穏やかな朝
朝。
まぶたがゆっくり開いた瞬間、
胸の奥で揺れる魔力が、いつもよりずっと静かだった。
(……なんか……気持ちいい……)
昨日の朝は眠気と気まずさで魔力がぼんやりしていたけれど、
今日は“温度”が違った。
柔らかい。
あたたかい。
甘い。
(あれ……もしかして……私の魔力……落ち着いてる……?)
理由は分かっている。
あの時。
足を取られて倒れそうになった瞬間、
ルベルが迷いなく支えてくれた。
抱き寄せたのではなく、
支えるためだけの手だった。
あの腕の温度。
あの声色。
あの焦り。
それを思い返すと――胸の奥がぽっと甘くなる。
その“甘さ”が魔力に混ざったのか、
今日の魔力はやわらかい波みたいに揺れていた。
(……なんか……変わっちゃったのかな、私の方が)
過剰反応していたのは私。
でも今はただ、
心地よさに変わっている。
……ただし。
階段を降り、
キッチンにいたルベルと目が合った瞬間。
「……おはよう、ルベル」
その何気ない笑顔に――
ふわん
と、ルベルの魔力が跳ね上がった。
「……っ」
ルベル本人が一番驚いていた。
(あ、まだたまに過剰反応するんだ……
特に……笑顔に弱いんだ……)
理由は聞かなくても分かる。
昨日、
彼は“エレノアが笑えば、核が喜ぶ”ことを知ってしまったから。
だから今も、
まるで眩しい光を見たみたいに
ルベルは一瞬視線をそらして言った。
「……エレノア。
今日の……魔力……いい」
「それは……ルベルのおかげ、かな」
再び微笑む。
ふわぁっ……とまた反応するルベル。
(可愛い……)
そう思った瞬間、
なぜか魔力の揺れがお互いに重なって
ふわふわの朝になった。
「じゃあ、朝食食べたら……森へ訓練に行きましょうか」
「……うん。エレノアと行く」
その返事もまた胸に優しく響いて、
魔力の甘さが少しだけ増した。




