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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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寄り添う影、離れない気配

封印が完了したはずの黒い箱は、

ただの物体のように静かに棚奥へ収まった。


けれど――

空気には、かすかな“ひずみ”だけが残っていた。


エレノアは胸の奥にそのざわつきを抱えたまま、

魔道具棚を閉じ、小さく息を吐いた。


「……ふぅ。

と、とりあえず……終わりましたね……」


「エレノア」


呼ばれた名前に、びくっと肩が揺れる。


ルベルはほんの少し眉を寄せ、

近づくのも躊躇わない距離で立っていた。


距離が……

明らかに、昨日より近い。


「さっきから……胸が痛そう」


「えっ……そんなこと……」


「わかる」


即答だった。


エレノアの胸がひゅっとすぼまる。


(ま、また……全部見透かされてる……!)


ルベルの“察知”は異常だ。

気配、感情、魔力の動き。

全部を当たり前のように拾う。


本来、召喚獣として組み込まれるはずだった本能。

しかし獣の形ではなく、人の姿を得た分だけ――

それはより“感情寄り”に歪んで働いている。


ルベルは、エレノアの胸にそっと手を伸ばす。

触れる――寸前で止まる。


「……ここ。重い?」


「なっ……!」


エレノアは慌てて一歩後ろへ下がるが、

ルベルは追ってくるように前へ詰めた。


「逃げないで」


「に、逃げてないです!!

ただ……近いだけで……!!」


「……僕はもっと近くていい」


(だめだめだめ……!!

封印の余韻で、本能が強まってる……!)


エレノアは必死に気持ちを整え、

笑顔――と言えるかわからない顔で言った。


「と、とにかく……作業は終わりですから……

気にしすぎですよ……!」


「気にする」


「ルベル……!」


「エレノアの魔力……さっきから揺れてる」


(揺れてる……?

そんなわけ……)


と思った瞬間。


胸の奥が、かすかにふるえた。


本当に――

揺れている。


自覚した途端、エレノアの呼吸が浅くなる。


封印陣で無理をしたせいか、

ルベルと魔力を繋いだ影響か、

あるいは――


あの箱に魔力が“触れられた”せいか。


理由はまだわからない。


けれど確かに、

エレノアの魔力は“少しだけ乱れていた”。


ルベルはその揺らぎを追うように

そっとエレノアの手を包み込む。


「……ほら、震えてる」


「っ……!」


「エレノアの魔力は……甘いから。

すぐに……揺れる」


声が低い。


甘いという表現が、

どうしてこんなに危険に聞こえるのか。


エレノアは俯き、震える指を握りしめた。


「し、しばらく……安静にします……

魔力を整えるために……!」


なんとか言葉を絞り出すと、

ルベルはエレノアの手を離す代わりに、

その手の甲へそっと指をなぞらせ――


「整うまで……僕がそばにいる」


その一言が、

封印よりも重く響いた。


(ち、違う意味で整わない……!!)


エレノアは目元を覆い、

小さくしゃがみ込みたくなる衝動に耐えた。


封印は解決した。


危険は消えた。


――はずだった。


なのに心と魔力は揺れ続け、

その揺れに反応するルベルは

さらにエレノアへ近づいてしまう。


二人の間にある“違和感”は、

静かに、確実に膨らみ始めていた。


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