褒めるたびに成長するタイプ
昼食を軽く済ませたあと、
私は気持ちを切り替えて午後のレッスンに挑むことにした。
(午前だけでめちゃくちゃ疲れたけど……
ここでやめたら、もっと大変になる……)
ルベルは相変わらず三歩後ろで静かに待っている。
視線が、刺さる。
本当に刺さる。
「じゃあ、午後は……えっと……
“火を使わない家事”から再開しますね」
「わかった」
いつも通り淡々とした返事。
なのに声の奥に“喜び”が混じっているのが分かる。
(本当に……家事がそんなに嬉しいんだ……)
まず教えるのは、
・簡単な片付け
・本棚の整理
・収納の方法
など、比較的安全な作業。
私は本棚の前に立ち、
本の並べ方を説明しはじめた。
「この棚は、よく使う魔術書を下段に。
上段は古い資料とか、あまり触らないものです。
ほら、こうやって――」
説明途中。
ルベルがもう次の段に手を伸ばしていた。
「こう?」
本が、
ふつうに綺麗に、
しかも分類まで完璧に並んでいく。
「えっ、ちょっと早っ……!?
どうして仕分け分かるんですか!?」
「背表紙の魔力の残り方で、使われる頻度がわかる」
(魔力読み解きで本棚整理!?
そんな高度な片付け方法あった!?)
私は驚きつつ、次へ移る。
「じゃ、じゃあ……引き出しの中の整理とか……
よく使うものを手前に――」
引き出しを開けた瞬間。
ルベルの手がすっと入って、
瞬きする間に綺麗に整えられた。
「こう」
「こうって言われましても!!?」
(いやでもすごい……
いやすごすぎて怖い……)
次は薬草の分類。
「色と硬さで区別して――」
「わかる」
(わかるの!?!?)
ルベルは薬草の束を丁寧に手に取り、
魔力の香りで状態まで判断していく。
「これは乾燥しすぎ。
これは保存期間が短い。
これは……エレノアがよく使う匂い」
(うわぁぁぁぁなんか恥ずかしい!!)
午後のレッスンは、
驚きの連続だった。
説明しようとするたびに、
ルベルはすでに理解して動いている。
しかも正確で、早くて、
センスが良すぎる。
(……これ、私……
もう家事いらなくない……?
ルベルに任せたほうが絶対早い……)
しかし現実はそう簡単じゃない。
途中でエレノアの手が道具に触れた瞬間――
魔力がふわっと揺れ、
そのたびにルベルが反応するからだ。
肩が触れそうになれば反応、
息を吸えば反応、
説明中に近くを通ると反応。
そして揺れを感じるたびに、
ルベルは一瞬近づきそうになって、
言われる前に自制して止まる。
(が、頑張ってるんだ……
反応しないように……本能抑えて……)
その努力が見えるからこそ、
怒れない。
むしろ胸がきゅっとなる。
午後の光が差し込む部屋の中で、
ルベルは淡い影を落としながら動いていた。
静かで綺麗で――
そして異様に優秀。
(本当に……なんでこんなに私の生活が、
あっという間に“二人仕様”になっていくんだろう……)
棚の整理も、床の拭き掃除も、
薬草の分類まで完了してしまったころ――
私は悟った。
午後のルベルは、午前よりさらに吸収力が上がっている。
たぶん、
午前中に褒められたのが嬉しかったのだ。
そして嬉しいと、
ルベルの“主特化能力”が上がるらしい。
(これ……褒めるたびに成長するタイプ……!?
危険……でも、可愛い……でも危険……!)
休憩前に比べて、
ルベルの動きは洗練されすぎていた。
エレノアが説明をする前に
結果が完成する。
午後のレッスンは、
もはや“教える”よりも
“追いつく”ほうが大変だった。




