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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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月夜の開花

赤い花は、もう“痕”ではなかった。


朝、鏡の前に立つと――

鎖骨の内側、心臓に近い場所で、

花弁の輪郭がはっきりと浮かび上がっている。


淡かった赤は、深く、濃く。

脈打つたび、微かな魔力が滲む。


(……昨日より……はっきり……)


触れようとした指先が、ぴたりと止まる。

触れた瞬間、呼ばれると分かってしまったから。


それは夜だけのものでは、なくなっていた。


昼。

研究机に向かい、書を広げたまま、

ふっと意識が揺らぐ。


紙の白がにじみ、

次の瞬間――


湖畔だった。


水面は静かで、風はなく、

かつてルベルと並んで立った場所。


背後から、

“いる”という確信だけが降りてくる。


触れられてはいない。

それでも、抱かれていると錯覚するほど近い。


(……だめ……今は……)


拒む言葉は、喉で溶けた。

微睡みは、抗うほど深くなる。


別の日は、家のリビング。

暖炉の前。

椅子に腰かけたまま、瞼が落ちる。


そしてまた、

ルベルの部屋。


ランプの光。

木の匂い。

思い出が、現実と同じ密度で再生される。


(……夢……なのに……)


違う。

もう、夢ではない。


日常が、侵食されている。


赤い花は、そのたびに色を増した。

花弁は重なり、

中心部に、淡い光の核が生まれる。


そして――満月の夜。


空は雲ひとつなく、

港町の月は、白く、冷たく、完璧だった。


胸の奥が、熱い。


(……来る……)


逃げるより早く、

花がひらいた。


痛みはない。

代わりに、世界が――澄んだ。


音が遠くまで届く。

魔力の流れが、糸のように見える。

そして何より――


“呼び声”が、はっきり聞こえた。


――エレノア。


声は外からではない。

内側から、魂の裏側から。


赤い花の中心で、

小さな魂核が、確かに応答している。


(……ルベル……?)


返した瞬間、

視界が白と赤に満ちた。


開花は、能力変化を伴っていた。


夢と現実の境界が、薄れる

魂核への感応が、常時発動する

封印された存在と、双方向で繋がる


それは祝福ではない。

呪いでもない。


――繋がった結果だ。


満月の光が、窓から差し込む。

床に落ちた影が、一瞬だけ――二人分に見えた。


エレノアは、静かに息を吸う。


(……もう……戻れない……)


それでも、怖くはなかった。


赤い花は、完全に開いている。

そして、彼女自身が“鍵”になった。




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