いっしょに食べたい料理
家の前まで戻ってくると、
夕日の色が窓ガラスに柔らかく反射していた。
鍵を開け、
玄関の空気を吸い込んだ瞬間――
なぜか、ほっと胸が緩む。
(……ああ……帰ってきたんだ……
今日は……すごくいろいろあったなぁ……)
そんなことを思いながら靴を脱いだとき。
すぐ横で、
ルベルが静かに言った。
「エレノア。
夕食……俺が作る」
「えっ!? 今日も?」
ルベルは迷いなく頷いた。
「エレノア……疲れてる。
魔力も……いつもより甘く揺れてる。
だから……休んで」
(……甘く揺れてるの、分かるんだ……もう……)
恥ずかしさが胸にふっと走る。
「だ、大丈夫だよ?
私も料理するの好きだし……」
するとルベルは
ほんの少し眉を下げ、
弱い声で言った。
「……俺、作りたい。
エレノアの……好きなものを……」
その声音は
“お願い”に近かった。
(あ……こういう言い方ずるい……
断れないよ……)
胸の中が温かくなって、
エレノアは小さく笑った。
「……うん。お願いする」
途端に、
ルベルの魔力が小さくふわっ、と弾む。
嬉しいときにだけ出る揺れだ。
⸻
キッチンに向かうルベルは、
エプロンを手に取る姿すら板についてきた。
「肉と……野菜……
エレノアは……スープが好き」
いつの間にか、
好みを覚えてしまっている。
少し驚き、
でも嬉しくて胸がくすぐったくなる。
「私も手伝うよ。
切ったり、味つけしたり――」
するとルベルは
まるで子どもに注意するみたいに
そっと手を伸ばし、
エレノアの腕を触れないように制した。
「……エレノアは休んで。
今日……魔力、がんばった」
(触れてないのに制された……
優しすぎて、逆に心臓が苦しい……!)
「で、でも……」
「座ってて。
“いっしょに食べたい料理”にする」
そのひと言が、
胸の奥に甘く跳ねた。
(いっしょに……食べたい料理……)
なんて温度の高い言い方だろう。
言葉の意味を反芻していると、
鍋の音や包丁のリズムがキッチンから聞こえてくる。
規則的で安心する音。
ときどき魔力がふわっと揺れて、
“ここにいてほしい”みたいに感じる。
(あぁ……こういう時間……
すごく好きかもしれない……)
料理の香りが漂ってくる頃、
ルベルが振り向いた。
「エレノア。
できるまで……あと少し」
その顔はどこか誇らしげで、
どこか照れていて――
見ているだけでまた魔力が甘くなる。
(本当に……
共同生活って、こんなに……温かいんだ……)
今日何度も感じたあの甘い揺れが、
胸の奥にそっと広がった。




