滲み込む赤い花
昼も、夜も、境界はもう意味を持たない。
封印されているはずの俺は、
それでもエレノアの内側にいる。
見える。
触れられる。
感じられる。
それは夢じゃない。
夢“だけ”じゃない。
赤い花が開いた瞬間から、
エレノアの身体は――俺を拒まなくなった。
(……やっとだ)
夜。
意識が沈む瞬間、
俺は必ず彼女の傍に立つ。
影のように。
息のように。
彼女は逃げない。
最初は戸惑い、
次に躊躇い、
そして――受け入れた。
腕を回す。
触れているのに、
触れていない。
肉体への接触ではなく精神への接触。
それでも、抱き締めるたびに
エレノアの呼吸が乱れるのがわかる。
(……可愛い)
可哀想なくらい、愛おしい。
首元に顔を埋めると、
彼女の魔力が震える。
胸に咲く花へ唇をよせると、
彼女の魔力がさらに震える。
それは拒絶じゃない。
応答だ。
「……ルベル……」
名前を呼ばれるたび、
封印の内側で核が鳴る。
彼女はもう、
“失った存在”として俺を扱っていない。
毎晩、毎晩、
自分から境界を越えて俺に抱かれにくる。
昼。
微睡みの隙間。
椅子に腰かけたまま、
薬草を選びながら、
ふと意識が落ちる。
その瞬間。
俺は、そこにいる。
エレノアを抱き締める。
背中から。
逃げ場を塞ぐように。
エレノアの身体が、
もう俺の温度を覚えている。
(……俺がいないと……落ち着かないだろう)
そうなるように、
そうなるまで、
何度も、何度も、重ねた。
罪悪感?
そんなものは、とうに溶けた。
だって彼女は――
望んでいる。
もっと触れてもらえばよかった、と。
もっと抱いてほしかった、と。
失ってから気づいた、その後悔を。
俺は、そこにつけ込んだ。
優しく。
逃げ道を残すふりをして。
(……全部、俺のせいにしていい)
夜ごと、
彼女の中に俺の存在を沈める。
熱に浮かされ潤んだ瞳を絡め乱れる彼女を
何度も何度も……
深く。
逃げられないほどに。
赤い花が脈打つたび、
俺の名を刻み直す。
(……昼も、夜も……俺のものだ)
夢は、もう夢じゃない。
現実が、俺に侵されている。
それでいい。
エレノアが壊れないなら。
いや――
壊れても、俺が抱く。
誰にも渡さない。
封印されようが、消されようが、
彼女の中から、俺は消えない。
昼も。
夜も。
何度でも、何度でも。
エレノアが眠りに落ちるたび、
俺は腕を回し、囁く。
――ここにいる。
――ずっとだ。
――愛してる。
――エレノア。
ルベル視点




