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#025 幕間・ルルネという少女

【リムロ大橋の戦い・オメガ視点】




リムロ大橋の入り口を守るかのようにしてこちらを睨み付ける狼の群れ。

いや、群れというには数が多過ぎだ。


俺たち冒険者の集団との接敵まではまだ少し時間がありそうだが、いつ戦いが始まってもおかしくはない。


周りの冒険者達の表情には微かな緊張の色が見てとれた。

まあそれも当たり前だろう。

モンスターとの戦闘には慣れている彼らだが、これほどの大規模集団との戦闘は初めての者が多いはずだ。

集団戦というのは慣れが必要だ。

それを理解しているからこそ、この即席の集団でどれ程戦えるのか、不安を感じているのだろう。


それに相手は現実に存在する狼に近い見た目をしている。

仮想現実というVRゲームにおいて、敵の見た目というのは重要だ。


極端な話、人の見た目をした敵との戦闘に躊躇いや恐怖を感じる者、ゾンビや幽霊といったモンスターに拒否感を感じる者というのはそれなりにいる。


その中でも「現実の獣をベースにした見た目の敵」に強い拒否感を感じるプレイヤーは意外と多い。

身近に感じる恐怖こそが「現実味」というやつが強いのだろう。



ただ正直、そのような要因を加味しても、この戦いのプレイヤー側の勝利は揺るがない。

俺たち「クレイモア」の出した斥候によって敵集団のおおまかなレベルは把握している。

数の差は狼達が3倍近いが平均レベルはこちらが一回り上だ。


群れの長であろう狼だけは突出してレベルが高いようだけど、そこの相手は俺たちの団長が相手することになっている。

あの団長のことだ、敗北はあり得ない。


殲滅にそれほど時間はかからないだろう、というのが「クレイモア」の見解だった。

まあ多少の緊張感が無くては、こちらの士気に影響するため、その辺りの情報は公言していないけど。


周囲に漂う緊張感を払拭すべく何か声でもかけようか、そんなことを考えていると――



「狼肉って食べられるのかにゃ!?にゃ!?」



同じパーティーにいた獣人の少女が楽しそうに声をかけてきた。

プレイヤーネーム「しゅがぁ」。

最前線組の一人。

それもとびきり美少女であることは間違いないものの、このハイテンションさは正直苦手だ。

どうして最前線組の女性プレイヤーってみんな見た目は可愛いのに、性格のアクが強いんだろう。


「肉食の獣の肉は臭いと聞いたことがあるけど、どうなんだろうな……」

「えー!」


そんな他愛も無いやりとりをしていると、見覚えのある顔が見えた。


銀髪和ゴス衣装の少女。


いや、見覚えというものの、実際に会った訳ではない。

掲示板でネームドモンスターを討伐したプレイヤーの1人として話題に上がっていたから、配信のアーカイブを見たことがあるだけだ。


クレイモアの団長と同じ「回避」という高みに至っている彼女。

見間違えるはずがない。



それに――――



「くっそかわいいんだけど……」

「オメガ君顔がキモいにゃ」















そんな彼女と決闘することになったのは完全に成り行きだった。


リムロ大橋での戦いでは、ルルネちゃんの火力は見ることができたものの、「回避」の技術を見ることは出来なかった。

それを実際にこの目で見たいという理由が半分。

団長の「強者探し」の手伝いになれば、という理由が半分。

可愛い子とお近づきになれればなんていう下心は少しも微塵も、いや一切無い。

無いったら無い。



断られる前提で出した決闘申請は意外なほどすんなりと受理され、現在に至る。



「ではルルネ君、お先にどうぞ?」


「……くくくっ、やはり人間は愚かな生き物じゃのう」



正直に言ってしまえばこの決闘、どう転んだところで俺の勝利は揺るがない。

武器はともかく、防具において圧倒的なまでの性能差があるからだ。


ルルネちゃんが「ハンデ」と装備品の装着を認めた時点で勝敗は決している。

それほどまでに決闘ルール下での装着品の影響は大きい。


ルルネちゃんはその事をあまり理解していない様子だったが、今回は実力を見るためにもその言葉に甘えさせてもらおう。

ふふふ、卑怯とは言うまいな。


初手を譲ったのもそれが理由。

万全の状態で迎え撃つ。

突貫してくるルルネちゃんに向けて俺は盾を構えた。


振り下ろされた斧が金属と金属がぶつかり合う激し衝撃音。


盾を通じて、その衝撃の強さが伝わってくる。

体勢を崩すことは無いものの、左手には微かな痺れすらある。

視界の端に浮かぶHPバーに目をやれば、今の1撃だけで全体の1割程の減少が確認できた。


(俺がダメージを、受けた……?)


「――痛っったいのじゃあぁぁッ!?」


悲鳴をあげるルルネちゃんの声に我に返ると、慌てて余裕の表情を作り、動揺を隠す。

火力特化ステータスのルルネちゃんとはいえ、こちらの装備は44レベル相当のものだ。

それにこちらは防御に特化させたステータスビルドをしている。

攻撃スキルでも無い、大振りな通常攻撃。

本来であればダメージを受けるはずが無い。

それも完璧に盾で受け止めているのに、1割弱HPを削られた。


(それほどまでに、あの斧は……!)


盾で受け止めて、あのダメージだ。

もはや実力を見るなんて悠長なことは言ってられない。


片手剣を握る手に力を込める。

俺の剣は「特別仕様」だ。

切断能力を維持させつつも、軽さに特化させている。

軽いということはイコールで「速い」ということに他ならない。


(回避できるものならしてみろ!)


盾でルルネちゃんの攻撃を受け止めたまま、俺は剣を振り上げた。


「にょわあぁぁッ!?」

「……ほう」


しかし、俺の予想に反してルルネちゃんはそれを容易く回避して見せた。


(うそだろ、おい……)


この少女にはどれだけのものが見えているんだ。

いや、もはや目が良いなんていうレベルじゃない。

ルルネちゃんの目の良さは、異能といっても差し支え無い次元にある。

この少女であればきっと――


「す、すす、す少しはやるようじゃな!」


「君の方こそ、予想をはるかに上回る才能だ。……だからこそ、俺の真の力をお見せするとしよう」


「――……ほへ?」


ここまで良いものを見せてくれたんだ。

お礼にこっちも切り札を見せよう。


っていうか、このまま普通に戦えば俺の敗北の可能性も浮上しそうだ。

ほんと恐ろしいな、この子……。


俺は手にした片手剣に力を込め、その力を解放した。


「【ヴァイスヴァール】!


成人を迎えた方、おめでとうございます。




非常に短いものになりますが、キリを良くしたいので近いうちにもう一話だけ投稿させて頂きます。

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