目指せ友達100人
お久しぶりです。
ようやく書けました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
気持ちが良い早朝、身支度を整えるため僕がクローゼットを開けると、色とりどりの女の子らしい服がチラホラ見える。8割お母さんから、そして残りは一ノ瀬家から。
もっと可愛らしい服を着た方が良いわよと愛浬のお母さんから好意で頂いた服たち。まだまだ増えそうで戦々恐々としている所だ。
不吉な予感を頭の片隅に追いやり、目当ての一番真新しい服を取り出す。
とても、とーーーても可愛らしい制服に腕を通しながら、どうして男子用制服が無いのだろうと、何度目かの自問自答をする。
女子学園だから、無いのは当たり前なんだけどね!
2回目の制服姿の自分を姿見の鏡で眺める。この鏡は「もう小学生なんだし。女の子たるもの、身だしなみチェックの為に必要よね♪」とお母さんが設置したものだ。
辺りを見渡せば、白と青を基調にした部屋の中に愛浬とお揃いで買ったクマのぬいぐるみがベッドがつぶらな瞳でこちらを見つめている。
徐々に女の子らしい部屋になってきている気がするけど、気のせいという事にしたい。ぬいぐるみは愛浬とのお買い物で買ったモノなので不可抗力。ノーカン!
「凪沙ぁー!朝ごはんよぉ!」
おっと、いけない。
色々と余計なことを考えていた、お母さんに呼ばれてしまった。
部屋のドアを開けてタタタッと爽快なステップで廊下を駆ける。風が股をすり抜ける感じがして落ち着かない。
リビングのドアを開くと、朝食の用意をしているお母さんの姿が目に入る。
「お母さんおはよー!」
「凪沙、おはよう。急ぐのは良いけど走っちゃダメよ。スカートが捲れるわよ」
「ッ!?」
お母さんに指摘され、咄嗟にスカートを抑える。
「ふふ、凪沙も何だかんだで女の子なのね♪」
「ハッ!?」
いやいや、これは女の子としてではなく、純粋に恥ずかしがっただけで…………これは違うはず、違う……よね……?
己の男としてのアイデンティティが無くなりつつあるのではと、危機感に震えながら席に着くと、霙が元気に挨拶してくれる。
「ねーね、おはよー!」
「みぞれ、おはよう」
うん、今日も霙は可愛いね!その可愛さに二重丸あげよう、なんちゃって。
霙に食べさせてあげたり、霙から食べさせて貰ったりしながら朝食を終え、準備も完了する頃になると玄関からチャイムが鳴る。
「凪沙あああああああっ!」
「うわっぷ」
玄関を開けた瞬間、愛浬が僕に向かって飛び込んできた。後ろで広がった白髪はまるで天使の羽根。
どうやらお迎えが来たみたいだ……ゲフッ。
咳き込むのを耐えつつ、僕はバラついた愛浬の髪を整えながら挨拶をする。
「ッ……ふぅ、あいりおはよう」
「凪沙おはよう♪」
どうやら今日はハーフアップ、所謂お嬢様ヘアのようだ。
「今日の髪型も、とってもいいね!」
奇しくもそれは、本編と同じ髪型。もはや愛浬の為の髪型と言っても過言ではないね!
将来の事が頭をよぎり、胸がチクリとするが僕は無視をした。
「えへへへ、やった♪」
なんなのこの子?可愛すぎでしょ!
流石は僕の嫁。その笑顔で僕の心は1秒でフルチャージ。
「お嬢様、早く凪沙様に見せたいのは分かりますが、淑女としてもう少し落ち着きを持って行動してくださいませ。」
「はぁーーーい」
恥ずかしがりながら拗ねる愛浬、プライスレス。
そんな彼女に苦笑しながら、今日もナイスミドルな執事さんに挨拶をする。
「佐々木さん、おはようございます」
「おはようございます。凪沙様は、本日も可愛らしいお姿でございます。お嬢様と並ぶととても絵になります」
「あはは……」
今日も佐々木さんは絶好調のようだ。
僕、というよりも凪沙というキャラクターはギャルゲーのサブヒロインなだけあって可愛らしい姿をしている。
愛浬と2人で仲良くしている姿は、前世でも多くの薄い本が積み重なり厚くなる程。
もちろん、愛浬を推しとする僕も、それらを買い漁……げふんげふん。
今日は授業初日。
愛浬友達100人計画はここからが本番。
そして僕が思いついた作戦は、その名も‟同じ話題で仲良くなろう!”だ。
帰ってきてから悩みに悩んだけれど、小さい時は共通の話題で盛り上がって遊べば勝手に仲良くなるのが子供というもの……だったはず!
