魔力が勝手にふるえてしまう
魔力の線がふっと途切れた瞬間、
エレノアは限界だった。
しゃがみこんだまま顔を覆い、
熱が頬から胸へ落ちていく。
「……むり……むり……むり……」
自分でも何が“むり”なのか説明できない。
ただ、胸の真ん中が甘くて熱くて、
魔力が勝手にふるえてしまう。
そんなエレノアの前で、
ルベルは完全に混乱していた。
「エレノア……!?
どこか痛い?
苦しい……?」
「ち、ちが……違うの……
痛くは……ない……っ」
「じゃあ……どうしたの……?」
(それは……あなたが言った
“かわいい” が強すぎたせいです……!)
口が裂けても言えない。
「と、とにかく……休憩……!
いったん休憩しましょう……!」
「……休憩?」
「そう!! 休憩!!」
半ば叫ぶように告げると、
ルベルは素直に頷いた。
「わかった。じゃあ……」
と、
エレノアのすぐ横に腰をおろそうとした。
「ちょ、ちょっと待って!?
なんでそんな近くに座るの!?」
エレノアの声が裏返る。
ルベルは一瞬固まり、
ゆっくりと手を見て、
次にエレノアと自分との距離を見て――
小さく首をかしげた。
「……さっき……
近づいたら……
エレノア……倒れそうだったから……」
「(ちが……! 逆……!!)」
声に出せなくて悶絶するエレノア。
ルベルは真剣に考えている。
「だから……休憩のときは……
俺が……距離を……先に決めた方がいい?」
「それは……えっと……その……」
距離?
距離を決める?
どうやって?
まともに考えられない。
息が温かすぎて、胸が甘すぎて。
ルベルは少しだけ眉を寄せ、
心配そうに尋ねた。
「もしかして……
俺……近づきすぎた……?」
「~~~~~~っ!!!」
図星すぎて言葉にならない。
エレノアは顔を両手で覆ったまま、
膝をぎゅっと抱えた。
ルベルは慌てて手を上げる。
「ご、ごめん……!
やっぱり……近かった……!?
魔力……ぶつかった……?」
「ぶつかってない!!
ぶつかってないけど!!
でも!!
でも……っ……!!」
「……でも?」
「でも……
ちょっと……
その……
心臓に……近すぎた……の……!」
「心臓に……?」
エレノアは床を見つめ、
蚊みたいな声で小さく叫んだ。
「つまり!!!
近すぎたってことなの!!」
ルベルは沈黙した。
そして、
ゆっくりと――
ほんとうにゆっくりと――距離を一歩あけた。
それなのに、
その魔力はどこか嬉しそうにふるえていた。
「……エレノア。
近いと……心臓……速くなる……?」
「知らないっ!!
知らないけど!!
なる!!」
「……俺も。
少し……なる」
「~~~っ!! 言わないで!!」
森の静けさに
甘くて危ない空気が混ざっていく。
休憩のはずなのに、
休まらないのはエレノアだけだった。
でも――
胸の奥は痛くなくて、
ただ温かくて甘かった。
(……どうしよう……
ほんとに……好きになってる……)
言葉にはまだしない。
でも、想いはもう隠れきれなかった。




