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目が覚めて

なんと嬉しいことにレビューを頂きました!

本当にありがとうございます!!!

感想も、レビューも、いくつ貰っても嬉しいです。


「私は、貴方のことが好きです」


「俺も君のことが好きだ」



 僕の目の前で愛を語らう男女。

 白髪の美少女は恋する乙女の表情で男を見つめている。


 男が応えるように、そっと美少女の頬に手を添えると彼女は目をつぶり2人の距離は近づいて行き、唇が重なり合った。


 あぁ、これはラストの山場シーン。


 僕はすぐさま理解した。

 これは『恋守護』愛浬シナリオで行われる告白の場面。苦楽を共にし、恋心が芽生える2人がようやく心通わせ、さらに待ち受ける苦難を愛で乗り越えていく、そんな王道的な流れ。


 何度も繰り返し観てきたシーン。

 いつもなら嬉しくて歓喜の声で「僕の嫁ッ!」と叫んでいるはずだった。

 

 でも、なぜだろう。

 僕の心はピクリとも動かない。


 ゲーム(・・・)としては最高の結果で喜ぶべきところなのに。

 なんでこんなにも、心が締め付けられるのだろう。


 これが(・・・)愛浬にとってのハッピーエンドのはずなのに。

 どうして目をそらしているのだろう。






 ハッとする思いで目が覚める。


 目を見開けば見知らぬ白い天井が広がり、消毒液の香りが鼻を(かす)める。あたりを見渡せば純白のカーテンに囲われており、ピィーッピィーッと電子音が響き、白い掛け布団の上にある僕の腕には包帯が巻かれコードみたいなのが伸びていた。


 しばらくすると人の足音がして、カーテンが開き、看護師さんが顔をのぞかせた。



「先生っ! 早川さんが目を覚ましました!」



 看護師さんは叫びながら去って行く。

 なるほど、ここは病院か。



 程なくして、白衣を着た優しそうなお姉さん、じゃなくてお医者さんがやって来た。

 彼女は目の前の椅子に腰を掛け笑みを浮かべると、僕に具合はどうかと問いかけて来る。



「とりあえず、体を動かそうとすると痛いです」



 ちょっと動かそうとするだけで節々が痛いのなんのって。



「それはそうでしょうね。貴女、全身打撲に背中の裂傷、どう見ても重症なのだから。それ以外に何かあるかしら?」



 その後、軽い問診と触診を交えてチェックが行われた。

 先生の話では、僕は1日寝ていたみたい。


 というか先生、なんだか触診の時の触り方が少しイヤらしい手つきだったのは気の所為かな?


 診断の結果は、今日を含めて全治2日!

 短ッ!


 魔法があるおかげで打撲程度ならすぐ直ってしまうみたい。

 ただし、背中の切り傷はすぐには消えず少し残ってしまうようだ。それでも半年もすれば消えるわよって言われた。



「あら、短いって? だったらもっと入院していく? 私はそれでも構わないわ。むしろ個人的にもこんな可愛い子を――――」


「なぎさぁぁあああ」



 診察が終わり僕のツッコミに先生が怪しげな発言を始めた瞬間、愛浬が飛び出してきた。

 ベッドにしがみつき、涙を浮かべた顔を僕に寄せてくる。

 危うく、お巡りさんこの人です! と通報しなければいけない事案が発生しかけたよ。ナイスタイミング愛浬! 流石僕の嫁!



「なぎさ、大丈夫? 痛い所ない? 何かしてほしいことはない?」


「えっと、あの、あいり?」



 矢継ぎ早(やつぎばや)に質問されて頭が混乱しちゃうよ!

 突然の愛浬の質問攻め(猛攻)にタジタジになったけど、気持ちを持ち直した。

 なんといっても間近で観る愛浬の心配顔も、なんて可愛いことか! プリッとした唇に少し赤らんだきめ細かい頬、その上には潤んだ瞳に八の字眉。



「流石ボクの嫁! そんな顔もかわいいよ!」



 つい我慢できなくて、愛浬を抱きしめてしまった。

 すると案の定、



「いてててぇ……」



 急に動かしたから体が痛い。

 でも愛浬を抱きしめられて幸せ!



