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千夜と名付けた少女との生活

物珍しかったのかもしれない。桜色の髪や、碧い瞳が————。


「……変わってる、かもな。」

「残念ながら、私は異人じゃないよ?」


「残念ながらって…。異人だから、言ってんじゃねぇよ。ただ、毎日つまんねぇし、お前が居たら楽しいかな。って、そう思っただけだ。」


俺の兄弟は、兄貴や姉貴。妹や弟なんて居ない。


「……ふぅん…」

「……俺が怖いか?」

「怖くないよ。」


即答だった。俺を見て「怖くない。」とハッキリ言った少女 。そして、

「……お兄さん、剣術するの?」


俺の手を見て、行商箱の竹刀を見てそう言った彼女。


「ああ。まぁ、俺は農家の出だがな。」

「……。これ、触っていい?」


竹刀に夢中の様子だったから、行商箱を下ろして竹刀を持たせてやると、彼女の背丈より、竹刀のが長い。


「アハハ。お前には、長いな…」

「重いね…もっと、振り回せると思ったのに。あの人、簡単に刀振るってたのに。」


「あの人?」

「……あ……。うん…ちょっと前に、襲われて

助けてもらったの。武士だった気がする。」


……武士…


気がするって言うのは、記憶が曖昧な証拠だ。

「その人の名は?」


少女は、首を横に振った。


「……空、綺麗だね~。」



話を変えるかの様に、彼女は、空を見上げながらそう言った。


悲しそうな表情で夜空を見上げる。何も覚えてない彼女が、こんな夜を1人で過ごす。


それが、どんなに心細い事か


「私、強くなれるかな?生きてたら、強く、なれる?」


生きてたら……


「あぁ。お前なら、強くなれるさ。」


竹刀を握りしめ、目に涙を溜めながら言った少女。


「————だから、俺と生きてみろよ。」



その言葉を聞いて、彼女の目から涙が零れ落ちた。


「生きて、みるよ。お兄さんと。」



それが、俺と千夜の出会いだった————。


名前の由来なんて、その日の空には星が幾つも輝いていた。千も二千もありそうな綺麗な星


少女に出会ったのがもう、夜に近かったから


”千夜”



俺が夜空を見上げていたら、顏を覗き込む千夜


「お兄さんの名前は?」

「土方歳三。」

「じゃあ、歳兄だね。」


そう言って、千夜は、笑ったんだ。その時、俺は、胸が暖かくなった気がしたんだ。


そして、実家へと千夜と手を繋いで帰った。


帰り道は、あっという間で

千夜と話しをしていたらノブ姉に言い訳をするのを忘れる程に、楽しかった。



家に着いて


「————歳三っ!

犬や猫とは違うんだよっ!何考えてるの!」


案の定、ノブ姉に怒鳴られた。


「俺が、稼ぐ。頼むよ。ノブ姉!」


「……稼ぐって…」


と、千夜を見るノブ姉


「今まで、1個や2個しか売ってこないくせに

何言ってるのっ! ?」


ノブ姉は、頭に血が上っていたみたいで右手を振り上げた


殴られる… そう思った瞬間、パチーンッと音が響き渡った。


頬の痛みは無かった。


「ごめんなさい。」


叩かれたのは、俺ではなく千夜……。


「……なんで、俺を…」


庇ったんだ?



「歳兄は、悪くないから。悪いのは、着いてきちゃった、私だから…」


千夜の口の端から流れた赤。


ノブ姉も驚いて、身を硬直させた。さみしそうな顔をしてから家の出口に走って行ってしまった、千夜。


俺は、頭の中の整理が追いつかず、突っ立ってたら、


「私、何てことをっ!早く追いかけなさいっ!」


そうノブ姉の切羽詰まった様な声に、やっとからだが動いた。


「ちぃっ!千夜っ!」


家を出て道の片隅で、倒れた千夜が視界に入った。

大人の手で平手打ちされたのだ。衝撃はかなりのものだったのだろう。駆け寄って小さな身体を抱き上げれば、口からは血が垂れ流れたままで、まさか、死んだんじゃないか?

と物騒な事しか思い浮かばなかった。俺を庇ったからこんな事に————。


「ちぃっ!おいっ!」


揺らした身体。目は覚まさないものの、息はしてる事に、安堵した。


とにかく家に…


抱きかかえ、家に帰れば、ノブ姉の顔色が変わった。多分、ノブ姉も死んでしまったんじゃないか?と、思ったのだろう。


「大丈夫だ。息はしてる。」


安心したのか、ノブ姉は、ヘナヘナと、その場に腰を下ろしてしまった。


ノブ姉が泥だらけのちぃの体を拭く。

意識はまだない。寝巻きに着替えさせたときだった。


「……ん…」

「ちぃ?千夜?」

「わたし…あれ?ノブさん?」


ノブ姉がちぃの片手を握っていた。


「私は、何てことを…ご「あたたかい。ノブさんの手。」」


ちぃは、ノブ姉が謝るのを遮った。

あやまらなくてイイと。悪いのは、私だからと


そう言ってまた、眠ってしまった彼女。


「あんたが、この子連れて来たのわかる気がするわ。綺麗な子やね。」


サラサラと髪を撫でるノブ姉。その目には、涙があった。



翌日


「……ふぁー。あ?」


寝起きで体を伸ばした土方。自分の布団の横を見れば、千夜の姿がない。


綺麗に畳まれた布団。辺りを見渡しても、部屋の中は居ない様だ。


まさか、出て行ったんじゃ…。と、慌ただしく居間へと急いだ。


居間に着けば


「歳にぃ、おはよう。」


そこには、千夜の姿があった。


「……お、おう。おはよ。」


ニコッと笑った千夜


「千夜ー。次はコッチ。お願いね?」


ノブ姉の声が聞こえてきた。


「はぁーい。」


どうやら、手伝いをしているみたいだ。


千夜が立ち去り、入れ替わりでノブ姉が居間にやって来た。


「あぁ、歳三、おはよ。あんた、どうしたの?」


どうしたの?って、起きてきただけなんだが…?


「随分早いじゃない。」


早い…?


まだ、朝餉は机の上にはない…大体起きたらある朝餉。


「………。今、何刻だ?」

「卯の刻よ?」


卯の刻。江戸時代では、午前5時~7時の事をさす。

ぐうたら生活が多かった土方、こんなに早く起きたのは久方ぶりだった。


「早く起きたなら掃き掃除ぐらいして。」

「……なんで、俺が。」

「千夜ちゃんは、手伝ってくれるのにねぇ?」


う……


その言い方は、ズルいだろ……。


結局、庭の掃き掃除をさせられた土方

朝餉の前に手伝いをするなんて、思ってなかった…。


朝餉を食べ、行商へ行く支度をしてると碧い大きい瞳をこちらに向けてくる千夜。


「なんだ?ちぃ。コレ、見た事ねぇのか?」

「うん。薬?」


マジマジと見ていたのは、石田散薬


「打ち身、切り傷に石田散薬ってな!

これを酒と呑むとたちまち、治っちまうんだ。」


まぁ、効かねえがな…


「へぇー。コレ売りに行くの?」

「ああ。」

「私も行っていい?」


連れまわすのは…。と思ったが、連れて行けば

千夜を知ってる奴もいるかもしれない。


そう思って、俺は行商に一緒に連れて行く事にした。




京の町を走り回る1人の男。

もう、1カ月、何処を探しても、ちぃが見つからへん…。


何処いったんや?


京には居ないちゅう事か…。

ここは、ひとまず水戸へ行ってみるか。あの方にも連絡しんと、ちぃ、無事でおってくれよっ!
















































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