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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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近づいただけ

魔力を整えるため、私は深呼吸を繰り返していた。

ルベルは距離を守ったまま、

静かに私の動きを見守っている。


けれど――

近づいてもいないのに、

魔力が勝手に揺れる。


(……本当に、なんでこんなことに……)


と、その疑問が胸の奥に浮かんだ瞬間。

私は“ある理由”を思い出した。


――私が使った召喚術は“未完成の禁術”だった。


本来の術式は、

師匠が“従順で主を護る魔獣”を作るために研究していたもの。


でも私は、

その術式の途中に“自分の魔力で補った陣”を描き足してしまった。


魔力の癖、願い、呼び声。

私という人間の“性質”そのものが

召喚陣の一部になっている。


だから――


ルベルの“核”には、

最初から私の魔力が刻まれている。


さらに封印のとき、

私は恐怖で魔力を暴発させ、

ルベルはそれを受け止めて押し返した。


その瞬間、

“核”と“私の魔力”が再び混ざった。


(そうか……

これじゃあ揺れるのは当然だ……)


私の魔力が揺れればルベルの核が反応し、

ルベルの魔力が動けば私が反応する。


“呼応体質”のような状態になってしまっている。


ルベルはその意味を理解していたのか、

静かに言葉を続けた。


「……エレノアと俺の魔力、

たぶん……繋がりやすい形になってる。

召喚の時も……封印の時も……

エレノアの魔力が核に触れた」


「……うん。

私も今、やっと理解しました。

だから……揺れるんですね」


「うれしい」


「嬉しくないです!!」


(いや、ちょっと嬉しいけど!!!

でも揺れるのは困るの!!)


頬を押さえながら深呼吸し、

私は練習の本題に戻した。


「じゃ……じゃあ、魔力の“線”を繋ぎます。

手を繋ぐよりずっと安全なはずですから!」


ルベルは素直に頷いた。


「……エレノアの指示で、流す」


私は胸の前に手をかざし、

ごく細い魔力の糸を紡ぎ始めた。


触れ合うのではなく、

“触れそうで触れない距離”を通して

相手の魔力と交わらせる技術だ。


呼吸を整え、

ルベルへ向けて細い光の線を伸ばす。


ルベルも同じように、

深い赤い魔力の線をこちらへ伸ばしてくる。


ふたつの線が、

空中で触れそうになった瞬間――


空気が震えた。


ふれあっていない。

まだ“近づいただけ”。


なのに。


胸の奥がぞわっと熱くなる。


魔力がゆっくり引き寄せられるような、

触れられたような感覚が走る。


(……これ……本当に、触れてないのに……!)


ルベルも同じらしい。


息を少し吸い、

低く呟いた。


「……エレノアの魔力……

近い……触れたみたい……」


「触れてませんからね!?

線ですから!?」


「でも……感じる。

あたたかい。

……好き」


「だからその“好き”は魔力に対してでしょ!?

魔力に!!」


心臓が爆音で鳴る。

魔力もまた、細かく震える。


ふたつの線はまだ触れていないのに、

互いの魔力がふるんと揺れて引き寄せ合う。


ゆっくり、

ゆっくりと距離が縮まっていく。


触れていない。

けれど――

触れられたみたいに、指先が熱を持つ。


(うそ……

魔力線だけで、こんな……?)


思わず息が漏れた。


その一瞬の揺れに、

ルベルの魔力が応える。


赤い線が震え、

私の線に触れた。


――ふれた。


光が弾けるような小さな感覚。

けれど、その刺激は

直接手を握られた時よりも

よほど繊細で、深くて――


胸の奥にじんわり染みこんでくる。


「……エレノア……」


ルベルの声が、

いつもより低く、

熱を含んでいた。


彼の理性が

すこしだけ揺らぐ音がした。


(やば……これ……

“触れてないのに触れた”ってこういう……!)


魔力の線が繋がった瞬間。


二人の魔力が静かに溶け合って、

世界がひとつ分だけ近くなった。




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