師匠とご対面
お待たせしました!!!
あまり書き溜めが無いのですが、夏のコミックマーケット94に受かったのでその原稿作業などで時間が余り取れないのですが、ちょいちょい更新していくつもりです。
総司さんに武術の先生を紹介してもらう約束をした僕は、後からやって来たお母さんとお父さんに代わるがわる抱きしめられた。
とは言っても、身体に気を使って頭を優しく包み込むだけにとどめてくれている。
「もう、あまり無理しないでね?」
「あまり母さんを心配させてはダメだぞ」
2人の優しさに涙がでそうになる。でもお父さん、それはちょっと違うよね?
それに、お母さんの腕に抱かれている我が家の天使も僕を心配してくれていたようだ。
「ねーね、だいじょうぶ?」
3歳になり発音もしっかりしてきた霙。夜になっても帰ってこない僕を心配してくれたみたい。マジ天使すぎない?
翌日、治療を終えて、診察結果を家族と愛浬一家と共に聞いている。ちなみに愛浬は僕の横!
検診で完治のお墨付きをもらい、これで無事退院できる。ただし背中の傷跡が消える頃にもう一度訪れなければいけないようだ。
そして椅子で向かいに座っている先生によれば、
「傷跡は消えると思うけど、体温が上昇すると薄っすらと浮かび上がってくるかもしれないわね」
とのこと。
僕としてはフーン程度なのだけれど、隣で聞いていた愛浬が落ち込んでしまった。
「これはあいりを守れた名誉の負傷だから、ボクは気にしてないよ!」
「……うん」
と慰めてあげたら、ちょっとだけ元気になった。けどやっぱり、暗い顔のまま。
ならば、ここは奥の手!
「ぎゅーーーーっ!」
「キャッ! もう凪沙ったら…………でもありがとう、ぎゅ」
突然抱きしめられて驚いた愛浬だけど、嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
「あらあら、アツアツねぇ。私も混ぜてもらいたいわ…………いやでも、これはこれでアリね」
先生、なに言っているのかな?
僕は愛浬のことが大好きだけど、今は女の子同士なわけだし、愛浬はメインヒロインで僕はサブヒロインで、でも僕は愛浬が大好きで愛浬が良いなら…………だめだ、これ以上考えると深みにはまりそう。
泥沼になりそうな思考を切り替えようとしたら、後ろで話を聞いていた霙が突撃してきた。
「ねーね、みぞれもギューーーー!」
僕の足にギュッとしがみ付いてくる。愛くるしさ100倍増し!
「あらあら、凪沙に抱き着かれている愛浬ちゃんがうらやましいのかしら」
片手を頬に充てて頭をかしげるお母さん。
家だと良く霙に抱き着いているから、その所為かな?
「ああぁ、天使が3人でキャッキャうふふ……医者をやっていてよかったわ」
僕が嫁と天使に抱き着かれている姿を見てだらしない顔をする医者のお姉さん。鼻から赤いモノが。
というか仕事してください、仕事。
「あのぉ、先生? 凪沙はもう退院は出来るのでしょうか」
「ハッハイ、大丈夫ですよ。何処にも異常がないようですし退院できます」
いそいそと鼻にティッシュを詰め込む先生。医者としての威厳というものが全く感じられない姿に呆れた雰囲気のお母さん。
いや、医者としては優秀な人なんだよ? ただ性癖があれなだけで。
「なんならもう少し入院していって個人的な検査を――――――」
「先生ありがとうございました。さあ凪沙たち、帰りましょう」
「あーーー私の天使ちゃん達がーーー!」
お母さんに発言をぶった切られた先生が悲しみの声を上げるが、僕たちはそそくさと手を引かれていった。
うん、医者としては優秀なんだけどね……。
退院して数日が経ち、小学校の入学式まで10日程となった日。
朝から霙に絵本を読み聞かせしていた。ちなみに仕事であまり家にいないお父さんも一緒。
そういえば、お父さんは何の仕事をしているのか聞いたことないな。
忙しい仕事という事だけはわかっているけど、聞いたことがなかった。後で聞いてみよう。
お父さんの膝の上で霙と一緒に座りながら絵本を眺めているとお母さんの携帯電話に総司さんから準備ができたと連絡があった。
準備とは僕と愛浬が強くなるために習う師匠と場所の確保、そして大丈夫なら今からでも連れて行ってくれるという。
「今すぐ行く!」
と返事をすれば、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
なにごと!? と驚けば招かれて入ってきたのは愛浬と総司さん。
「凪沙ならそう言うと思って、家の前で電話かけたのよ」
「流石愛浬だ。既に凪沙くんの行動を把握したか」
「なん……だと!?」
驚きの真実!
