閑話 愛浬視点
要望もあり、個人的にも書きたかった愛浬視点です!
時系列は誘拐騒動あたりです。
・加執修正いたしました。
最初の6段落目、最後の段落を書き加えました。
わたしはその日、いつになく浮かれていた。
いつもなら注意していたのに。
なぎさと出会って早くも1年とちょっとが過ぎ、今までで1番楽しかった幼稚園を卒園する。
思い出のつまった場所だからさみしい気持ちもあるけれど、なぎさを通してわたしにあれこれと話しかけてくれるせんせい方とお話するのは楽しい。
そして何よりも、初めてできた友達と一緒の小学校に通えることがとてもうれしい。ちょっと変わった子だけれど、やさしくて、一緒にいるとたのしくて、とても大切な、1番の友達…………いいえ、たぶんそれ以上。
なぎさの言う、好きって気持ちはまだよく分からないけど。
卒園式も無事におわって、お世話になったせんせい達に花束をわたしてお話をすることに。
「愛浬ちゃん、凪沙ちゃんが無茶をしないように見張っていてね」
「あの子ったら、男の子同士のケンカでも仲裁するために入り込んだりするからね」
「凪沙ちゃんの嫁としてちゃんと見張っていてあげてね」
「もう、せんせい達まで!」
凪沙がいつも流石僕の嫁!て何度も言うからせんせい達にまで言われちゃう。
べ、べつに嫌じゃないけど、すこし恥ずかしいわ…………。
はじめて出会ったときの一言目が流石僕の嫁! 今日もかわいい! ですもんね。
今思い出しても笑っちゃう。
色々な保育園幼稚園に行ったけれど、どこも馴染めずにいたわたし。
ここもそうだろうと勝手に決めつけていたけど、なぎさと出会った。
つまらなかった日々を変えてくれたなぎさ。
初めてちゃんとした友達になってくれたなぎさ。
わたしに笑顔をくれたなぎさ。
なぎさは、とてもかわいいのにちょっと男の子っぽくて、変な子だけれどやさしくて、いつも暖かい笑顔につられてわたしも笑っちゃう。
そして、家族のつぎに大好きな人。
今は後ろでお父さんとお母さんといっしょに、せんせい達と話しているわたしを見ているみたい。なぎさのお母さんとお父さんは霙ちゃんがいるから、人混みを避けてとおくから眺めている。
「それじゃあせんせい達、わたしお父さんたちのところに戻ります」
「凪沙ちゃんの所でしょ?」
「もう、せんせいッ!」
茶化されて少し恥ずかしい。でも、それも前はなかったから嬉しい。
こんな風にみんなと話せるようになったのも、全部なぎさのおかげ。
せんせい達に挨拶をして、3人が待つ場所へ向かう。
昔話に花を咲かせる人混みを避けてとおまわりしていこうとしたら、知らない男の人に話しかけられた。
「すみません。一ノ瀬 愛浬様ですか?」
声をかけてきたのは、このお店の店員さんだった。
「そうですけど……」
店員さんが一体なんのようなの?
「実は、あちらで先生がお呼びでして、お話したいことがあると」
「せんせいが?」
一体だれだろう。
お世話をしてくれていたせんせいは、全員あそこにいるけど、ほかに居るのかな……。
この時わたしは、皆がいる安心感や卒園式というワクワク感で判断が鈍っていて疑わなかった。
素直に店員さんについていったわたし。
すると、なぎさがやってきて、わたしの手をつかんだ。
「ん? あれ、どうしたのなぎさ」
「あいり、どこに行くの?」
「せんせいが向こうでわたしを呼んでいるって、この店員さんが教えてくれたから付いていこうと思って」
ここを卒園したら会う機会があまりないから、今のうちに話しておこうとおもっていたのだ。
「あいり、どう考えたっておかしいよ。先生達はあそこに居るんだから。一体先生の誰があいりを呼んでいるんですか?」
「えっと、お名前を伺っていないので私には分かりません」
なぎさに問われた店員さんは困った風に答える。
「そうですか。あいり、その先生には悪いけどあいりのお父さんとお母さんも待っているし一旦もどろう?」
「そうなの? だったら一旦もどりましょう」
ここでわたしは少しハッとした。
どうして忘れていたのだろう。知らない人に付いていってはいけない。どうしても行きたいときは、大人の人を連れて行きなさいと教わった。
幸いなことに、まだ皆からそれほど離れていない。早く戻ろうと思っていたら、
「っち、いいからこっちに来い!」
店員さんが怒鳴るようにわたしの手を引っ張り、口をふさがれた。
え、なになになに!? 何が起こったの!
