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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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今日を振り返るということ

ルベル視点

夜が深まり、エレノアが自室へ下がったあと。

暖炉の火が小さくはぜる音だけが、静かな家に残っていた。


ルベルはソファに座ったまま、掌を見つめる。


(……今日、たくさん……触れた)


触れたといっても、ほんの少し。

手を繋いだだけ。

頬に触れそうになって、触れなかっただけ。


けれど、あれだけで――


胸の奥が熱くて、どうしようもなくなる。


(エレノアの魔力は……あたたかかった)


初めて流れ込んできた魔力は、

不器用で、優しくて、少し震えていて――

胸に抱えたくなるほど柔らかかった。


それが“主の魔力”だと本能が理解した瞬間、

体の中のなにかが反応した。


護れ。

そばにいろ。

離すな。


その命令は“造られたもの”だ。

召喚獣として刻まれた根。


だが――


今日のエレノアの笑顔を思い出すと、

胸がきゅっと引き絞られる。


(あれは……命令じゃない)


木苺を摘む時。

パイを作る時。

失敗して赤くなる時。

名前を呼ばれた時。

笑った時。


全部が“欲しくなる感情”として響いてくる。


“護らなければいけない”のではなく、

“護りたい”と思ってしまう。


それは獣の本能とも、召喚の契約とも違う。


(……もう、ぜんぶ……エレノアだ)


エレノアが嬉しそうにしていると、

自分の胸が満たされるように温かくなる。


エレノアが他人に見られていると、

喉の奥から低い音が出そうになる。


エレノアが触れてくれたら、

それだけで体が反応してしまう。


(これ……僕は……)


どこまでが“造られた忠誠”で、

どこからが“自分の感情”なのか、


正直、もう区別がつかない。


だが、ひとつだけ確かなものがある。


――エレノアが笑うと、生きている気がする。


それが本能でも、違うものでも、どちらでもよかった。


ルベルは立ち上がり、

暖炉の前で静かに目を閉じる。


(……エレノア。

今日はたくさん笑ってくれた)


それが嬉しくて、胸の奥が甘く痛む。


だが同時に、

彼の中の“獣の核”が静かにうごめく。


――あれが全部、自分だけに向けられたらいいのに。


その願いはあまりに強すぎて、

自分でも抑えきれない一瞬があった。


エレノアが村で注目されていたとき。

奥さんに心配されたとき。

エレノアを“見た”視線が他人に向いていたとき。


胸の奥で、獣が牙を出した。


(……僕は、まだうまく“人”をしていない)


エレノアが望むのは“獣”ではなく“人”だとわかっている。

だから、今日は手を伸ばしても触れなかった。

頬に触れそうになって、寸前で止めた。


エレノアが“怖がる”ことだけはしたくない。


だから――


「ゆっくり……いけばいい」


低く呟いた声が、

暖炉の明かりの中で静かに溶けた。


(エレノアが“僕を欲しい”と思ってくれるその日まで)


そう思ってしまった自分に、

ルベルは気づかないふりをした。




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