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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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眠れないふたり

夕食も片付き、

お風呂も終わり、

家の中はようやく眠りの準備に入っていた。


とはいえ、

今日一日の出来事は静かな夜風のように

エレノアとルベルの胸の内を撫でて離れない。


「……ルベル、今日はありがとう。

おやすみなさい」


エレノアが少しだけぎこちなく微笑む。


「…………おやすみ、エレノア」


ルベルも同じように、

声がわずかに震えていた。


二人は互いに背を向け、

階段の左右へと分かれて歩き出す。


そして――

数分後。


家の二階の両端にある二つの部屋では、

似たような光景が広がっていた。


ベッドに入ったエレノアは、

すぐに、眠れると思っていたはずだった。


でも。


「……無理……寝れない……」


枕をぎゅっと抱きしめ、

ゴロゴロと寝返りを打つ。


左へ転がり――

右へ転がり――

うつ伏せになってみたり——

仰向けに戻ったり。


今日のいろんな場面が、

頭の中でひとつずつ再生されていく。


魔力の練習。

繋がった線。

触れていないのに触れたみたいな感覚。

半歩の距離。

止まった足。


「……あんなの……絶対寝れるわけない……」


目をぎゅっと瞑るが、

胸がざわついて余計に眠れない。


枕を抱いても落ち着かない。

心臓はずっと、

今日の出来事に拍動を合わせてしまう。


(ルベル……今ごろどうしてるんだろ……

落ち着いてるかな……

気まずくなってないかな……)


また寝返り。

そしてため息。


魔術師なのに、

魔力よりも胸のざわめきのほうが手に負えない夜だった。



一方、

廊下の向こう側の部屋。


ルベルもベッドにいた。

しかし、眠る気配はまったくない。


「……エレノア……」


彼は枕を胸に抱きしめ、

仰向けのまま天井を見つめていた。


目を閉じれば、

エレノアが呼吸する音まで思い出せそうで。


魔力が繋がったときの感触が、

指先にまだ残っている。


“触れた”わけではないのに。


(……近づきたかった……

でも……抑えられた……

嫌がられなかった……

それだけで……嬉しい……)


小さく息を吐いて、

枕にさらに力を込める。


エレノアの気配は、

部屋の壁を隔ててもなお感じ取れる。


魔力が呼応しようとするのを、

彼は必死に押さえ込む。


(……エレノア……

眠れてるといいけど……)


その願いとは裏腹に、

自分はまったく眠れそうにない。


目を閉じても、

耳の奥でエレノアの名前が響く。


「……エレノア……」


呼んでしまう。

声に出すと、胸がさらに熱くなる。


それでも止められない。


“名前を呼ぶと落ち着く”。

それは従魔としての本能かもしれないし――

もっと別の感情かもしれない。


彼は自分でも分からないまま、

ただエレノアの名前を抱くようにして

枕に額を押しつけた。



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