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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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ルールづくりは、思っていたのと違う

エレノアは胸の魔力を押さえながら、

ルベルと向かい合った。


布団を必死で抱えたその姿は、

まるで“危険な野生動物を前にした普通の人”のようだが、

その野生動物がいま目の前にいる。


問題は、その動物が――

こちらを見つめる瞳に絶対の信頼と甘さを宿している

という点にある。


「……ルベル。

とにかく、ルールを作りましょう」


「うん」


返事がやたら嬉しそう。


エレノアは深呼吸……しようとしたが、

さっき呼吸ですら反応されたので、

ためらう。


(落ち着け……!

まずは“距離”の話をするの……!)


エレノアは指を一本立て、真剣に言った。


「その……まずは“近づきすぎない”ことです!」


ルベルの赤い瞳が瞬きもせず見つめてくる。


「どれくらい?」


「え?」


「“近づきすぎない距離”って……

エレノアと俺の“どれくらい”?」


言われてみれば、確かに説明が難しい。


人と獣の境界みたいに曖昧だ。


エレノアは必死に考えた。


「えっと……このくらい……?」


ベッドから半歩ほど後ろへ腰を引く。


だがルベルの表情は柔らかいまま。


「それは……“近づいてほしくない距離”?

それとも……“近づきたいけど我慢してる距離”?」


「か、か、考えたことないです!!」


(なんでそんな区分が出てくるの!?

普通は“近づきたい距離”とか考えないよ!!)


エレノアは両手を振って慌てて否定した。


「と、とにかく!

自分の魔力が不安定な時は、

距離をとってほしいのです!!」


するとルベルは少し静かに考え込み――


「……魔力が不安定なときだけ、離れるんだね?」


「そ、そうです!!

それだけです!!」


ルベルはこくりと頷いた。


が。


そのあとに続いた言葉が問題だった。


「じゃあ……

エレノアの魔力が安定しているときは、

近くにいてもいい?」


「えっ!?

ちょ、ちょっと――」


「“離れる条件”を決めたなら……

“離れなくていい条件”もあるよね?」


エレノアは頭を抱えた。


(そ、そう来たかぁぁぁ~~!!

でも確かに……理論は合ってる……!!

けど違うの!! そういう話じゃないの!!)


ルベルはさらに追撃してくる。


「たとえば……

エレノアが元気なときは、

俺はそばにいていい?」


「ちょっと待ってください!!

そういう方向に広げないでください!!」


「エレノアが笑ってるときも……近くていい?」


「ちょ、ちょ……!」


「料理してるときも?」


「ギャ~~~~!!」


エレノアは枕に顔を埋めたい気持ちを必死に堪えた。


ルベルは静かに、落ち着いた声で続ける。


「……俺は、エレノアの“嫌がる距離”には行かない。

でも……」


少しだけ視線を伏せる。


その表情は、

どこか迷子の子犬のように弱く。


「エレノアが“嫌じゃない距離”なら……

そばにいたい」


エレノアは息を飲んだ。


胸がきゅ、と苦しくなる。


(だ、だめ……

この顔と声は……

反則……!)


ルールを作るはずが、

気づけば攻め込まれている。


エレノアはなんとか言葉を絞り出した。


「じゃ、じゃあ!

こうしましょう!!」


思い切り手を挙げ、宣言する。


「“一定の状況では距離を取る”ルールを作ります!!

魔力が揺れてるとき

体調が悪いとき

集中したいとき!!

この三つの時は近くに来ないでください!!」


ルベルはゆっくり頷いた。


「……わかった。

その三つのときだけ、離れる」


(よかった……理解してくれた……!)


そう思ったのも束の間。


ルベルは続けた。


「じゃあ……

それ以外のときは全部、エレノアのそばにいる。」


「なんでそうなるの~~~~!!??」


エレノアの叫びは部屋に虚しく吸い込まれた。


こうして――

ルールは作られたはずなのに、

むしろルベルの“エレノア密着宣言”が強化されてしまったのだった。


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