朝の光と、近すぎる影
朝。
小鳥の声がやさしく窓を叩くように響き、
森の湿った空気が薄く晴れていく。
エレノアはゆっくりまばたきをして、
布団の中で小さく伸びをした。
(ん……朝か……)
昨日は色々ありすぎて疲れた。
でも、胸の奥には不思議と暖かいものが残っている。
「よし……朝ごはん、つくろう」
エレノアは寝間着のままキッチンへ向かう。
師匠と暮らしていた頃からの癖で、
朝食は必ず自分で作る。
トントン、とパンを切り、
スープを火にかけ、
手際よく動いていると――
後ろに、ふわっと気配が落ちた。
(……来た)
振り返る前にわかる。
空気が少し温かくなって、
距離がゼロになるあの感じ。
「エレノア」
「ひゃぁっ!? ル、ルベルっ!?
おはようございます!!」
驚きすぎて声が裏返った。
ルベルは寝癖ひとつない整った髪で、
静かに首を傾げる。
「声……高い」
「びっ……びっくりしただけです……!」
(なんでこんなに気配消すの!?
本能なの!? それとも意図的!?)
ルベルは自然な動作でエレノアの斜め後ろに立ち、
鍋を覗き込む。
距離、近っ!!!
「今日は……何作ってる?」
「えっと……パンと……スープです」
「……手伝う」
また即答。
まだ寝ぼけているはずなのに、反応だけは一級品だ。
「い、いえ、朝は私だけで大丈夫――」
「だめ?」
ほんの少し寂しそうな瞳。
(ずる……そんな顔ずるい……)
「で、できる範囲でお願いします……」
ルベルの顔がぱっと明るくなる。
(うわ……かわ……ちがう!!
か、可愛いとか思ってない!!)
エレノアの脳内はもはや自爆状態。
ルベルは静かにエプロンを手に取る。
「……昨日覚えた。これはこうつける」
器用に結ぶ姿に、エレノアは思わず感心してしまう。
「本当に吸収が早いですね……」
「エレノアが教えたから」
その一言がまた胸に刺さる。