僕の動きが予想されているなんて…………愛浬、恐ろしい娘!
なぜか隣で、なるほどと頷いている総司さんが印象的だった。
お母さんと霙にお見送りされ玄関から外へ出ると、じーやこと佐々木さんが家の前に停まっている黒塗りの高級車に何ごとかと見に来ていたご近所の奥様方をナイスミドルな笑顔と話術で骨抜きにしていた。さすじー!
高級車で揺られること10分程。
訪れたのは、民家の立ち並ぶ住宅街に少し立派な木製の門の前。車から降りて中を覗くと木造の道場が見え、今は稽古をやっていないのか声は聞こえてこない。
総司さん先導の元、道場の中へ入ると20歳半ごろと思われる1人の女性が立っていた。
瞑想をしているかのように目をつぶる彼女の姿は、柔道などで使われる道着を身に着け、黒髪のポニーテールが静かに垂れ下がっている。
彼女はただ目をつぶり佇んでいるだけ。
それなのに‟激しい”と感じた。
ジッとしているはずなのに何かが動いている。立ち止まり集中して彼女を見つめていると、微かに体の外側に川の水面のような揺らぎが感じ取れた。
力強く、それでもって淀みのない流れ。
「すごい……」
口から言葉が漏れると、声に反応した彼女は瞼を開き、ゆっくりと薄緑色の瞳が露になる。
「来たか」
凛とした落ち着きのある声。囁くような音量だったのに不思議と道場内に響き渡った。力強さを彷彿とさせる眼、涼やかに響く声。
かっこいい。
そう思って彼女を眺めていると、左手をギュッと握られた。
「むーーー!」
左を向けば、なぜかムクれている愛浬の姿。
なんで愛浬は拗ねているのだろう……。もしかしてヤキモチ? いやいやそんな馬鹿な。
でも、拗ねた顔もかわいい!
「おーい、ここでイチャイチャされても困るんだが」
と抱き着こうかと思っていたら、目の前の女性に注意されてしまった。
「な、べっべつにイチャイチャなんてしていません!」
慌てて反論する愛浬だが、顔が赤くなっている。どんな顔でも可愛いなぁ! と愛浬に頬を緩ませる。
そんな僕たちを置いて総司さんと道着の女性が話し始めた。
「それはどうでもいいとして、総司さん。そこにいる子供たちがそうですか?」
「そうだ、冴子君にお願いした子たちだ。今日からうちの娘共々よろしく頼む」
総司さんがお辞儀をしたのに気が付き、僕と愛浬も慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
こうして、僕と愛浬は彼女、武藤冴子さんから教えを乞うことになったのだ。
あれ、どこかで聞いたことあるような名前だけど気のせいかな?
少し頭を捻りつつも、軽く名前のみの自己紹介を終え早速教えてもらおうと思った時、僕と愛浬が普段着なのを思い出して焦った。
「どうしようあいり、服装が普段着のままだよ!」
「大丈夫よ、ちゃんと凪沙の分の道着も用意しておいたから」
愛浬の言葉を受けて、後ろから佐々木さんが道着を2着持ってきた。
「流石ボクの嫁!」
「も、もちろんよ。ほら凪沙、早く着替えましょ」
少し恥ずかしそうにする愛浬に手を引かれ、僕たちは更衣室へ向かう。
「あれ、あいりは更衣室の場所分かるの?」
「1度下見に来ているから、どこにあるか知っているの」
なるほど、流石は嫁! いろいろと抜かりない。
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