優しい気遣いと、帰り道で重なる歩幅
休憩を終えて、
エレノアはようやく顔の赤みが引いてきた。
ルベルはエレノアの様子をじっと確認し、
控えめに問いかける。
「……エレノア。
無理じゃなければ、もう一度だけ……
魔力の線、合わせてみる?」
「だ、大丈夫……
さっきよりは……落ち着いてるから」
本当に落ち着いているかは自信がない。
でも、逃げてばかりでは前に進めない。
エレノアは深呼吸し、
もう一度魔力を指先へ集め――
そっと光の線をのばした。
ルベルもそれに合わせて、
一歩引いた位置から線を伸ばす。
(……さっきより……優しい揺れ……)
魔力は触れず、
寄りすぎず、
それでも確かに“交わっている”。
さっきの強烈なざわつきはなく、
ただ静かに寄り添う波。
その安定に、エレノアは少し安心した。
「……うん。
これなら……大丈夫……」
ルベルも小さく頷く。
しかし、
彼の目はどこか申し訳なさそうだった。
「エレノア……
今日は、ここまでにしよう」
「え……?
もう少しできるよ?」
「ううん。
さっき……俺……
エレノアを困らせたから……
無理させたくない」
その言葉に胸がきゅっとなる。
(困ってなんか……
いないのに……
むしろ――)
言えない。
でも、
彼の気遣いが嬉しいのは確かだった。
ルベルは続けた。
「帰ろう。
エレノアが疲れる前に。
俺……エレノアの家までの道……
好き」
「え……?」
突然の告白めいた言葉に、
胸の奥が跳ねた。
「だって……
エレノアと一緒に歩けるから」
直球。
魔力がふるん、と甘く揺れる。
顔がまた熱くなりかけたが、
今度はゆっくり息を整えて頷いた。
「……うん。帰ろう」
⸻
森の帰り道。
陽が傾き、
木々の影が長く伸びる。
二人は並んで歩き出した。
最初は少しぎこちなく、
互いに距離を計りながら。
でも、
気づけば自然と歩幅が揃っていた。
ルベルが半歩前へ出ると、
エレノアも同じタイミングで歩幅を合わせる。
エレノアが少し速度を落とすと、
ルベルも足を緩めた。
本当に合わせているわけじゃないのに――
まるで魔力が
呼吸を揃えるようにリズムを合わせていた。
森の空気が甘くやわらかく包んでくれる。
しばらく歩いたその時、
ルベルがふっと横目でエレノアを見た。
「……エレノア。
歩くの……同じだね」
「え……?」
「足……揃ってる。
気がついたら、ぴったり……」
言われて意識した瞬間、
また恥ずかしさが胸に押し寄せた。
でも同時に――
不思議と嬉しかった。
「……そ、そうだね……
なんか……自然に、そうなってた……」
ルベルは小さな声で言う。
「俺……こういうの……好き」
「っ……!」
言葉は少ない。
触れてはいない。
魔力が優しく揺れ、
夕暮れの風が二人の間を抜けていく。