突然のことに頭の中がパニック。
大きくゴツゴツとした手が、わたしの左手と口を力強く抑えてくる。声もだせず、体をゆすってもうごけない。
誰かたすけてッ!
こわくてこわくて、わたしは目をつぶり助けを求めた。
すると鈍い音とともに口と手を塞いでいた力が弱まって引っぱり出され、驚いて目をあけると青色の髪が目の前を塞ぐようにひろがっていた。
なぎさッ!
男の子達にからかわれていた時のように、助けてくれた。
喜びそうになったけれども、
「このガキがぁ! 良くもやってくれたなぁああ!」
青髪のむこうで男が怒り狂う。今まで感じたことのない凶器のような目線がわたしを射抜く。
「ひっ……!」
一瞬の安堵もつかの間、あまりの恐怖にのどが引きつる。
「あいり、逃げて誰か呼んできて!」
「あ……あぁ……」
なぎさが何かいってる。
でも何をいっているのか分からない。
体も頭も、しびれたように動かない。
こわいこわいこわいこわい…………!
2人が何か言い合ってる。
そう思った瞬間――――
「オラッ!」
「あぐっ」
なぎさに抱きしめられながら倒れていた。
「なぎ……さ?」
無意識にでた声は掠れてる。
なんで、抱きしめられているの?
なんで、なぎさ苦しそうなの?
なんで、なんでなんで…………?
困惑するわたしをよそに、事態はどんどん進んでいく。
「よくも手間を掛けさせてくれたなぁ…………これは仕返しだ、オラァ!」
「グフッ!」
わたしの上に居たなぎさは男に蹴り飛ばされて壁に激突。壁に投げつけられた人形のように動かない。
「あ、あ、あぁ………………」
だめ、やめて、それ以上やったらなぎさが壊れちゃう!
叫びたい。止めたい。でも、体がうごかない。
どうしてうごかないの! このままだとなぎさが、なぎさがぁ!
なぎさが、わたしに手をのばす。まるで、必死に助けようとするかのように。
すごく体が痛いはずなのに、それなのにわたしを……。
しかし男の後ろ姿が、なぎさとわたしを遮る。
やめて、これ以上なぎさをいじめないで。だれでもいいから、なぎさを助けて!
ギュッと目をつぶり懸命に祈った。
自分ではどうにもできない。それが辛くて。悲しくて。情けなくて。
力強くつぶった目から涙が零れてくる。
そして長く感じられるほどの一瞬。
「お嬢様、もう大丈夫です」
「えっ…………。じーや?」
聞きなれた声がした。
目を開けると、じーやがいつもの様に立っており、男の姿は見当たらない。
「もう大丈夫です。ですのでお嬢様、凪沙様とご一緒に病院へ参りましょう」
「!? そうだ、なぎさぁ!!」
じーやの言葉でわたしの体はうごきだした。
すぐに立ち上がり、グッタリとしているなぎさの元へかけつける。
見れば背中は赤く染まり、痛々しいすがたに。
「なぎさ、なぎさ、なぎさ!」
わたしは、泣きながら彼女の手をにぎった。
なぎさから離れようとしないわたしは一緒に病院まで運ばれた。
もちろん、わたしとなぎさのお父さんお母さん達、霙ちゃんも一緒。
幸いなことに、なぎさの背中の傷はあまり深くなく、すぐに治るとお医者さんがいっていた。でも、傷は半年は消えないって……。
なぎさが治療してもらっている間、わたしは診断をかるく受けておわった。わたしだけがケガもなく身体は無事だった。そう、わたしだけ。
悲しくて苦しい。なのに嬉しくおもってしまった。
なぜなら、なぎさが守ってくれたから。
そう思うだけで、恐怖とは違うドキドキが心を支配した。
診断がおわったあと、わたしはなぎさのお母さんとお父さんに精一杯あやまった。
