夕食を囲む、ぎこちない優しさ
立ち尽くしていた私たちは、
お互いに半歩下がったことで、
ようやく息ができるようになった。
でも、
気まずさはそのまま残っている。
夕食のいい匂いが部屋を満たしていく。
(……食べなきゃ……
せっかくルベルが作ってくれたんだから……)
私はそっと視線を合わせた。
「……夕食、食べましょうか」
ルベルはわずかに目を見開き、
それから安心したように柔らかく頷いた。
「うん。
できてる」
キッチンのテーブルには、
ルベルが用意した料理が綺麗に並んでいた。
スープに、香草のソテー。
焼いた肉の上には、私の好きなハーブが乗っている。
(ちゃんと、私の好みに合わせてる……)
座ると、気まずさで自然と視線が泳ぐ。
ルベルも同じらしく、
スープを手に取りながら
どこを見るでもなく少しぎこちない。
「……今日の魔力練習、
迷惑かけました」
私が謝ると、
ルベルはすぐに首を横に振った。
「違う。
迷惑なんかじゃない。
むしろ……
エレノアが一緒に練習してくれて……うれしかった」
その言葉はまっすぐで、
うそがひとつもない。
胸がちくりと痛い。
でも温かい。
「でも……
近すぎましたよね……」
私が言うと、
ルベルの指が一瞬だけ固まる。
「……うん。
でも……止まった。
エレノアが嫌がる前に……止まれた」
その言い方が、
まるで自分を褒めてほしい子犬みたいで。
(……ずるいよ……そういう言い方……)
「……ありがとう。
止まってくれて」
そう言うと、
ルベルの肩の力がふっと抜けた。
やわらかい空気が、
テーブルに流れ込む。
食事は美味しかった。
お世辞じゃなく、
本当に美味しい。
気まずさは残るけれど、
それでも温かい時間だった。
どちらも距離を間違えないようにしながら、
そっと相手に気遣いながら、
ぎこちなく、でも確かに“二人の夕食”を終えた。




