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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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交わる魔力、揺れる本能

黒い箱を前に、

エレノアは大きく深呼吸した。


(だ、大丈夫……封印なら……できる……はず)


師匠から受け継いだ封印術は、

禁術に比べればずっと安全なものだ。

ただ、魔力の“扱い”には細心の注意が必要だった。


エレノアは魔術書を手に取り、封印陣の準備を始める。


ルベルはその横で動かず、

ただ箱を警戒するようにじっと見つめている。


エレノアが陣を描き終えると、

その中心に黒い箱が置かれた。


「ルベル。

封印の補助をお願いしてもいいですか?」


「……補助?」


「はい。

封印は、二人以上で行う方が安全なんです。

魔力の流れが安定するので……」


ルベルはゆっくり頷いた。


「エレノアが望むなら」


(……その言い方やめて……

なんか……心臓にくるから……)


エレノアは気を取り直して、

魔力循環の前と同じようにルベルに手を差し出した。


「まずは……魔力を繋げます。

私の流れに合わせて……」


「……わかった」


ルベルの大きな手が、エレノアの手を包む。


その瞬間――

“ぞわっ”と強い力が走った。


(え……なにこれ……?)


昨日感じた温かさとは違う。


もっと深くて、

重くて、

奥底で形を変えようとするような、

不思議なざわめき。


エレノアは戸惑いながら魔力を流し始めた。


ぽう……と陣が淡く光り始める。


「エレノア……」


ルベルの声が低く震えていた。


「ど、どうしましたか……?」


「……君の魔力が……

今日……いつもより……」


言葉が途中で途切れ、

ルベルの指が強く絡む。


エレノアは息を飲んだ。


(つ、繋ぐ力……強い……!?)


まるで、

魔力を通じて“食い込もう”としてくるような圧力。


エレノアは手を離そうとしたが――

ルベルが離さない。


「ル、ルベル!? ちょっと……!」


「……ごめん。

いま……離せない」


赤い瞳がちらりと揺れ、

その奥に“理性の影”が見えた。


本能が暴れようとしている。

それを必死に抑えている。


エレノアは恐怖より先に、

心配が胸を占めた。


「だ、大丈夫……?

無理しなくていいんですよ……!」


「違う……

僕が……抑えてるんじゃない」


「……え?」


「エレノアの魔力が……“呼んでる”」


心臓が跳ねた。


エレノアは理解できず、ただ震えた。


「私の……魔力が……?」


「……封印陣に……触れて……

君の魔力が動くと……」


ルベルの指が、エレノアの手をぎゅっと締める。


「……僕の本能が……反応する」


風が、ふっと室内で逆流するように揺れた。


封印陣の光が一瞬強くなり、

黒い箱の周囲で“何か”が軋む。


エレノアは慌てて魔力を安定させる。


「ルベル、落ち着いて――!」


「落ち着いてる……

でも……君と魔力を繋ぐと……」


赤い瞳が、熱に揺れる。


「……“護りたい”と“奪いたい”が……混ざる」


ひ、とエレノアの喉が震えた。


奪いたい――?


その言葉の重さに、

封印陣の光がゆらりと揺れる。


黒い箱の中の“残滓”が、

まるで呼応するように低く唸った。


(だめ……封印が乱れる……!)


エレノアは必死に魔力を整えた。


「ルベル……しっかり……

私の流れに合わせて……!」


ルベルは苦しげに息を吐く。


「……エレノア……

君の魔力……甘い……」


「た、食べ物じゃないです……!!」


「違う……

“噛みつきたくなる甘さ”」


エレノア

「なんでそんな本能的な例えするのぉぉぉ!!?」


陣がぱあっと光り、

箱の気配が一気に弱まった。


封印の核が、閉じていく――


だがルベルの手だけは、

まだ熱を帯びて震えていた。


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