お父さんが優秀な社員さんを使って調べたら、あの男の人はお金目的でわたしを誘拐しようとしていたらしい。なぎさはそれに巻き込まれたのだ。
「なぎさのお母さん、お父さん。ほんとうにごめんなさい」
「愛浬ちゃん、頭を上げて」
なぎさのお母さん、静江さんは霙ちゃんを抱きながら困り顔でそう言った。
もしかして、許してもらえないかもしれない。
怖い考えが頭によぎり、もう一度あやまった。
これでなぎさに会えなくなる、そう思ったら誘拐されそうになった時とは違った恐怖がわたしを襲う。
何かしなきゃ。
考えても考えても、わたしに今できるのは精一杯あやまることだけ。
家がお金持ちだけれど、それはわたしのお金じゃない。偉いのもわたしじゃない。わたしは力のない、ただの子供でしかない。
今日だけで嫌というほど実感した。またもや、自分の不甲斐なさに涙がでそうになる。
いつまでも頭を下げるわたしに、静江さんはそっと語りかけてきた。
「凪沙はね。愛浬ちゃんが初めて幼稚園に来た次の日の夜に、また意地悪な男の子が来たら愛浬ちゃんを助けてあげれるように強くなるって、そういってたのよ」
「なぎさが…………」
顔を上げれば、静江さんは全く困った子ねと言いたげな顔をしていた。
「確かに不用心に付いて行ってしまった愛浬ちゃんもイケないけど、助けようとしたのは凪沙の意志。そして一番悪いのは誘拐を企んだ犯人なの。だからね、愛浬ちゃんがそんなに謝らなくてもいいのよ」
「……でも」
チラッとわたしは、先ほどから険しい顔で黙っているなぎさのお父さん、大吾さんを見た。
静江さんは、あぁ言ってくれたけど。やっぱり大吾さんは……。
「ほら、アナタ。ただでさえ厳つい顔でムスッとしているから愛浬ちゃんに勘違いされてますよ」
「え、かんちがい?」
わたしは何かかんちがいをしているのだろうか。
「全くもって犯人のやつは許しておけん! 出来ることなら私の手で叩きのめしてやりたいぐらいだ!」
「あの、わたしは……」
「愛浬ちゃんは無事でよかった。凪沙の大切なお友達だからな。君が無事で、凪沙も喜ぶだろう」
「えっと、はい…………」
「うふふ、ウチの旦那はこんな人なの。だからね、愛浬ちゃんはあまり気にしないでね」
「…………ハイ」
その後、お父さんたちも謝罪し、なぎさが目覚めるまで大人のお話合いがあったりと忙しない時間をすごした。
そして、目覚めたなぎさにもお父さんは頭を下げた。
しかし、なぎさは自分が勝手にしたことだと言い、自身の力不足をなげいた。
どうしてそこまで、というお父さんの問いかけに、
「あいりは、ボクの大好きな嫁ですから!」
と恥ずかしくなるようなことを言い出したの!
でも、それ以上に心が締め付けられるほど嬉しくてたまらなかった。
そしたら、今度は、
「そうじさん、ボクを強くしてください!」
とお父さんにお願いをしていた。
きっとこれも、わたしの為に…………。
だから、その言葉を聞いてわたしも思った。
守られるだけのわたしじゃなくて、凪沙を守れる私になりたい。
気が付けば、
「なぎさが習うならわたしも習う!」
と胸の高鳴りと共に口に出していた。
だって私は、凪沙のお嫁さんなんだから!
たぶんこのドキドキが、凪沙の言う好きって気持ちなのかもしれない。
2件目のレビュー、本当にありがとうございました!
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更新スピードは遅いですが、これからもお付き合いいただければ嬉しいです。
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