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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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静寂の中で芽生えるもの

地上へ戻ったエレノアは、まだ胸の奥がざわついていた。

けれど、今は目の前の作業を終わらせる方が先だ。


精霊の粉の瓶を開けると、淡い光がふわっと舞い、釜の液体に散って吸い込まれていく。

かき混ぜるたびに色が変わり、ふつふつと小さな泡が弾けた。


「……よし、仕上がった」


慎重に小瓶へと液体を注ぎ分け、栓をして並べていく。

控えめな黄金の輝きが棚に整列し、達成感がじんわりと広がった。


「これで納品分はできた……」


へたりと肩を落とし、片付けにとりかかる。

杓子を洗い、瓶を戻し、机を拭く。

それから、背伸びをひとつ。


「……つかれたぁ」


足が重い。腕もだるい。

こういう日は温かいものが欲しくなる。


ハーブティーを淹れ、椅子に腰を下ろした瞬間、ふわりと柔らかな香りが広がった。

心がゆっくりほどけていくようで、エレノアは小さく目を閉じた。


――が。


すぐに、胸の奥に あの魔術書 がよみがえる。


(……ダメ、気にしないって決めたのに)


気付けば椅子から立ち上がりかけていた。

自分で止めようとしても、手足がそわそわ動く。


(少しだけ……本当に少しだけ見るだけ)


言い訳のように呟き、あわてたように廊下を駆ける。

魔術書は作業台の端に置いてあるはずだ。


走って、走って――

手を伸ばした先にあった。


先ほど倉庫から持ち帰った…

師匠が遺した未完の魔術書。


胸がどくりと高鳴る。

触れた途端、理由の分からない熱が指先に宿るようだった。


「……師匠。どうして……途中で書くのをやめたの?」


問いかけても、返事はない。

けれど、その沈黙がかえって続きを読みたくなる。


ハーブティーは机に忘れたまま、エレノアは魔術書を胸に抱えて部屋へ戻った。

足取りは軽くもあり、怖くもある。


(もし……私なら……ここをこう改良したら……喚べるのかな)


その考えは危険だと分かっている。

禁術だ。

触れてはいけない。

わかっているのに。


ページを繰るたびに、頭が冴えていく。

文字が脳へ吸い込まれ、気付けば机に広げた紙に走り書きをしていた。


「ここを――もっと古い構文にして……媒介の陣をずらせば……」


自分の声さえ他人事のよう。

気が付けば、魔術の改良案が一枚、また一枚と積み重なっていく。


胸の奥で生まれた小さな衝動は、もう抑えられそうにない。


(……試してみたい)


禁術の続きを、自分の手で。



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