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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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ルール、運用開始

翌朝。

エレノアは魔力の波がようやく落ち着いたころを見計らって、

ゆっくりとベッドから起き上がった。


(今日は……落ち着いてる。

昨日みたいな揺れもない……よし、いける)


距離ルールもできた。

これなら少しは普通の生活ができるはず。


そう思いながら部屋の扉を開けた。


……の、だが。


扉の真横の壁に、

ルベルが立ったまま寄りかかっていた。


しかも――

完全に“待っていた”体勢。


「っひゃああ!?」


驚きの声が喉から跳ねた。


ルベルは淡々と言う。


「……おはよう。

魔力、安定してる」


「え、ええ……まぁ……その……」


(距離!?

ルール!?

もう破られてない!?)


エレノアの心の叫びを無視して、

ルベルはいつものようにすぐ隣に歩み寄る。


「……朝食を作る?」


「つ、作ります……けど……」


「じゃあ、ついていく」


(出た!

その“当然”みたいな言い方~~!!)


慌ててエレノアは手を挙げた。


「ちょ、ちょっと待って!!

あ、あのっ……距離ルールは……?」


ルベルはピタリと動きを止めた。


そして、

エレノアの顔をまっすぐ見つめながら言った。


「エレノアは、

“いま距離をとって”と言ってない」


「…………」


(そ、そうだったぁぁああああ!!!)


エレノアは頭を抱えたくなった。


言ってない。

確かに言ってない。

でもそうではない。


エレノアが何か言う前に、

ルベルは距離を詰める。


三歩――

いや、一歩。


(近いっ!!)


「エレノアが“離れて”と言うまで、

俺はそばにいる」


その宣言はあくまで穏やかで、

優しい声なのに――


距離ゼロの圧は、まるで魔獣。


エレノアは必死に笑顔を作る。


「え、ええと……

じゃあ……“今は”大丈夫です……」


(言っちゃったぁぁああああ~~!!)


その言葉を聞いた瞬間。


ルベルの表情は、

冬の光のように静かで柔らかく緩んだ。


「じゃあ、行こう」


ほんの少し、声音が甘い。


エレノアは内心でバタバタしながら、

キッチンへと歩き出す。


――すると。


トントン、と軽い足取りで、

ルベルはエレノアの“後ろぴったり”についてくる。


丁度、影が後ろに重なるような距離。


(いやほんと近い!!

距離ルールどこいったの!?)


エレノアは勇気を振り絞る。


「ル、ルベル……

せめて二歩後ろくらい……」


「二歩?

いいよ」


(聞いてくれた……!)


そう思った瞬間。


ルベルは二歩ではなく――

“一歩半” 下がった。


「……えっ、あの……二歩……」


「エレノアの影が届く距離が“ちょうど二歩”。

だから一歩半だと途切れない」


(影ルール~~!!?

誰がそんな計算したの~~!!)


エレノアは泣きそうになった。


エレノアの“生活距離ルール”は、

ルベルにとって

「安全に主を守るための最適距離ルール」 と

誤解されたまま運用されている。


こうして――

ルール初日から、

エレノアの理想とルベルの解釈は大きくねじれて始まってしまった。


(これ……本当に生活できるのかな……!?)


エレノアは胸を押さえながら、

今日もそわそわとキッチンへ向かうのだった。




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