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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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半歩の沈黙と、下がった側の胸の痛み

リビングの中央。

たった半歩の距離で向かい合う私たち。


誰も動かない。

声も出さない。

呼吸ばかりが静かに重なっていく。


(……やば……

こんな近いと……魔力が……)


私の胸の奥で、魔力がふわりと揺れた。


それに応じるように、

ルベルの魔力もかすかに揺れ返す。


線で繋いだわけじゃない。

触れてはいない。


でも――

“揺れに呼応してしまう距離”だった。


ルベルの眉がわずかに動いた。


「……エレノア」


名前を呼ばれただけなのに、

胸が跳ねる。


(だめ……落ち着いて……)


けれど、落ち着くには近すぎる。


彼の瞳は真っすぐで、

少し迷っていて、

なのに不思議な優しさを帯びていた。


この距離。

この沈黙。


どちらかが動かなければ変わらない。


だけど――

どちらが先に下がるべきか分からない。


(私が下がるべきかな……

でも、それって……避けてるみたい……?)


(俺が下がったら……

エレノア、嫌がったと思うかもしれない……

でも……揺れてる……近すぎる……)


ふたりの思考が、言葉にならないまま空気に漂う。


時間が、ゆっくり重く落ちていく。


そして――

動いたのはルベルだった。


ふ、と小さく息を吸い、

ほんのわずかに視線を伏せて、

静かに半歩、後ろへ下がった。


音もなく、スッと。


けれどその“半歩”には

彼の全ての理性が詰まっている気がした。


(……下がった……)


胸の奥がぎゅっとなる。


ルベルの魔力が、

距離を取ることで静まっていく。


けれど――

心までは静まっていないのが伝わる。


なぜなら、下がる瞬間。

彼の瞳は一瞬だけ

“寂しさ”に揺れたから。


すぐに消えたけれど、

私は見てしまった。


ルベルは言葉を探すようにして、小さく呟く。


「……ごめん。

近すぎた……と思う」


「い、いえ……!

そうじゃなくて……その……」


説明したいのに、

胸が痛くてうまく言葉が出ない。


(私が……うれしいって思ったから……

余計に苦しいんだよ……)


ルベルは下がったことで

魔力の揺れは落ち着いたのに、


私のほうは――

逆に胸の奥がきゅうっと熱くなるばかりだった。


気づけば私は、

胸を押さえて俯いていた。


「エレノア……?」


心配そうな声。


顔を上げたら、

きっとまた魔力が揺れる。


だから私は、

小さな声で誤魔化すように言った。


「……なんでも……ないです……

ちょっと……気持ちが追いついてなくて……」


本音のようで、本音じゃない。

でも本音でもある。


ルベルはしばらく黙ったあと、

静かに頷いた。


「……無理しないで。

エレノアが落ち着くまで……

俺は、ここから動かない」


その言葉は優しく、

それなのに胸に刺さるほどまっすぐで。


私は胸を押さえたまま、

ただ静かに頷くしかなかった。


距離は半歩から一歩へ。

確かに離れたはずなのに――


心の距離は、

前よりずっと近く感じた。



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