「なぎさったら、そんな急に動いたらだめじゃない。ほら、横になって」


「うん……あいてて」



 (こら)え性のない身体でごめんなさい。

 そんな僕を、嬉しそうでありながら困ったような顔で寝かしつけてくれる愛浬。ほんと良い子。



「あっ、そういえば。あの後どうなったの?」



 横になった僕は、ここに来ることになった原因を思い出し事の顛末を尋ねた。

 佐々木さんが来てくれた安心感で気絶したからね。



「それなら私から話させてもらおう」


あいりのお父さん(そうじさん)!?」



 いつの間に愛浬の横に立っていたんだ。その隣には珠江さんまで。

 良く見れば目の前に立つ2人の表情は硬い。



「例の誘拐未遂犯だが、こちらで取り押さえた。動機は金欲しさから。そして誰かに(そそのか)されたみたいだが、口惜しいことにその相手はまだわかっていない」


「そう、ですか……」



 実行犯は捕まったけれど黒幕は捕まっていない、そういうことらしい。

 どこかが儲かれば、儲からない所が出てくる。総司さんの会社が大きくなることを(こころよ)く思わない連中の仕業だろうが、特定するのは難しいだろう。



「とりあえず、まずはお礼を言わせてほしい。愛浬を助けてくれて本当にありがとう。そして、我が家の問題に巻き込んでしまい申し訳なかった」



 そう言うと総司さんと珠江さんは頭を下げた。

 一瞬、なんで頭を下げられているのか分からず混乱した。



「えっと、そうじさん頭を上げてください。そんな謝られるようなことはないですよ」


「しかし、現にこうして君に傷を負わせてしまったのはこちらに責任がある」


「でもそれは、ボクが勝手にあいりを連れ戻そうと追いかけて、力不足で返り討ちにあっただけですから」


「凪沙くん……」


「だからもっと力をつけて、今度はしっかりと守れるようになりたいです!」


「凪沙ちゃん、どうしてそこまで」



 総司さんの隣にいる珠江さんは、分からない、そんな顔をする。

 確かに向こうからしたら、僕はただの被害者かもしれない。

 それに、たった1年ちょっとの付き合いの友達がそこまで、と思っているのかもしれない。


 でもね、愛浬は――――



「あいりは、ボクの大好きな嫁ですから!」



 僕は笑顔で言い切った。

 そう、例えゲームシナリオ(運命)で僕の傍を離れることになったとしても。

 

 ズキンッ


 夢で見た光景が脳裏にチラつき、心が軋む音がする。

 ゲームの世界(・・・・・・)なのだから、それが当たり前のはずなのに。



「そうか……もし君が望むならできる限りのことに応えよう」


「はい!」



 僕は心に鎮座する想いを振り払うかのように、総司さんに元気に答えた。

 そこでフッとある考えが浮かぶ。



「そうじさん、ボクを強くしてください!」


「強く?」


「ちゃんとした戦い方を覚えて強くなりたいんです!」



 自分の力で好きな子を守れなかった悔しさが蘇る。

 せめて隣に居る間だけでも、僕が愛浬を守りたい。


 大企業の社長である総司さんならば、伝手を使えば戦い方を教えてくれる人に巡り合えるはず!


 道場みたいなのはないのかなって前に調べてみたところ、僕の住んでいる町にはなかった。そしてマナの活性化に関しては、僕がやっていることは基礎中の基礎で、ちゃんとした事は中学生で習うみたい。

 でも、今回みたいなことがまた起こる可能性は高い。だからもっと早くから色んな事を学んでおきたい。



「分かった」


「ほんとですか!?」



 やったぁ!

 何ごとも言ってみるもんだね。これで勝つる!!!



「こちらで良い師を用意させて貰おう」


「なぎさが習うならわたしも習う!」



 総司さんの言葉を聞くや否や、愛浬がそんなことを言い始めた。



「え、あいりも習うの?」



 ギャルゲーではそんな設定は、幼少期から武術を習っていた、ということは無かったはず。

 

 もしかしてゲームのシナリオから剥離し始めてる?


 一瞬そんな思いがよぎる。

 決めつけるのはまだ早い。だって僕が願ったのは『恋守護』の世界のはずだから。



「なぎさと一緒に習っちゃ……だめ?」


「そんなことないよ! 一緒に習おう!」



 そんな上目使いでおねだりされたらなんでも頷いちゃう!

 むしろ、嬉しいこと尽くめで断ることなんてしないけどね。


 こうして僕と愛浬は、一緒に戦い方を教わることになった。

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