馴染みはじめた「二人の生活」
家に戻ると、
エレノアとルベルはいつもの動作で靴を脱ぎ、
自然と持ち場へ向かっていった。
エレノアは買ってきた食材を仕分け、
ルベルはそれを棚へ収める。
それぞれが動いているのに、
決して邪魔にならない位置に立ち、
必要なときだけ軽く視線を合わせる。
(……あれ? いつの間にか……
すごく自然になってる……)
以前は一人でやっていた作業。
誰かと一緒に台所に立つなんて、
緊張して仕方がなかったはずなのに。
今は――
肩がぶつかりそうな距離でも怖くない。
むしろ、
料理棚に並んでいる二人分の食材が
なんだか温かく見えた。
「……エレノア。
重いの、上に乗せないほうがいい」
「ありがとう。じゃあ下の段に……」
呼吸が合う。
会話も合う。
わずかな沈黙すら居心地が悪くない。
「……なんだろう……
こういうの……いいな……」
思わずつぶやいたエレノアの言葉に、
ルベルの手がぴたりと止まった。
「……エレノアが、そう思うなら……
俺は、もっと……がんばれる」
「そんな頑張らなくていいのに……」
「頑張りたい」
即答。
その声に照れが混ざっていて、
エレノアはそっと笑った。
“二人の生活”は、
まだ始まったばかりなのに、
もう家の空気が
ふたりの形を覚えはじめていた。




