甘く揺れる
ルベルが落ち着きを取り戻し、
私の問いにちゃんと向き合ってくれたあと。
森の空気は静かで、
午後の日差しが柔らかく差し込んでいた。
「……えっと、その……
魔力の練習、再開しようか……?」
自分で口にしておきながら、
胸がどきどきしていた。
“危なかった理由”を知ってしまった今、
さっきとは距離の意味が少し違って見える。
けれどルベルは、
いつもの落ち着いた声で小さく頷いた。
「……うん。
大丈夫。
もう……落ち着いたから」
その声に嘘はなかった。
でも――
私の方が落ち着いていなかった。
(練習って……魔力の“線”を繋ぐやつだよね……
あれ……距離が……近いんだよね……?)
思い出すだけで、
胸の奥がふわっと熱くなる。
ルベルは静かに距離を測り、
ゆっくりと私の正面に立った。
「今日も、線で繋ぐ?
手は……繋がないほうがいい」
「う、うん……! 線で……!」
手を繋ぐなんて……
今は絶対に無理だ。
私の心臓が耐えられない。
ルベルは右手を胸の前に掲げ、
魔力を細い一本の光へと凝縮させる。
私も深呼吸をして、
同じように指先から魔力をすくうようにして糸を紡いだ。
ゆっくり、ゆっくり伸ばす。
二本の光が――
あと少しで触れる距離に近づいた。
その瞬間。
ふるっ
空気が震えた。
魔力が、
ふれる寸前で“寄り添った”。
直接触れたわけじゃない。
線同士もまだ重なっていない。
なのに。
(……っ!?
これ……前より……強い……!)
触れていないのに、
まるで指先がルベルの魔力に包まれたみたいな感覚が走る。
息が止まりそうになった。
視線を上げると、
ルベルが驚いたように私を見ていた。
「……エレノア。
魔力……さっきより……あたたかい……」
「~~~っ!!?」
言わないでほしい。
気づかないでほしい。
でもルベルは素直だから、
思ったまま言ってしまう。
「優しい……
昨日よりも……やわらかい。
俺の魔力……包まれてるみたい……」
(言っちゃだめ……!
そんなこと言われたら……!)
頬が一気に熱を帯びた。
魔力の線が――
自分の感情と一緒に震えるのがわかった。
「エ、エレノア……
顔……赤い……?」
誘惑に負けるように
ルベルが半歩近づいた。
魔力の線が更に近づいて――
ふるん
触れていないのに、
心臓の真ん中を指で押されたみたいに響いた。
(ちょ……これ……無理……!
距離、近い……!
魔力が……重なる……!)
顔が熱くて上げられない。
胸が甘く揺れるたび、
魔力がルベルへ伝わってしまう。
「エレノア……
怖い……じゃなくて……
照れてる?」
「~~~~~っ!!
ち、違っ……違っ……!」
否定しようとした瞬間、
ルベルの魔力がふわっとほどけた。
まるで笑ったみたいに。
「……かわいい」
「っっっ!!!??」
魔力の線がぷつっと途切れた。
耐えられなかった。
いろんな意味で。
私は顔を覆ってしゃがみこんだ。
ルベルは慌てて近づく。
「エレノア!?
大丈夫?
魔力……痛い……?」
「痛くない!!
痛くないけど!!!
いろいろ……むり……!!」
声が裏返り、
ルベルは心から困惑していた。
でも、
その戸惑いの中にも
どこか嬉しそうな魔力が混ざっていた。
(……ほんと……
こんなの……好きになるに決まってる……)
言葉にはしない。
まだしない。
でも、
その輪郭だけは静かに胸に刻まれた。




