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出会い


安政元年一月————。


白い襦袢一枚しか着ていない幼女。その白い襦袢は、泥で汚れ、裾は破けてしまって居た。息を荒く吐き出しながら、後ろを時折気にしながら逃げる彼女は、裸足のままだ。その足の裏は、小石で切れ血が滲む。


————逃げろ!


その言葉だけが頭の中を駆け巡る。

行き先なんて分からない。ただ、その場から逃げる事だけを考えて、ひた走った。


足は傷だらけで、地に落ちた赤に気づく事なく無我夢中で走った幼女は、石に足を取られ、その場に倒れた。


「————っ!」


目に涙を溜め、後ろを向いた時、追ってきていた人影など誰もいない事に、その時、漸く気がついた。


「はぁ。はぁ。」


そして、自分が何から逃げていたのかも、自分が、何者であるのかさえ、全ての記憶が欠落して居る事に、その時初めて、気づいたのだった————。



視界に入った桜色。それは、己の髪の色。


「化け物……。」


そんな髪色の人なんて見た事は無い。起き上がる事すら出来ず、ただ、その場に這い蹲る事しか出来ない自分。


————逃げろ!


何から逃げるの?どうして逃げるの?


頭の中に響く声は、男の人の声だ。それは、誰のものであるのかさえ分からないのに、同じ言葉を繰り返す。


ぐぅぅ————。


場違いな音が聞こえ、幼女は、空を見上げ様と仰向けになる。視界に入ってきたのは、小鳥と真っ青な空。


「食べなきゃ……」


きっと死ぬ…


きっと、それが当たり前。

死ねば、きっと鳥の餌になるんだな。と、空に円を描いて飛ぶ鳥を見て、他人事の様に考えた。


化け物の遺体を片付ける人が居るだろうか?


いや。きっと居ない。


————逃げろ!


逃げろ。そう言ってくれる人が居るのなら、きっと私は、————生きなきゃいけないんだ。


幼女は、道端に生えて居た雑草を引きちぎり、口へと入れる。それは、決して美味しい物では無かった。だがしかし、生きなきゃいけない。と、ただ口に放り込んだ。


口の中は、青臭いし、苦いしで一杯であった。



ーーーー

ーーー

ーー


「歳三っ!あんた、

薬売ってきてないじゃないっ!」


そう怒鳴ったのは、親代わりであるノブ姉だ。


「……。たまたま、売れなかったんだよ。」


商売なんてガラじゃねぇ。町を歩けば女が声をかけてくる。だから、ついつい遊んじまって、行商なんか二の次


「大体あんたは、奉仕先の娘さんに手を出して!」



また、それかよ……。耳にタコだ。

大体、手を出したわけじゃねぇ。あっちが、言い寄ってきただけだ。


「歳三!聞いてるの! ?」

「あー。聞いてる。聞いてる。 」


あー、めんどくせぇ……。


この男、土方歳三は天保6年(1835年)、現在の東京都日野市石田に位置する武州多摩群石田村の農家に生まれ、父は伊佐衛門。母は恵津(えつ)といい、六人兄弟の末っ子で、

上には為次郎・喜六きろく・大作・姉にシュウとノブがいました。


農家といっても周囲から「お大尽」と呼ばれるほどの富農で、父の伊佐衛門は、歳三が生まれる前に亡くなり、長男為次郎は盲目だったため地元で評判の素人浄瑠璃となるも

次男喜六が家督をつぎます。



天保10年(1840年)歳三が6歳の時に母恵津が亡くなり、以後歳三は次男、喜六夫婦に養育された。


弘化元年(1844年)、歳三の親がわりだった姉のノブが佐藤家に嫁いだため、歳三も頻繁に佐藤家に出入りするようになった。


翌弘化2年(1845年)江戸・上野広小路のいとう松坂屋呉服店(今の松坂屋上野店)に奉公に出されますが、どうも商売向きではなく番頭と喧嘩になり、歳三は夕闇にまぎれて上野の店を抜け出し、実家まで9里(36キロ)の道のりを歩いて帰ってきました。


再び歳三が奉公に出たのは、6年後の嘉永4年(1851年)歳三は17歳、江戸の大伝馬町で奉公をはじめましたが、歳三はここでも問題を起こします。


店で奉公している娘と恋仲になり、暇を出されてしまい

結局、実家へと戻り、ブラブラしているわけにもいかず、実家で作っている薬、石田散薬を売り歩く行商をする事となったのだ。


ガミガミ言う、ノブ姉に背を向け、畳にゴロンと横になった土方歳三。


「明日は、売ってくる。」


多分だけどな…… 。

まだ、ガミガミ言うノブ姉に嫌気がさし、ら


はぁ


「……風呂入って寝るわ。」


と、その場から逃げ出した。



「もう!あの子はっ!」


そんな声が、部屋を出た途端聞こえた。


風呂に入り、部屋に戻る。つまらねぇ毎日

強くなりたいと思った。だけど、それは、何の為に?

