初めての入学式
皆さんお久しぶりです。
大変お待たせしました!
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
愛浬の冷たかった手が暖かくなってきた頃、車が停車して佐々木さんが目的地に着いたことを告げる。
佐々木さんに扉を開けてもらい順に降りていくと、立派なレンガ造りの門が鎮座しており、その後ろには、桜並木が僕らを出迎えるように咲き誇っていた。
「すごい…………」
満開の桜が風に吹かれ花びらを散らす姿は、花道に舞う紙吹雪のごとく僕らを歓迎しているみたい。
おとぎ話の世界に入り込んだかのように錯覚しそうで、テンションが上がる。
「ふわーーー!凪沙、凪沙!はやくいきましょ!」
「うん!」
不安がっていた愛浬もこの光景を見て一気にテンションが上がったようだ。
僕の手を引っ張ってグルグルと踊る様に回る。
「きれーきれー!」
そしてお母さんの腕の中でヒラヒラと舞う桜を掴もうと手をのばす霙。
この子達可愛すぎない?
流石にいつまでも校門のところで騒いでいる訳にもいかず、お母さんに促されてピンク色のまだら模様の石畳を渡っていく。
その向こうに見えてきたのは、門と同じように落ち着いた雰囲気のあるレンガ造りのお城の様な建物。
‟まるでファンタジーの世界みたいだ!あ、ここはゲームの世界だった”
などと1人漫才を心で繰り広げていると、ギュッと愛浬と繋いでいる手に力が込められた。
横を向けば、また少し顔が強張っている。やはり、まだ初対面の子達が集まる所は怖い様子。
「大丈夫だよ。ボクがいるから」
握り返して呟くと、愛浬は顔を綻ばせて、うん、と頷いた。
フワフワと舞うスカートが心もとなくても、心はいつでも男だからね!僕が愛浬を守る、フンスッ!
目指せ愛浬お友達100人計画!まずはクラスメイトとお友達に!!!
僕にかかれば、女の子の友達の10人や100人かんた……ん、あれ、女の子の友達ってどうやったら作れるんだろう…………?
今思い返しても男の子と戯れたり、女の子達に引っ張られておままごととかしたことはあっても、女の子達に自分から声をかけて遊んだことは殆どなかった。
/(^o^)\オワタ
早くもピンチ到来!?
だ、だだだいじょうぶもちつけもちつけ。共通の話題を振れば簡単に仲良くなれるはず!
まずは、この学校についておさらいをしよう。
ここはお嬢様学校で、お金持ちの娘も多く在籍しており初等科から高等科のエスカレータ式の学校。
愛浬は初等科まで在学し、もう1人のお嬢様キャラであるサブヒロインと交流を持つことになる。
同じ歳であり、同格の財力を持つ愛浬を一方的にライバル視する娘なのだが、今は置いておこう。
お嬢様学校といえど、庶民も一定数いるのだから一般的な趣味の子も居るはず。
日曜日の朝のアニメなどの話題を振ればいいのかな?女の子向けだけれども普通に面白いので霙と一緒に観ており、愛浬ともその週の物語のお話とかで盛り上がったりもする。
おっ、意外と行けそうな気がする!
頭の中で愛浬友達100人計画を練っていたら、いつの間にか掲示板の所に来ていた。
「あっ!凪沙と私の名前があったわ!」
愛浬が指さす方へ視線を向けると『1-1』と書かれたところに僕達の名前が書かれていた。きっと愛浬のお父さんの手回しだろう。
そしてこの辺りでようやく、その総司さんと珠江さんがやって来た。
「すまない。愛娘達の晴れ姿を収める準備に少し手間取ってしまった」
「仕方ないわよ。その分しっかりと二人の晴れ姿を記録していきましょ!」
達?愛娘ではなく愛娘達なんだね。
あの事件以降、愛浬の両親は僕のことも可愛がってくれており、自分の家の様に遊びに来てほしいと言われ実の娘の様に接してくれていた。
それはもちろんウチのお母さんも同じで「凪沙はあまり可愛い服を着てくれないから嬉しいわ♪」と大喜び。
僕にも超えられない一線があるんだ。あんなフリル満載のお洋服に身体を売るわけには……!