作戦ですらないけど、前世オタクというカテゴリーの僕が、ほぼ初対面の女の子に自分から声を掛けるのだから内心ドキドキしている。
昨日と同じく佐々木さんの運転で学校へ。そして既に教室は目の前。
僕は意を決して、元気に挨拶をしながら愛浬と一緒に教室に入った。
「おはよー!」
「み、皆さん、おはようございます」
元気に返してくる子、愛浬と同じ挨拶を返す子と反応が別れる。
愛浬と同じように挨拶した子はお嬢様の可能性が高い。
今回の作戦では、僕が話題を振れる子=庶民の子という事になる。
だから今の挨拶で元気よく、もしくはお上品に挨拶をしなかった子がターゲット。偏見だけど、この見分け方で大体は合っているはず。
目星をつけながら、決められた席について荷物を下ろす。
非常に残念なことだが、愛浬と席が離れてしまった。
とても、とてもとてもとーーーーっても悔やまれる。先生、席替えはいつですか?
早川と一ノ瀬だから、愛浬は右上の前から2番目、僕はそれの左隣2つ後ろなんだけどね。桂馬飛びと言えばイメージ付くかな。
とりあえず、気持ちを切り替えて1時間目の用意。そして、僕は大人しめな女の子に声を掛けた。
その子は普通に挨拶を返してくれていたので、お嬢様ではないはず。
「ねえねえ、ボクは早川凪沙。君の名前は?」
「ふえぇ!?えっ、えっと……わっわたし?」
「そうだけど、大丈夫?」
「あわわわわわっ!どうしよう!?」
すごい慌てようで、こちらが驚いてしまう。
一体どうしたのだろう?
「その、名前を教えてもらってもいいかな?」
「あっ!わっわたしは江川紗江っていいます……」
よし、ミッションその1、名前を聞くを達成。
この調子で、まずは僕が仲良くなってそのまま愛浬とも仲良くなれば、必然的に愛浬の友達100人になるという寸法さ!
「江川ちゃん、お隣さん同士よろしくね!そういえば、さっきすごく驚いてたけどどうして?」
「えっと、あの、その…………」
何か言いずらい事なのだろうか。まさか、どこかおかしかったりするのかな。
ま、まさか滲み出る男らしさで元男だとバレたとか!?
「とっても可愛らしい2人組が居るって友達と話していて……」
「とっても可愛らしい……あぁ、あいりの事だね」
なるほど、既に愛浬の可愛らしさはクラスで話題なのか。流石僕の嫁!
「早川ちゃんも、だよ……?」
「…………ホワッツ?」
あれ、聞き間違いかな?きっとそうに違いない。
「ほわっつ?」
「ごめんごめん。その話ってあいりとボクの事でいいのかな?」
「うん。一ノ瀬ちゃんは同じ年なのに綺麗で可愛らしいし、早川ちゃんも可愛らしいけど何処か頼りがいありそうで、一ノ瀬ちゃんをずっと気にしている感じで一緒に居るとすごい嬉しそうだってこっちにも伝わってきてね」
「うっうん」
やっぱり聞き間違いではなかったみたいだ。
熱が入って来たのか徐々に早口になる江川ちゃん。
すごい勢いで語り始めたけど、この感じ生前にも見たことあったなぁ……なんだっけ?
「それでね、そこの事をお姉ちゃんに言ったら『それは尊いって言うのよ!私も見てみたい!』って。だから2人は尊い関係なんだなって分かったの!」
「アッハイ」
そうだ。これはオタク特有の早口語りだ…………。どうやら将来有望な子が隣になってしまったようだ。
でもこれは、ある意味幸運な気がする。
なんと言っても僕も前世はオタク。似た気質の者同士、話しやすいはず。
さあ、愛浬の尊さについて語り合おうではないか!
「江川ちゃん、実はあいりはね――――――」
朝のホームルームの時間まで、愛浬の尊さを話し始めた。