毎日、毎日、行商の箱に竹刀や防具を括り付け、時間があれば剣術の稽古をする。


少し前に試衛館に仮入門したが、明日は行ってみるか。と、布団に横になり目を閉じた。


翌日、土方は、行商箱を担ぎ試衛館へと向かった。


近藤周助が道場主で、俺が知り合ったのは、そこの養子になった、宮川勝太という男。年は俺より、ひとつ上で何故か気があった。


まぁ、お互い、ガキ大将みたいな感じだったからな…


そんな事を考えていたら、試衛館に着いた。


「やぁ、歳さん。」


声をかけてきたのは、井上源三郎。試衛館の門人だ。


「あぁ、源さん。掃き掃除か?せいが出るな。」


ホウキを持って、門の前の掃き掃除をしていた井上に、親しげに声をかけた。


「勝太さんなら部屋に居るよ。呼んで来ようか?」


「いや、いいよ。」


「そうかい…。あぁ、今日フデさん機嫌が悪いから…」


と、遠慮がちに小声で言った井上


「……あー。わかった。」


フデ。周助の妻であり、勝太の義理の母親だ。


ノブ姉もガミガミ言うが、フデさんも結構キツイんだよな。


土方は、頭をかきながら、勝太の部屋を目指すしかなかった。


勝太の部屋に着き、しばらくは、世間話しや何処の道場の誰が強いだのを話した。


だが昼頃になると


「勝太っ!勝太、買い物行ってきておくれ。」


今日は機嫌が悪いフデが現れ


俺の顏を見てあからさまに、 嫌そうな顏をした。昼飯喰らいが1人増えるのもイヤなのだろう。

「……。フデさん、俺はもう帰るんで。」

「そうかい。」


相変わらず、冷え人だな。


「……んじゃ、また来るわ。かっちゃん。」

「あぁ。気をつけてな。」


そのまま、行商へと歩き出した。


「今日は、売らねえとな……」


そう言って、薬箱を担ぎ直したのだった。

行商の帰り道…

日も傾き、辺りは薄暗くなる頃だった。


「今日は、それでも、売った方だな。」


石田散薬が、売れた。昨日は0だったが今日は

10個売れた。


まぁ、成果は上々だな。


いつもと違う帰り道、川沿いを歩いて実家を目指す。


たまたまだった。川に視線を向けたら視界に入ってきた幼い女の子の姿————。


泥だらけの姿で川を見ている

そんな子供なら、この時代、珍しくもない。


俺が目を奪われたのは、綺麗な桜色の髪が風になびいていた。


人形の様な見たことない髪色

好奇心なのか俺は、その少女に歩み寄っていた。


碧い綺麗な瞳の少女は、ただ、多摩川を力なく見つめて居た。



ジッと見すぎたのか、少女が振り返り、俺を見た。


「……お兄さん、私に用事?」


さっきまでの悲しそうな表情は消え、笑って俺を見た少女。


「……早く帰らねぇと、親が心配するぞ?」


泥だらけのナリ…帰る場所なんて無いのはわかっていた。だけど、何故だか話したいと思った。


「……帰る場所、————わからないの。」


帰る場所が無いのでは無くわからないと言った少女


「……。名前は?」

「わからない。」

「名前がわからない?」



「……うん。

帰る場所も自分の名前も、兄妹が居たのか、親の顔も

全部————わからないの…」


また、川の方を見つめる少女


手足を見れば、擦り切れた場所が多数あり、赤くなった足。

このまま、立ち去れば彼女は、明日には死んでしまうのでは無いか?そんな不安が押し寄せた。


つまらない毎日……つまらない…


「……なぁ、帰る場所が無いなら、俺と、生きてみないか?」


キョトンとした少女


「……お兄さん、変な人だね。」


確かに。初めて会った人が言う台詞じゃない。でも、何故か、死なせたく無いと思ったんだ。

目の前にいる、桜色の髪の少女を————。











































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