はい」


「リーナ?」


「はい?」


 カーナを見ると、少し寂しそうな表情をしている。


 えっ、何かしてしまったかな?


「難しいのかもしれないけど、もっと気軽に話してくれていいのよ? 私たちは家族なんだから」


 あっ、そうか。家族になろうと言ってくれているのに、他人行儀みたいだったよね。


「うん、わかった。ありがとう、お母さん。お父さん」


 改めて言うと恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。


『うわっ、顔が真っ赤だぞ』


 余計な事は言わなくていい!


 ユウを睨むと、お母さんが小さく笑い声をあげた。


「えっ?」


「精霊とは仲がいいのね」


『その通り! 俺とリーナは仲良しだ』


「それほどでもないよ」


『なんで? 仲良しだろう?』


 もっと強く否定すれば良かった。


 コンコンコン。


「お父さん? お母さん?」


 アグスの心配そうな声が、扉越しに聞こえ視線を向ける。

 

 どうしたんだろう?


「あら、話が終わるまで待っているように言ったのに。リーナが心配で来てしまったみたいね」


 リーナが心配で?

 

「入っていいぞ」


 お父さんが返事をすると、すぐに扉が開きリビングにアグスが入ってくる。


「リーナ」


 心配げにリーナを見るアグス。


「心配してくれたありがとう、お兄ちゃん。でも、大丈夫」


「そっか。それで、その……」


 私を窺うように見るお兄ちゃん。その表情の可愛らしさに、言葉が詰まる。

 

 お父さんに似ているからいずれはイケメン。でも今は、可愛らしいから癒される。

 

『この子、あと数年もすればお父さんよりイケメンになりそうだよな。いろいろな女性を泣かせそう』


 ユウ、あとで説教決定!


「アグス。これからいう事をしっかり聞くんだぞ」


「うん」


 真剣な表情でお父さんと向き合うお兄ちゃん。何が始まるのかと、私まで背筋が伸びる。


 そして始まったお父さんによる、私の説明。いろいろとウソが混じった説明に、どんどん視線が下がっていく。


 本当にこれで良かったのかな?

 

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