差し出した手に宿るもの
ルベル視点
眠りにつく前、
ルベルは布団の中で
ゆっくり瞳を閉じた。
その瞬間、
昼間の出来事が胸に戻ってくる。
――エレノアがつまずいた瞬間。
――反射で腕を伸ばし、抱き寄せたこと。
――そして、
そっと“手を差し出した”自分。
(……あれは……
本能が先に動いた)
エレノアが転びそうになった。
それだけで、
核が激しく反応した。
“護れ”
“支えろ”
“離すな”
その全部を押し込めて、
ぎりぎりのところで理性が働いた。
(抱きしめてはいけない。
怖がらせてはいけない。
距離は……エレノアが決める)
だから手を差し出した。
握り返さなかった。
あの一瞬の葛藤は、
今思い出しても胸が熱くなる。
エレノアの指先が触れた瞬間――
核が跳ねた。
でも
“繋ぐかどうかはエレノアが決める”
と自分で決めた以上、
ルベルは絶対にその線を越えられない。
(……あの時、
エレノアが触れてくれて……
うれしかった)
その想いを
胸の奥深くに沈めながら
ルベルは小さく息を吐いた。
(守りたい。
近づきたい。
でも……
急ぎたくない)
本能は“求める”けれど、
エレノアの気持ちが最優先だ。
それを崩したら、
エレノアが困る。
悲しむ。
だから――
ゆっくりでいい。
差し出した手を、
次も取ってもらえるように。
ルベルはそっと枕に顔を埋め、
小さくエレノアの名を呼んだ。
「……エレノア……」
温かい魔力が静かに揺れる。
眠気がようやく訪れ、
瞼が落ちていく。
今日の最後に胸に残ったのは、
つないだ指先の温度だった。




