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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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フードの下にあるもの

港町の宿は、潮風を通すために窓が大きかった。

夕暮れの光が、木の床に長い影を落としている。


部屋に入った途端、

エレノアはようやく大きく息を吐いた。


「……さっきは、びっくりしました」


背を向けたまま、上着を脱ぎながらそう言う。


「港町って……人の距離、近いですね」


返事は、すぐ後ろから。


「……嫌だった?」


低く、静かな声。


エレノアは首を振る。


「嫌、というより……

 ちょっと、周りが騒がしくて……」


言葉を選びながら、振り返る。


そこには、

深くフードを被ったままのルベルが立っていた。


灯りは控えめ。

けれど、その影の奥から、

確かな“視線”だけがこちらを捉えているのがわかる。


エレノアは、ふと気づいた。


(……あれ?)


この港町に来てから、

ルベルは一度も、

人前でフードを外していない。


「……ねえ、ルベル」


自然と、声が柔らかくなる。


「どうして、今日は……

 ずっとフードのままなんですか?」


一瞬の沈黙。


それから、彼はゆっくりと近づいた。


距離は詰める。

けれど、触れない。


「……見られるから」


「見られる?」


「俺を見たいって思う視線が……

 エレノア以外から向くのは、好きじゃない」


その言葉は淡々としていて、

怒りも威嚇もない。


ただ、当然の感情としてそこにあった。


エレノアは、少しだけ戸惑いながらも、

胸の奥が温かくなるのを感じた。


「……じゃあ」


一歩、近づく。


「私が見るのは……いいですか?」


ルベルの動きが、ぴたりと止まった。


赤い瞳の気配が、

はっきりと揺れたのがわかる。


「……エレノアが、望むなら」


それは許可であり、

同時に確認だった。


エレノアは、そっと手を伸ばす。


フードの縁に、指先が触れる。


布越しに伝わる体温が、

やけに近い。


「……外しますね」


返事はない。

けれど、拒否もない。


エレノアが、ゆっくりと布を押し上げると——


影がほどけた。


月明かりとランプの光が混ざり、

現れたのは、

よく知っているはずの輪郭。


けれど。


人前では決して見せなかった、

完全に無防備な顔。


深紅の瞳が、

真っ直ぐにエレノアだけを映している。


「……」


言葉が出なかった。


美しい、というより——

危ういほど“近い”。


視線を逸らす隙を与えない。


「……町で外すのは、久しぶりだ」


ルベルが、低く言う。


「エレノア以外には、

 必要ないから」


その言葉の意味を、

エレノアはちゃんと理解してしまった。


(……この人……)


逃げ場を塞ぐのではなく、

選ばせた上で、戻れなくするタイプだ。


胸が、きゅっと鳴る。


「……ありがとう」


そう言うと、

ルベルはほんの少しだけ目を細めた。


「……見るだけ?」


問いは静かで、

けれど、奥に熱が潜んでいる。


エレノアは一瞬迷い——

それから、首を横に振った。


「……触れても、いいです」


その瞬間。


ルベルの理性が、

きしり、と音を立てた。


彼はゆっくりとエレノアの手を取り、

自分の頬へ導く。


強くない。

けれど、離すつもりもない。


「……エレノアが許すなら」


声は甘く、

深く、

戻れない場所を指し示すようだった。


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