最近だと愛浬にせがまれる時もあり、少し可愛いと思うし、愛浬とお揃いならちょっとぐらいなら……ハッ!?
いつの間にか僕のアイデンティティーが揺らぎ始めている可能性に戦慄が走る。
大丈夫、まだ大丈夫なはず…………だ、大丈夫だよね?
クラスごとに受付があるようで、自分のクラスのところに並び受付の先生らしき人に名前を言って胸元に花飾りのピンバッチを着けて貰う。
当たり前だけど父兄以外は皆女性ばかりで、娘達の晴れ姿を見に来たお父さん方は少し肩身が狭そうだ。
あ、あそこの人、受付の人に鼻を伸ばしてお母さんっぽい人に脇腹を抓られてる。
ギャルゲーの世界というだけあって、周囲に居る入学生も顔が整っておりモブキャラだとしてもレベルが高い。
その中でも愛浬は一際美しくて、僕は鼻高々だったりする。
受付が終わると、上級生が先導して道案内をしてくれた。
初めて、ですわ、を生音声で聞けてここがお嬢様学校なのだと再認識。なんだか、ちょっと感動!
愛浬もお嬢様なんだけど、こう、愛浬は愛浬なんだよね。こうして色々な愛浬の姿を見ているせいか、前世の時よりも愛浬を身近に感じていた。
入学式はつつがなく終わり、一度お母さん達と別れてこれから通うことになる教室の前にやって来ていた。
「凪沙……」
まるで敵陣に飛び込む戦士の様な顔つき。
きっと僕も同じ顔をしているに違いない。
「入ろう、あいり」
お互いに頷くと、僕たちは手を繋ぎながら教室に足を踏み入れた。すると一瞬静まり返る。
談話していた子達の目線が一瞬で僕達に集まり、すぐに愛浬の方へと流れた。
‟マズイ”
ギュッと力の籠る手から、愛浬の緊張具合が増したことを察した僕は、声を高らかに上げた。
「みんなよろしくね!」
元気に挨拶をする僕にクラスメイトの目線が集まりドキッとするがどうにか堪える。
「ほら、あいりも」
「う、うん。みなさま、よろしくおねがいします」
目線の集中が逸れたことで、愛浬はどうにか不自然ではない程度に笑顔で挨拶をすることができた。すると、周りからも挨拶が返ってきた。
やっぱり、友達の一歩目は挨拶だよね。
予想外の反応だったのか、少しビックリしている愛浬が可愛い。
( ・´ー・`)どやぁ、うちの愛浬はかわいいだろぉ!と自慢したい。むしろするべきでは?
どうやって愛浬をプロデュースするか脳内会議し始めようとしたら、彼女が少し頬を染めて僕の手を引き、窓際の席に着く。どうやら自由席みたいだ。
それから間もなくして担任の先生が入ってきて、明日からの予定等を聞いて解散。自己紹介は明日行うので、しっかりと考えてくるようにと宿題を貰った。
もう昼の12時という事もあり、皆教室に留まることなく出て行った。
僕達も、外で待たせているお母さん達の元へと向かう。
「あいり、大丈夫そう?」
向かう道すがら、僕は問いかけた。あえて何がとは聞かない。
「凪沙もいるのだから、がんばります!まずは、クラスの子とお友達になるのが目標です!」
まだ周囲に人がいるのでお嬢様モードで答える愛浬。
その返事が僕と同じことを考えていたようで、嬉しくて笑ってしまった。
「凪沙、なんで笑うの?!」
突然笑い出した僕にムクれて、ポカポカと叩いてくる愛浬。
「もーーー!」
拗ねたように怒る愛浬が、これまた可愛らしくて更に顔がニヤケてしまう。
「凪沙なんてしらない!」
「あ、あいり待ってよぉ!」
ついに怒って僕を早足で置いて行こうとする愛浬を追いかける。
どうやら笑い過ぎて誤解されたみたい。
「ごめんあいりーーー!」
「ふーーんだっ!」
その後、お母さん達の所に着いても機嫌は直らず、お昼に向かう道すがらどうにか誤解をといたけれど、機嫌を直してもらう為に僕が可愛らしい服装をすることを約束させられた。
漢たるもの、時には犠牲にしなくてはいけないモノもあるのだ……ガックシ。
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